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April
燕のブローチ 1

19〜20世紀はじめにかけてのイギリスで
ジュエリーのモチーフとして人々の心を惹きつけた鳥は
いくつか存在したが、代表的なものといえば燕である。

私も、このモチーフには目がない。
ふたつに分かれた特徴的な尾と
すいっと高速で空に弧をえがくスマートな姿。
それに、燕をかたどったジュエリーは、
見た目が優美で愛らしいだけでなく
実は、さまざまなメッセージを隠し持っているのだ。

燕は、以前書いた白鳥と同じように
伴侶や家族を大切にする鳥である。そうした習性から、
とくにヴィクトリア時代には愛の象徴とされていた。

一方で、暖かい季節になると古巣へ戻ってくる
渡り鳥でもあるため、遠く離れた場所に旅立つひとへ
「無事に戻ってきてください」
「旅立ちが幸のあるものになりますように」
という思いを込めてプレゼントしたり、
逆に、旅立つひとが、残していく家族や友人へ
「あなたのもとにまた帰ってきます」
という約束のしるしとして、
あるいは恋人へ、恋のメッセージとして
贈ることもあったそうだ。

「私の心はあなたにつながれています」
「どうか私を忘れないでください」

第一次、第二次世界大戦のころになると、
こうした想いを伝えるジュエリーは
モチーフ、デザインにも新しいものが登場し
いっそう人のあいだを行き来した。
それはごく自然なことだっただろうと思う。
戦争で物資が不足すると、贅沢な素材を使った品というわけには
いかなかったが、形に秘めた心の声を、人々は届けようとした。
ジュエリーであれば、毎日身につけることができて
少しは気持ちを明るく、華やかにさせ、
淋しさをまぎらわせてくれるのでは、という考えもあったのだろう。

日本の4月は、多くのひとたちが住み慣れた土地を離れて
新しい生活をスタートさせる月。
ちょうど、燕がまた渡ってくる季節でもある。

不安も期待も、少しずつ足もとに着地していって、
新天地での暮らしが、うまくいきますように。

今月は、旅立ちにふさわしい3つのブローチをご紹介する。

 
2014-04-22-TUE

 
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