第30回 「ぬ」に送られた読み札たち
ぬかづけ みそしる しろいめし

おいしく漬かった糠漬けに、
湯気の立つごはんとおみそしる。
もう、これだけあれば‥‥とウットリしてしまう日本人、
決してすくなくはないと思われます。

シンプルで力強い日本の食の一枚を紹介しつつ、
はじまっております「カルタ・ド・ニッポン」。
2008年末から2009年頭にかけてあらためて募集した
「ぬ」「ね」「む」「め」「よ」「ろ」
ではじまる読み札には、びっくりするほど
たくさんの投稿をありがとうございました!

今回、ご紹介させていただくのは、
「ぬ」に寄せられた読み札です。
たしかに、「ぬ」ではじまる言葉、
そんなに多くはありませんよね?
にもかかわらず、
ほんとうに多くの「ぬ」が届いております。
最も多かったのは、
冒頭に挙げた「糠漬け」をテーマにした作品でした。
続けて3作品ご紹介いたしましょう。

ぬか床が 遺産相続 されました
ぬか床を 「ちゃん」付けで
ぬかどこを 連れてゆく

どれも糠漬けへの並々ならぬ愛情があらわれています。
糠漬けの作品は、まだまだ。

・ぬか床は一日にしてならず

・ぬか漬けと新米

・ぬか床の おすそ分け

・ぬか漬けが 残っているから もう一杯

・ぬか漬けのうまい 定食屋

・糠漬けを しゃもじで混ぜる 寒い朝

・ぬか床 たまには 声かけて

「糠漬け」のラストは、こんな一枚をどうぞ。

ぬか漬は 苦手なんです、 お義母さま。

このシチュエーションって‥‥
嫁と姑の、あれですよね?
新旧のライフスタイルが
日本の家庭内で糠漬けをめぐってぶつかり合う、
バチバチの緊張感が伝わってきました。

さて、「糠漬け」の次に多かったのが、
これについての読み札だったのです。

ぬらりひょんって なんかすごい

ぬらりひょんというのは、妖怪のことです。
なんでこれがこんなに多かったのでしょう?
メールボックスにずらりと並んだ「ぬらりひょん」の文字。
かなり奇妙な光景でした。

・ぬらりひょん 名前だけなら 知っている

・ぬらりくらりと ぬらりひょん

妖怪ブームということもあるのでしょう、きっと。
『ゲゲゲの鬼太郎』にも登場しますものね、ぬらりひょん。

・ぬらりひょんが 好き

・ぬらりひょんに 逢いたい

ああ、好きなんですねえ、ぬらりひょんが‥‥。

・ぬらりひょんに あいたくて 旅にでました

・ぬらりひょんに なってみたい

そ、そんなに好きなんですか‥‥。

・ぬらりひょんが そこに

・ぬらりひょんが居た。

‥‥ついに、目撃者が。

実は「妖怪」の読み札はこれだけではありませんでした。
「ぬ」ではじまる妖怪は、ほかにもうひとつ、
おわかりでしょうか‥‥。

ぬりかべを ふと思い出す 帰り道

これには、思い当たる感覚がありました。

・ぬりかべに 道塞がれた

という投稿作もありましたが、

・ぬりかべは けっこう有名な妖怪

ですので、幼いころ、
みちくさをした夕暮れの下校途中に、
ふとそんなことを思って駆け足になったような‥‥。

ぬりかべの読み札は、ほかにも。

・ぬりかべって いいたくなる

・ぬりかべに 似たる こんにゃく

・ぬりかべに 似ている 上司

妖怪の読み札はこのくらいにしまして、
「ぬ」の読み札、どんどんまいりましょう。

抜け穴 近道 石榴の実

石榴、むずかしい漢字ですがこれは「ザクロ」ですね。
秋の景色が思い浮かぶ、きれいな作品です。

「抜」という字でくくられる、「ぬ」の作品をいくつか。

・「ぬけたい」と言えぬ 日本人

・抜けた歯を 大事にしまう

・抜け殻を 手にとり思う せみの声

・ぬいた野菜は まだちいさい

・ぬかせない 改札、行列、年功序列

なぜだかここは、
しみじみと日本人らしい作品が多く並んだ気がします。

ぬきあし、さしあし、 しのびあし。 昔の泥棒はかわいいな。

ほんとだ、泥棒なのにちょっとかわいい感じ。
泥棒つながりで、こんな札はどうでしょう。

盗人猛々しいとは、 「子」のことだ

久々に言いたいだけの札?
と思いきや、よくよく味わえばそうでもないようで。
なかなか味わい深い作品といえるのではないでしょうか。

続きましては、
「濡」という字でくくられる「ぬ」の作品を。

ぬれせんべいの 歯ごたえ
ぬれせんべいへの 探究心

ぬれせんべいの作品も多数でしたが、
とくに印象的だったのが上の二枚。
はじめてぬれせんべいを食べたとき、
「そうきたか!?」とびっくりしましたよね。
その感覚が含まれているのを選んでみました。

ぬれた瓦が 光ってる
ぬれた 犬のにおい

と、この2作品も印象的。
どこがどう印象的かという解説は難しいのですが、
どちらも、その光景が、匂いが、
体に直接伝わってくる作品だと思いました。

で、わかりやすいのはこちら。

濡れ場では 話をそらす両親

思い当たりますよねー。

漢字を変えて続けます。
「温」、「ぬるい」「ぬくい」として
寄せられた作品も多数でした。

・ぬくいこたつでアイス

・ぬくもり残る 布団で 二度寝

・ぬくもりは 3億円でも 買えません

・ぬくぬくは、肉まんのちょうどよさ

やはり「温」ですから、
ほのぼのとあたたかい作品が並びます。

・ぬるま湯に 由美かおる

という言いたいだけ札も
元気いっぱいで届いておりましたが、
「温」の締めには、こちらをどうぞ。

温水さん‥‥ あ、間違えました。

現代の日本で「温水さん」といえば、
まずまちがいなく俳優の
温水洋一(ぬくみずよういち)さんのことなわけで‥‥。
なにをもってして、この人は
温水さんに間違えられてしまったのか‥‥。
たいへん味わい深い読み札です。

ぬるっとした 美味いもの

あります、日本には。
ぬるっとしたおいしい食べ物が。
納豆、里芋、山芋、ジュンサイ、ナメコ、メカブ‥‥。
「ぬるぬる」「ぬめぬめ」ではじまる読み札も
かなりたくさん寄せられました。

・ぬるぬるを 楽しんで食べる

・ぬめりも味の一部です

・ぬめりを食べて 健康

・ぬちゃぬちゃと 朝の食卓 BGM

今回の最後に、
気になりました「ぬ」の札を
続けて4作品ご紹介いたしましょう。

ヌンチャクで、自爆。

時をこえて、
ブルース・リーの影響ってすごい。
ヌンチャクって、沖縄発祥という説もあるそうですよ。

主がいる 沼にも池にも 主がいる

最初に連想するのは、河童でしょうか。
あとは大きなナマズとか。
たしかに日本には、
各地に主(ぬし)がいると思われます。

ぬい針が 一本足りない

大奥では、針をなくすと大変なことに。
有名な史実です。

ぬん、 と出ている 銭湯の煙突

ぬん、という表現がすてきでした。

というわけで、
「ぬ」の読み札はこんなところで。

ここまでお読みいただいてお気づきでしょうが、
以前の「キープ札」の制度は廃止しております。
今回、選ばせていただいたのは、
一次予選のようなものとお考えください。
「ね」「む」「め」「よ」「ろ」まで
一次予選を行いましたら、
そこでまた委員長・糸井重里による
最終選考会を行います。

さあ、いよいよ、
ひとそろいの読み札がそろいそうな予感。
なにしろむずかしい「ぬ」に
こんなに投稿があるとは思いませんでしたから。
もちろん、「ね」「む」「め」「よ」「ろ」にも
たくさん届いておりますよ。

次回、
「ね」に送られた読み札たちの発表をおたのしみに!

2009-01-20-TUE
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