第9回 負で反抗するのでもなく、 正で権威を ふりかざすのでもなく。

加地 ほんとうは、ケンカもアホも、
調整はプロデューサーに任せて、
ただ現場はものを作るという体制が
いちばんいいんだと思います。
「お前ら、おもしろいもんだけ作りゃいいんだぞ」
ということにしたい。
なのにいまは、それを
下の人間にも求めてしまう時代です。
ですから、ちょっと
かわいそうだなぁと思うんです。
糸井 だけど、その「かわいそう」は、
やったほうがいいってことかもよ?
加地 そうなんですかねぇ。
糸井 ぼくは、わりとそのあたり、
「半」分業がいいなぁと
思っているところがあります。
例えば、会社の経理が
めんどくさそうなことしてるときに、
たまたまそれを見た別の部署のやつが
「大変だね」と言うのは、きっと重要なんですよ。
「手伝おうか」とか、
「やめてください!」とか。
加地 (笑)
糸井 それがないとね、
人間がやってることとしての
かたちにならないと、ぼくは思います。
「だってぼくは、核爆弾のスイッチを
 押す役ですから、考えません」
という、超分業の人がいたとしたら‥‥
加地 恐ろしいことになりますね。
糸井 一生懸命仕事するというのは、
そういうことですからね。
だけど、その人が帰宅したら、
そこには家族もいることでしょう。
原爆があっち側に落ちるかもしれないな、
と思う心は、やっぱりあると思います。
自分のいる場所がわかってて、
そのうえで、「ここは任せとけ」「頼む!」
ということができるといいなぁと思います。
テレビも、貧乏じゃないと、
どんどん分業になっちゃいますから、
貧乏をどう上手に作るかが、
わりと重要なんですよ。
加地 いや、ホントにそうかもしれませんね(笑)。
糸井 加地さんが
考えの最初に置いていることって
何ですか?
加地 そうですね、やっぱり
たのしいのがいちばんです。
みんながたのしく仕事できたらいいなぁ、ぐらいに
いつも思っています。
それが画面から伝わって、
視聴者もたのしい気分になれるのだと思ってます。
ぼくは、もともとほんとうに
テレビが大好きだったんですけど、
最近は、テレビが好きなのか、
お笑いが好きなのか、
芸人さんという人たちが好きなのか、
わかんなくなってきました。
もしかしたら芸人さんのことが
好きなだけなのかな?
そんなことをまぁ、ちょっと思ったりしてて‥‥
おかしな悩みなんですけどね(笑)。
糸井 ああ、それはもっと広がっているということで、
つまり、加地さんは
「人間」というものが
おもしろいんじゃないでしょうか。
加地 ああ、そうですね!
だから、ぼくはすぐに
「気持ち」とかいうところに
話を持っていくのかもしれません。
糸井 芸人さんというのは
上司のいない世界で生きてる人たちだし、
甘いだの酸っぱいだのを
自分で判断するチャンスがたくさんあるので、
「人間」が出やすいです。
笑われてなんぼ、というところもあるし。
加地 そうなんです。
ぼくなんかは、サラリーマンの道を選んで、
いままで来ました。
糸井 うん。
加地 フリーになるとかならないとか、
迷ったこともあったりしたけど、
彼らは最初から、
安定を捨ててやってきたんです。
もしかしたら明日から
一銭も入ってこないかもしれない世界です。
糸井 そうですね。
加地 そうやってあの道に飛び込んで、
ある程度結果を出してる人たちです。
そういうステージをあがって出て来た人たちを、
やっぱりないがしろにしちゃいけないというか、
雑に扱っちゃいけない。
そういう尊敬の気持ちも、
番組を作る自分の中にあるんだろうと思います。
糸井 芸人さんたちって、特に、
階層として低いふりをしてるでしょう?
加地 はい。
糸井 社会が無意識で持っている、ある種の見方を
利用して育った人たちだとも言えます。
昔だったら博士や政治家になった人が
いまは芸人になってるんじゃないかな?
加地 そうかもしれませんね。
すごい人たちがテレビで笑わせている時代。
糸井 ああいう人たちが
テレビに出てるんだから、
ぼくは懲りる前に
テレビに出るのを減らして
よかったなぁと思うんです。
加地 うーん。
糸井さんはご自分のことも、
客観的に考えるんですね。
糸井 うん。自分をまぜて考えられることは
けっこう大きな力になってると
自分で思います。
加地 その強さは、すごいですね。
そういう人は、きっと
殴られても平気な顔ができる。
「へらへらできる」というのは
まさにそういうことです。
それはホントにすごいことだなぁ。
糸井 うーん‥‥それはきっと、
自分がもともとは
ゼロだということが
痛いほどわかってるからですよ。
加地 ああ! それは、ぼくもそうなんです。
最近それに気がついたんですけど
そう思えてから、
ほんとうに楽になりました。
糸井 でしょ?
加地 だけど、ぼくはクリエイティブという言葉を
糸井さんからはじめて聞いたと思ってます。
その糸井さんがそうおっしゃって‥‥
なんか、すごいことを聞いた気がする(笑)。
糸井 ゼロなのは、ほんとうにそのとおりですよ。
加地 ぼくはクリエイターでも何でもありません。
ゼロからは何にも思いつかないです。
この世界に入った頃、
放送作家の人、芸人さん、
みんな新しいことを
ゼロから思いついてすげぇなぁ、
俺はこの世界では生きていけないなぁ、
と思ってました。
でも、ゼロのぼくが何をしなきゃいけないのか、
この頃だんだん見えてきたんです。
あっちで得た経験をこっちに活かしたり、
スタッフをこう固めてみよう、
芸人さんが考えたネタをやっちゃおう、
ほんとうにいろいろ出てくるんです。
糸井 そうなると、何でもできますよね。
加地 クリエイティブというよりも‥‥
そうですね、
「展開」のようなことが
おそらく自分は得意なんだと思います。
糸井 うん。だけど、ゼロって、
1だの10だののふりをしないと、
みんなの票が入んないんですよ。
そのうち、それに耐えられなくなります。
加地 うーん‥‥。
糸井 1だ、2だ、合わせて10だ、
と言いたくなるところを、
それはもうおまけの話なんだと思うことにして、
自分はゼロだと言い張ってたら
おもしろいですよ。
それ、できる人、少ないですから。
加地 よくわかります。
糸井 逆に、負であることは
ゼロよりも強いんですけど、
負は、成り上がって満足したら
おしまいになってしまう。
それは、矢沢永吉さんが、
ずっと苦労なさっているところです。
加地 なるほど。
糸井 負で反抗するのでもない、
正で権威をふりかざすでもない、
ぼくはわからないけど、という態度で
どんな人ともちゃんとつきあえる。
芸術家が来ても、資産家で威張ってる人が来ても
へっちゃらです。
加地 フラットなんでしょうね。
すごくよくわかります。
いやぁ、今日の話はぼくにとって
大収穫になりました。
糸井 ぼくもです(笑)。
これからも楽しい番組を、お願いします。
加地 ありがとうございます。
(今回で、この対談はおしまいです。
 ご愛読ありがとうございました!!)

 

2009-10-30-FRI

(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN