第13回 なにもしてないと思われちゃう

糸井 だから、なんだろう、
時間をかければいいというわけじゃないし、
予定どおりにうまい絵が描けても
おもしろくもなんともなかったりするわけで。
荒井 そう、そうなんですよ。
そのあたりがうまく伝わらないっていうか。
糸井 集中しろとか、緊張しろとか、
そういう張り詰めた状態ばかりが
すごいものみたいに言われるけど、
集中やら、緊張って、
すぐパターン化しちゃうからね。
荒井 そうそうそう、そうなんです。
糸井 たとえばイチローがルーティンとして
集中の様式を守り続けるっていうのは
オレたちがどうこう言える
次元じゃないと思いますけどね。
でも、イチローにしたって、
あれを何度も何度もくり返せるのは、
相手のピッチャーが違う球を
投げてくれるからですよ。
荒井 うん、うん。
糸井 まぁ、いっしょにしちゃ
いけないのかもしれませんけど、
ただ机に向かって
集中してればいいんじゃない
っていうのはありますよねぇ。
荒井 あります。
糸井 そのへんはわかってほしいなぁ。
あと、「苦しまぎれ」っていう
最後の武器が残されてて、
それがもう、ものの見事に
風景を変えちゃったりしますからね。
荒井 あーーー(笑)。
糸井 その意味では、もう、ぼくなんて、
「苦しまぎれ教」の教祖‥‥じゃない、
信者ですから、信者。
一同 (笑)
荒井 教祖じゃないんですね(笑)。
糸井 信者です、信者。
なんていうのかなぁ、
どこかにひそんでる「裸の自分」に
会えるまではほんとの力は出ない、
みたいなところがありますから。
荒井 そう、そう。
糸井 それまでは、なんていうか、
信用して安心しておいてくれ、
みたいなところはありますよね。
うーん、だから、
ものすごく威張って言えばさ、
ばかやろう、オレが、何十年、
苦しまぎれにやってきたと
思ってるんだよ、っていうことで。
一同 (笑)
荒井 はははははは。
糸井 その、なんていうか、
そんじょそこらの、
ぽっと出の一所懸命やるやつと
いっしょにしてくれるなよっていう。
むりやり仲間にするわけじゃないけど、
それは、荒井さんだって言えるでしょ。
荒井 言えます、言えます、それは言える。
糸井 そういうことが言えるまでに、
ほんと何十年、かかってますよね
荒井 ようするに、あの、
なにもしてないと思われちゃうんですよね。
糸井 そうそう(笑)。
荒井 やっぱり、絵を描くことって、
こうやって白い紙に向かって
筆を持つことだと思ってるから、
早くしてくださいって
催促する人にとっては
なんにもしてないように見える。
でも、自分の中では進んでるんですよ。
絵は真っ白なまんまかもしれないけど、
ぼくの中では始まってるんです。
こう、ご飯食べながらでも、もう、
絵を描くモードに入ってたりするんです。
だけど、外からはそう見えない
っていうだけの話であって。
糸井 いや、もうそれは、ぜひ、
意識的になってほしいですね。
どんなにがんばったって
ほんとに集中できる時間なんか
限られてるに決まってるんだから。
荒井 うん、そうですよね。
糸井 こう、たとえば船がね、
波の上に浮かんで、ずーっと、こう、
ゆらゆらしてるじゃないですか。
あの時間も、ちゃんとカウントしてほしい。
どこにも進んでないからって、
船に乗ってないわけじゃないんだ。
一同 (笑)
荒井 なるほど、なるほど(笑)。
糸井 そう思いますよねぇ。
‥‥でも、オレと荒井さんが
おんなじタイプだから
こんなこと言って盛り上がれますけど、
そうじゃない人には
一喝されるかもしれない(笑)。
荒井 そうかも(笑)。
糸井 でも、ゆらゆらしてる時間も、
進んでる時間と同じなんだよなぁ。
わかってほしいなぁ。
荒井 (笑)



(つづきます)



2010-06-29-TUE