よく晴れた某月某日、
われわれが向かったのは、
神奈川県横浜市にある、鶴見大学歯学部でした。
ここに抗加齢医学(アンチエイジング医学)の最前線、
「日本抗加齢医学会」の副理事長である、
斎藤一郎(さいとう・いちろう)先生が
いらっしゃるのです。
そして鶴見大学には「アンチエイジング外来」があり、
老化度の検査や遺伝子検査ができるらしい!
ひゃあ、いろいろ、わかっちゃうんだよ。
どうしようどうしよう。

「それってさ、タロットとか前世占いで
 将来をみてもらうのと似たかんじかな?」

‥‥なんて往きの京浜東北線
(大宮・東京・横浜をむすぶJRです)の車中で
ぶつぶつ言っておりましたら、
あんのじょう、同行の西本が
やれやれという顔をしております。
わかってます。呆れているのだと思います。
言いたいこともわかってます。
科学的&医学的根拠に基づいた
データ解析による健康のための医師からの提案と、
「旅行するならどっちの方位がいいですかねー」なんて、
ぼくが趣味で見てもらう占いの結果をごっちゃにするのは
どうなんだ、ってことでしょう。

「その通りです」

いや、ぼくが言いたいのは、その、
結果を待つドキドキ感ていうかさ、
アメリカ横断ウルトラクイズの
「○×どろんこクイズ」みたいなさ。
ドーン、バシャーン、あっちゃー、みたいなさ、
そういう高揚感がね、ここにも、あるってことをね‥‥。

「武井さん、なにを浮き足立っているんですか。
 よくない結果が出ることばかりを
 想定してるんでしょうけど、
 ハイテンションでごまかす必要はありませんよ。
 まっすぐ、のぞみましょう。
 そもそもきょうはまず、検査ではなく、
 先生のお話をうかがいに行くんですから。
 あ、黒烏龍茶そんなに飲んで!
 いきなり効果があらわれるとも思えません」

いや、これはおいしいから飲んでるの!
‥‥いや、なんかね、ドキドキしちゃってね。
このドキドキでますます血圧が上がりそうだよね。

そうこうしているうちに鶴見大学に到着、
斎藤先生の研究室を訪ねました。

▲ダンディな斎藤先生。ジャケット型白衣がお似合いです!
 そして、お顔がつやつや‥‥。


こんにちは斎藤先生、今日はよろしくお願いします。
アンチエイジングのこと、いろいろ教えてください。
検査のことも知りたいと思っています。

「はじめまして、武井さん、西本さん。
 こちらこそよろしくお願いします。
 いきなり質問ですが、『アンチエイジング』というと
 これまで、どんなことを想像していましたか?」

はい、アンチエイジングといえば肌関係というか、
コラーゲンを食べると翌朝つるつる、
みたいな感じのことを考えていました。
自分にはあんまり関係ないかなあ、と。

「なるほど。アンチエイジングという言葉は、
 まだ世の中的にあまり正しく認知されてないんですよ。
 アンチエイジングをうたった商品やサービスも、
 ほんとうに玉石混淆なんです。
 今おっしゃったような美容関係では、
 これを飲むと若返るとか、
 これをつけるとお肌が何とか、っていうことを
 アンチエイジングだと思ってらっしゃる方が大半です」

なんとなく、よく耳にしますものね。

「ちなみにコラーゲンを飲んでも
 お肌つるつるにはならないんですよ、
 医学的に言えば。
 腸で吸収されて顔まで来るとは、
 医学を学んでる人だったら考えません」

えっ! そうなのですか!
フカヒレを食べたり、
すっぽんスープを飲んだ翌朝は、
なんだか顔がてかてかする気がしますよ!

「ただ太っただけ、ということもありますよね」

わーっ! そ、そうなんですか!

「コラーゲンやヒアルロン酸、グルコサミンっていうのは、
 口から入ると胃や腸で分解されて、
 排泄されて終わってしまいます。
 すっぽんやフカヒレのような食品は、
 あれだけ長い歴史があるわけですから、
 なにか他の作用があるのだと思いますけれども」

そうですか‥‥コラーゲンじゃないんですか‥‥。

「コラーゲンについては、以前、
 イギリスの医学雑誌で権威ある雑誌
 『ランセット』で、飲んだ時、
 変形性関節症に若干効果があった、
 という記事が出て、バッと広がったんです。
 けれどもその後、アメリカの
 『ニューイングランド・ジャーナル・メディスン』
 という、これも権威ある医学雑誌で検証してみたら
 まったく効果がなかったと報告されました。
 これらについては、
 整形外科の領域でもまだ議論がありますね。
 現在の医療従事者は、まず薦めないでしょう」

先生、顔に塗るというのもありますよね、
コラーゲン配合のクリームとか。
それはどうなんでしょう。

「顔に塗ると、コラーゲン自体の保湿効果で、
 しわになりにくい、ということですね。
 けれども肌から吸収されて
 皮下に届くわけじゃないんです。
 そこを混同しがちなんですよね。
 コラーゲンという音の響きで、
 そのまま肌の下のコラーゲンとイコールだと
 思ってしまうのは、間違いです。
 メディアって上手だなあって思うんですよ。
 ビジネス的に、感心します。
 あたかも肌から吸収するかのように
 思わせるのがうまいです」

なるほど。先ほど先生が
「アンチエイジング界は玉石混交」
とおっしゃった意味が
すこしわかったような気がします。

「そうなんです。ぼくら『日本抗加齢医学会』は、
 老化に抗うためには何をしたらいいのか、
 検証して議論する学会なのですけれど、
 そういう世間のアンチエイジング的なものについて、
 これは玉です、これは石ですと分けて、
 社会に伝えましょうということをミッションに
 仕事をしているわけです。
 社会では、アンチエイジングというのが、
 なんだか胡散臭いように
 扱われている部分もありますから、
 一般の方々に対して、なるほどって思うような
 医学的根拠を持っていろんなものを
 説明していくことっていうのが大事なんです。
 これからどんどん高齢化して、超高齢社会になる。
 どういった運動だとか、食事だとか、
 ライフスタイルっていうのがいいのか、
 ある程度医学的、科学的根拠を持って
 説明しなければならない時代に
 なってくるんじゃないかと思っています」

予防医学ということですね。
なんとなくですが、そういうことって、
日本は遅れているような‥‥。
欧米の人のほうが、進んでいるような?
ただのイメージなんですけれど。

「いえ、その通りです。欧米のほうが進んでいますね。
 一般の人のなかにも、正しい医療情報を得て、
 自らの生活に反映させたいっていう人が多いんですよ。
 日本は保険制度にたよって、
 病気になってからお医者さんに治してもらえばいい、
 という感覚が身についているんですが、
 欧米は、クルマと同じで、
 事故を起こす(病気になる)と保険料が高くなる。
 だから予防だとか、セルフチェック、セルフケア、
 セルフメディケーション、そんなふうに
 自分自身でチェックをして、情報を収集し、
 どんなことをしたら、毎日を楽しく充実して
 暮らせるかっていうことに対して敏感なんですね。
 しかも先進国の寿命は延びていて、
 100歳以上の方はこの4年で2.5倍に増えている。
 あわせて少子化ですから、
 誰かに従属して介護を受けて生きるのではなく、
 自らの人生を享受して、楽しく充実させるために
 何をしたらいいのかっていうことが、
 ますます、求められてくる時代がきますよね」

な、なるほど‥‥!

あの、先生、率直に教えてください。
検査もなにもする前になんですけれど、
ぼくは料理をするのも食べるのも大好きで、
酒も飲みますし甘いものも食べます。
好き嫌いは、まず、ないうえに、
おなかいっぱい食べるのが幸せだと思っています。
でもいっぽうで血圧が年々上がってきたりもしていて、
さいわい、血液検査では病気の兆候はないのですけれど、
「このままじゃ、いかん」と思っています。
食べたいものを、ずっと、おいしく食べながら
健康になっていくためには、
端的になにをしたらいいんでしょう?

西本がよこから小声で言います。

「た、武井さん、焦りすぎですよ!
 まだ検査もしてもらってないのに‥‥」

すると斎藤先生がにこやかな顔でこう言いました。

「武井さん、自宅で箸置きを使われていますか?」

はしおき? あの、お箸を置く、箸置き。
いえ、使っていませんが‥‥。

「箸置きって、アンチエイジングなんですよ」

先生、さっぱりわかりません!
ますますあんぐりするわれわれを前に、
斎藤先生は、さらににこやかに、話をすすめるのでした。

(気になるところでごめん! つづきます!)

まだ連載がはじまったばかりなのに、
まだ、武井さんがいかに太ってるかという話だけなのに、
まだ、なにもアンチエイジングのことを
書いていないにも関わらず、
取材のオファーが舞い込みました(笑)。
『BRUTUS』がオンラインではじめたWEBサイト
「カラダにいい100のこと。」
我々、中年二人が掲載されております。
他にもいろんな人がこのページで紹介されてますが
武井さんが一番、太い(笑)。

2014-05-08-THU