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物欲が止まらない! その8

ジョージ 買いたくなくても、
物が向こうからやってくる世の中ね。
ノリスケ 昔からそうよ。
お金持ちはデパートの外商ですからねぇ。
そんなような感じ?
ジョージ 外商っていうか‥‥ね! うふふふふ。
ノリスケ なに? 嬉しそうに‥‥。
ジョージ スーツいっぱい買ったところ‥‥
ノリスケ ゼニア?
ジョージ 今、スーツもあまり買わなくなったから。
つねさん そうね。今年、作ってないでしょ。
ジョージ そー。今年、作ってないの。
とーっても忙しくって、買いに行けなくて。
そうすっと、向こうから電話かかってきて、
「ジョージ様、そろそろ、
 今度のシーズンの生地の見本が
 上がってくるんですけど」
「あ。忙しいから、行けなーい」
「じゃ、お宅にお伺いいたします」とかって。
つねさん 生地見本、持って?
ジョージ 生地見本、持って。
家だと、自然採光で全部生地が見えるので、
すごくいいんだよね。
ノリスケ は〜‥‥。
ジョージ で、「お伺いします。つきましては、
ウチのイタリアの本社のほうから‥‥」
ノリスケ イタリア人が?(笑)
ジョージ そう。イタリア人が。
「‥‥何月何日に参りますので、
 よろしければ伴って参ります」。
ノリスケ すっごーい! 本社!!
ジョージ そー。それで来てもらって。そうするとね、
生地見本持って来るだけじゃないのよ。
女の子が一人付いて来て‥‥通訳の女の子と、
そのイタリア人の採寸師と、
僕の担当の男の子の3人で来て。
んで、女の子はね、ピクニックバスケット
みたいなやつ、持って来て、
中にコーヒーの入った水筒とカップと、
冷えたシャンパンとグラスかなんか
持って来てね。
ノリスケ ほー! 素晴らしい‥‥
ジョージ 「そのテーブル、ちょっとお借りします」
って言って、窓のところに一席しつらえて、
そこで、こうやって飲ませてくれながら、
生地、見せてくれるの。
つねさん 自分んちで。
ノリスケ すごい!
ジョージ だから、サービスが付くんだよね。
ノリスケ はい、はい。
ジョージ で、生地をこうやって透かして見ながら
「あ、これ、いいねー」って。
で、「ね〜、何着買わなきゃ、ダメ?」
とかって言うと、
「とりあえず、5着ほどお買い上げ
 いただければ、それでよろしいかと」
「あ、5着なのね〜。アタタタタ‥‥」
とかって。
つねさん フガッ。
ジョージ でもね、イタリア人が測る寸法と
日本人が測る寸法って、違うんだよ。
ノリスケ ほー?!
ジョージ 担当のコも、全部、僕のを測ってくれて
見せてくれたの。そうするとね、
イタリア人が測ると、みんなね、
寸法が5mmから1cmずつくらい、
ちっちゃいの。
特に、肩の所がね、
内側で寸法を取ってるのね。
その代わり、背中の後ろ側が
ちょっとゆったりとしてきて、
ウエストがストーンと落ちて、
腰周りもちっちゃくなるの。
で、なんで、こういうふうになるのかって、
その寸法師に聞いたら、日本人はどうしても
立ったまんまで綺麗なようにするので、
肩に重心を置くけれど、スーツを着て
一番美しく見えないといけないのは、
バーのスツールに座ったときだからって。
つねさん ああ‥‥すっげー!
ノリスケ 会議テーブルかと思った。
たしかに、ちょっと猫背になるね。
ジョージ バーのスツールで一番強調したいのは
背中の広さと分厚さだから、
そういうふうにするんだと言われて、
「あ、そうなんだ」って作ったんだけど、
ちょっと着心地悪いのよね、それ。
つねさん あー。慣れてないから。
ジョージ 多分、僕の中でバーのスツールに座る
シーンが少ないからなんだろうと思うけど。
でもね、それ着ると、
「綺麗だ」とは言われる。
つねさん ふーん。
ジョージ で、5着。
つねさん 5着か! 着てないのに‥‥。
ノリスケ 今ね、近い世界がオーディオで。
高級オーディオ店に行くでしょ。
するとね、試聴ってね、
もちろんお店でもするんだけれど、
本気のお客さまには
家まで来てくれるのね。
ジョージ ああ、そうなんだろうね。
ノリスケ つまり、高級オーディオになるほど、
微妙な5mmや1cmのずれとか、
ケーブルの配線とか、
電源の位置とかで音が変わるらしいの。
あと、壁の素材、壁からの距離、
置いてある物、ソファとかね、
吸音になるもので配置が変わるんだって。
だから、ショールームで聴く音は
その場所としては最高になってるんだけど、
「この環境がそのまま、あなたの家に
 行くわけではないので、
 ほんとにお求めになりたいのなら、
 もう、どこでも行きます」って、
機材トラックに積んで来るんだって。
つねさん トラックなんだ。
ノリスケ 当然、1コそれだけじゃなくて、
「他のメーカーのはどうなんだろう」
「ほかのアンプだとどうなの」
っていう選択肢も含めて、大荷物で来るの。
そういう世界。

へーえ! すごい世界。
でも「僕はバーのスツールに
あまり座りませんので」とは
言わないんですね‥‥。
ああもったいない。
採寸したスーツは人にあげられないしねえ。
つづきます。(シェフ)


2005-09-02-FRI

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