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井上陽水・
ゴールデンバッド対談。

井上陽水のB面は、一筋縄ではいかないぞ。

第17回 なにかに熱中したことのある気のいい世代

糸井 奥田民生くんが井上さんと一緒に音楽やってたときは、
ただ一人の後輩として、いたでしょ?
井上 そんな、彼が後輩だなんて気持ちは全然なかったよ。
見上げるような……大山みたいな(笑)。
糸井 井上さん、それ本音?
井上 ……本音。
そういえば、彼の前でもアガるというか。
糸井 ブイブイパワーのせいだけじゃないよね?
井上 結局なんか、日常の会話でね、
あの……なんて言うのかなぁ……、
会話が円滑にすすむために、
ちょっと“合いの手”とかさ、
もっと言うと“お愛想”とかさ、
ふつう人と話すときに入ってくるんだよね。
ま、簡単に言うと、そういうのが見事にないんだよねー。
そういう異様さってのは……感じたんだよね。
ま、向こうは向こうで、こちらに異様なものを
感じたんだろうけどさ(笑)。
糸井 さぞかし(笑)。
井上 会話のなかで、「そうですね!」みたいな、
合いの手のタイミングとか、声音とか、
さまざまな言葉があると思うんだけど、
そういうのがないんだよ(笑)。
大きな山だなぁ〜、みたいな。
糸井 奥田くんて、ときどき
心からうれしそうに笑ってたりしますよね。
で、彼がとっても親切だってことを
僕、知ってるんですよ。
初めて一緒に釣りに行ったときの話があって、
僕は釣りの初心者だったから、20代の新婚家庭みたいに
ヤリたくてしょうがないんですよ、釣りを。
釣りしてれば、なんでも楽しい。
で、ちょうど木村(拓哉)くんも釣りに行きたがってて、
もうブイブイパワーの時期なんだけど、
「いいっスよ。俺はいつでもスタンバイ状態」
という感じで。

で、木村くんが音楽番組で奥田くんと会ったときに、
「こんど釣りに行こう」って話になった、と言うから、
誘ってみたんですよ。
そしたら奥田くんも「いいっスよ」ってことで。
彼らは、本当に年齢相応の気楽さなんですよ。
俺は俺で、その年齢のオヤジなんですよ。

で、釣りしてるときにさ、
釣りの世界の言葉で“バックラッシュ”といって
糸が絡まってどうしようもない状態のことなんだけど、
俺の釣り糸がそれになっちゃってさ。
そしたら、奥田くんは俺と遠く離れた場所で
釣りしてたんだけど、
「バックラッシュですか?」って走ってきて、
「これ、直し方があるんですよ」とか言いながら、
絡んだ釣り糸を全部きれいに直してくれて、
「これで大丈夫だと思います」
って言って戻って行ったのよ。

あ……、今のはちょっと言葉が多すぎた。
もっと言葉少なに「合いの手がない」感じで(笑)。
そんな感じで、僕の糸を直してくれて、
その時に「この人はすごい!」と思った。
井上 (笑)。
糸井 だって、釣りしてるときって、まず自分が釣りたいし、
人の手助けって本当は面倒くさいはずなんですよ。
だけど、奥田くんが他人の糸が絡んだのを
遠くから気づいて、直してくれて、戻っていったとき、
「俺もこういう釣り人になろう!」って思った(笑)。
「俺、バックラッシュ直すのうまいんス」
というような青年なんですよ。
と同時に“大山”なんですよ。
俺も、たしかに、下から見上げてるわ、
奥田くんを。
井上 ……俺も、見上げてる(笑)。
だけどさ、俺たちって“分が悪い”というか、
結局、僕らって、あの年代から見ると、
まあ、簡単に言うと、
すごくわかりやすい構図なんだろうね。
俺たちの動きとか、さまざまなものが。
やっぱり下の世代から見ると、
「井上さん、糸井さん、
 あそこで転んでるんだ……」とかさ、
ぜーんぶお見通しって状態だよね。
糸井 はぁ〜、そうかもしれない。
俺、それを“みうらじゅん”にも感じるのよ。
いや、俺はアイツは見上げてないの、べつに(笑)、
でも、なんかね、ズルいと思うんだよ。
俺のことを“すごくワルいオトナ”として、
面白くネタにして、人にさんざん大げさに語って、
「糸井さんはコワい」って言うんだよ(笑)。
でも、そういうブロックとして
物置きに入れてるじゃないですか、俺を。
コワくもなきゃ、なんでもないんですよね、
ホントは、それを知ってるわけよ(笑)。
井上 でも、ずいぶんもちあげてたよー、糸井さんを。
「あの人のおかげで今の私がいる」みたいな。
糸井 そーなんですよ。
だから、あのもちあげ方っていうのは、
たとえば、俺らが出かけるときに、
「スーツ着てさえいれば、あとは、いいんでしょ」
と言うのと同じなんですよ。
で、スーツ着てるから、思いきり頭たたいてもいい、
みたいな(笑)。
でも、陽水さんについては、
“みうら”さんは、そーいうことはなかったですよ。
「俺なんかのことに、そんなにかまけている
 井上陽水って人は、変な人だ」って(笑)。
井上 アナタ……なぁーにを言ってんの?
しかし、もろバレですよ、
私らあたりの“団塊の世代”は。
なんたって僕ら、学生運動とかあったでしょ。
で、ビートルズがあって……。
「なにかに熱中したことのある、気のいい世代ね」
ってところが……あるのよ(笑)。
糸井 それ、バレてるね。
井上 物事に熱中したことのある、気のいい世代……。
糸井 さらに言うと、
そのことを人に押し付けないし、
それがいいとも言わない……そういう世代。
井上 ……まずいよねぇ?
糸井 まずい。バレてる。
だから、井上さんは、そういう怒りが歌に出るんだ。
「そう簡単に、わからせまいぞ!」と。
井上 (笑)。
糸井 ……話を“BAD”に戻しましょうか。
長い話になってきてますけど。

(つづく)

2000-08-25-FRI

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