大丈夫な理科系の対談。

第1回 ICOTの研究者たちって?



糸井 研究者っていうと、マッド・サイエンティストみたいな、
紙一重の方というのもいらっしゃるんですか。
内田 そういうのが多いんですよ。
糸井 ストレスですかねぇ。
内田 じゃないんですよ。
「フォレスト・ガンプ」なんてあったじゃないですか。
糸井 サヴァン症候群みたいな。
内田 あれのちょっと普通のやつが研究者。
才能が特化してるんですね。
鶴見 普通の「フォレスト・ガンプ」?
糸井 世界的でない「フォレスト・ガンプ」(笑)。
内田 いや、世界的になればなるほど、
「フォレスト・ガンプ」になっちゃうんですね。
糸井 それがもっと弱いわけですね。
内田 ちょっと、弱いですね。
東大の先生なんだけどジャズピアノの名手で、
バーで専属で雇われてる人よりうまい人とかいますよ。
囲碁将棋の強いのは、当然、山のようにいるし。
糸井 うーん。
内田 でも、運動方面が駄目なんだね。
文武両道にはならない。
そういう人を200人ぐらい見たわけですけどね、
面白いですよ。
糸井 そんなに不思議な人がいっぱいいましたか。
内田 200人のうち3分の1は、
世界に対して通用する紙一重です。
糸井 でも、すごい率ですね。
どうやって探してくるんですか?
内田 学会とかそういうのをしょっちゅう見ていて、
いいなと思う人材を、
ちゃんと取るようにしてるわけです。
糸井 ボリショイサーカスみたいなもんですね。
内田 農耕栽培に近いかもしれないですね。
よくあの、ファッションモデルになるような方とか、
役者さんになるような人を見つけるときには
小学生のときからこの人はと目をつけて、
成人とか18とかになるまでずーっと待つでしょう。
まさにそれは農耕栽培だということを
どっかで読んだことがあるんですけども、
それと同じなんですね。
だから、大学の学部のあたりから
目立つ人間というのを
ちゃんと見てましてね。
糸井 研究者の場合、そういうのは何歳くらいから
わかるものなんですか。
内田 それが、わかんないんですよね。
我々が見られるのは、
計算機なら計算機の世界に入ってきたときが
初めてで、それ以前がどうであったかというのは
わからない。
自分の関係、周りにきた人はもちろん
聞きますけれどもそれ以外は分からないですね。
糸井 聞いてみたいですね。
内田 面白いですよ。
糸井 たくさん例を見てみたいですね。
内田 ホームページにICOT時代に出会った
奇人変人を紹介してる大学の先生もいます。
その人もICOT時代は、
立派に奇人変人だったと思いますが
極端に学問の得意不得意が偏るとか。
例えば、北海道から来たある数学者は、高校のとき、
ともかくお前が入れるのは東工大だけだと言われた。
なぜかっていうとあそこは、数学と物理で点稼いで、
国語は入学試験科目にないから。
国語と社会のあるところは
おまえ絶対に入れないからっていうほど、
偏っていたんですね。
糸井 「絶対入れない」っていうレベルまで、できないんだ。
数学と物理はできても。
そういうことってあるんですかね。
内田 あるんですよ、ホントに。
興味ある世界へ没入しちゃうんですね。
糸井 内田さん自身はそういうサーカス団みたいなところの
団長をなさってるわけですけど、
ご自身はどうなんですか。
内田 やー、ご自身は普通ですよー(笑)。
福嶋 マネージメントができる人ですから。
糸井 安心な付き合いができるわけね。
福嶋 あまりに異常だと
ついて行けないかもしれないですけどね。
糸井 でも、マネージメントって言っても
いろんなマネージメントがありますよね。
僕の知ってる理科系の社長やってる方は、
もちろんマネージメントやるし、
プログラマーだったりするんだけど、
話してるとやっぱり発想が非常に、
「チャート」にできるんですよ。
見習わなきゃいけないなと思うんですけども。
その人は、歴史と国語はダメだったみたいな、
そういうことではなさそうだし。
内田 私のほうは逆で、数学や物理は苦手な方だったんです。
趣味としてね、ラジオ少年ではあったけど。
糸井 いわゆる工作の方で。
内田 だからアマチュア無線とか、
自分でコンピュータ作るとか、
そういう事は職人系なんですよ。
理科とかそういうことじゃないレベルで。
糸井 あれは理科とかじゃないんですか。
内田 ええ。
糸井 何なんですか。
やー、わっかんないな(笑)。
内田 学校で習ったようなこと何も使わなくても
コンピュータはできるし、
プログラムは書けますから。
糸井 やになったり、壁にぶつかったときに
理科系の知識が必要とかいうことはないんですか。
内田 本に書いてあるようなことは
現場では信じられないくらい役に立たないですから。
まあ、これは日本の教育の
悪いせいでもあるんでしょうが。
むしろ経験ある先輩とかから聞く。
料理は、先輩の職人さんの技を脇で見て盗め、
って言うでしょ。同じ感じがありますよね。
私のボスは“第五世代”のコンセプトを作った人です。
まあ、お会いになると私なんかよりずっと
面白いと思うんですけどね。
その人は、紙一重型なんですよ。
糸井 孤高の天才みたいなもんですか。
内田

ええ、非常にそうですね。
例えばですね、
東大にはいろんな先生がいらっしゃるし、
彼も、東大から通産省の研究所に来たんですけれども。
東大の先生の中にも
大勢の取り巻きを抱え込んじゃう人いますでしょ。
イエスマンみたいな人ばっかりを
周りに抱え込んじゃって、
まあそれゆえに勢力をお持ちになると。
イエスマンといっても
世間のレベルからすれば非常にインテリジェントな
人達なわけですから、
ひとつの大きなグループを作ると、
強大な権力になるわけですね。

糸井 うーん。
内田 そういう方と、孤高の一匹狼的なのがいるわけで、
ユニークな仕事をするのはそっちのほうなの。
糸井 あー、それは、ユニークさっていうのは、
僕らには図りようのないイメージなんですけども。
ずーっとコンスタントにユニークな
仕事ができてるっていう
ものではないわけですよね。
内田 ええ。
糸井 ある時期、爆発してっていうようなものなんですか。
内田 むしろね、あの、やっぱり私が見た限りでは、
みんなすごい努力家で、バケツの水にレモンを一滴ずつ
絞って貯めてくように勉強して、
たまたまバケツがいっぱいになったときに
外の人に見える形で、成果に見えるという感じ。
糸井さんはそういった意味では多才ですから、
見てて器用な方だなぁと思いますよ。
不器用だったらきっと
紙一重になってたんじゃないでしょうか。
やっぱり平均化しちゃうといけないんじゃないか。
糸井 僕は簡単なんですよ。
やってることがたくさんないんです。
実はコミュニケーションしかやってないんです。
そこに肉付けをしているんです。
最終的な外形が違うだけで、
骨組みは全く一緒ですよ。
内田 そうですか。
糸井 いろいろやってるように見えるのは、
そう見えてるだけですね。
器用不器用で言うと、
身近にいる人は知ってますけど、
僕はあんまり器用じゃないですね。
内田 人との付き合いが広いっていうだけで、
多様化しちゃうんですね。
糸井 ああ、そうですね。
内田 反射しますでしょ。
糸井 はい、します、します。
内田 やっぱり、そこも狭くないと駄目なんです。
糸井 はー。
それができないくらいになんないと。
内田 だからね、あいつの言ってることは
あいつにしか分からないとかね。
例えば、そういう意味では私のボスっていうのは
興味があってね、
私はいろいろ研究させていただいたんですけど。
糸井 ボスを研究したんですね。
内田 面白いんですよ。
講演頼まれると何かもう、OHPも何も準備しないで
非常に不親切で得々と抑揚なく
1時間くらいしゃべって終わるんですよ。
そうすると、例えば、聞きにくる方っていうのは、
それなりに素養のある人が聞きに来てるんですけども、
半分は大感激、半分はまるっきり分からない、
っていう感じに二分されるんですよね。
糸井 そのボスご自身はみんなに伝えたいっていう気持ちは、
無いんですか。
内田 ものすごくあるんです。
糸井 ものすごくあるんですか。
内田 自分としてはね、ものすごく易しく話したつもりなの。
ものすごくサービスしたつもりなの。
でも方向が違っちゃう。
糸井 それは、一般的には下手と言われますよね。
福嶋 話の内容はすごく面白いですね。
内田 こういう人もいるんです。
福嶋さんは面白かった?
福嶋 面白かったですよ。
内田 それはあなたが変わってるんだ。
福嶋 あ、そうですか(笑)。
内田 だからね、変わってるっていうか、
人を集めてパッと2つに分けて
こっち側にいるんだね。
だからね、あなたは私のいるところで
それなりに楽しめるわけよ。
福嶋 じゃ、面白くない人は、面白くないと思うんだ。
内田 面白くないどころか、逆ですよ。
がっかりしちゃって嫌悪感ですよ。
糸井 でも、面白くないっていうのは
どういう仕組みになってるんですか。
内田 わかんないですよね。
福嶋 一般的に受ける
プレゼンテーションの仕方はしないですね。
ただ、自分の頭の中にあるものを
そのオーダーにしたがってだーっと並べていくんです。
内田 だから、その時に自分が面白いと思っている軸で
しゃべるんだよね。
糸井 だけど、それは僕らだって同じだと思いますよ。
内田 それがすごくシャープになってるんでしょうね。
私の役目はボスのインタープリターなんですよ。
お金を貰わなきゃいけなかったり、
人を貰わなきゃいけないときは、
メーカーの重役さんとか、お役人さんとかを、
それなりに説得したいと思うし。
その方に合うようにインタープリートしてさしあげると
喜ぶじゃないですか。
ボスもそこのところよく分かってるから、
私を研究者として使うことはほとんどなくて、
もっぱら・・・
福嶋 側用人。
糸井 杖のような。
内田 側用人、プラス、マネージャーのように。
例えば人を採用するときの人の見極めなんていうのは
ボスにかかると、
ほとんどにバツ印がついちゃうんですよ。
福嶋 厳しいわけですか。
内田 厳しい。
自分と同じようなレベルで
ずーっと本を読み通せるかとか、
っていうのを見るでしょ。
でも、物を作ったり、組織を作るときには
山の裾野も要りますよね。
糸井 はい、はい。
内田 一本の棒では支えられないですから、
なるべく裾野の広い山を、
ピラミッドも三角形で下があるから高くできるし、
高くしようと思ったら下を広くしないといけないでしょう。
でもボスにそういうような感じはないんですよ、
やっぱり。
こいつは自分の好みだとか、
こいつなら新しいアイディアが
出せるとかっていうところはいいわけですけども、
物を作って実証しなきゃなんないという時には、
工員さんもいるわけですよね。
糸井 壮大な映画を作るみたいな感じになるわけですね。
内田 いろんなスタッフが、いろいろ必要で。
例えば、ある意味じゃ非常に価値がないと思うような
箱を作る人とかいるじゃない。
筐体(きょうたい:電子計算機の主要部分を格納する
箱型の容器)とか。
例えば、大道具さんとか小道具さんとかいるし、
役者と脚本とミュージックディレクターっていう
重要なポジションにいる人だけでできるんじゃないのが
プロジェクトなわけですから。
彼はそこが苦手だっていうことが分かってるわけです。
糸井 自分はそういう人がいなくても
いいんじゃないかとさえ思ってる。
内田 一人で考えてるときにはいらないけれども
彼も自分のアイディアを・・・、
かなり壮大なアイディアですから、
それを建築するためには
自分一人じゃないパートナーがいるというのは。
糸井 そこは分かるんですね。
内田 だから、そこで、それができて、
なおかつ自分の言語が理解できるのは、というので。
糸井 それは、もう内田さんを当てにしてるって
いうことじゃないですか。
内田 だから、とっ捕まえて連れてきたんでしょうね。
私はボスの直接の部下ではなかったから。
糸井 だから、もうそのジャンルは
手を出さなくていいようにすれば
大きいプロジェクトも組めるっていうふうな。

2000-07-14-FRI

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