会社をつくるということは。お金と、投資と、どう生きるか、の話。

みなさんもご周知のとおり、
今年の3月16日に「株式会社 ほぼ日」は
東証ジャスダックに上場いたしました。
そんなお祝いムードも
すっかり落ち着いた9月某日、
みずほ証券の今泉泰彦会長
東京証券取引所の岩永守幸常務
おふたりをオフィスにお招きして、
糸井重里とおしゃべりしていただきました。
はじめは「株の買い方」や「投資の心得」など、
現実的なことを話すつもりだったのですが、
いざ3人で集まってみると、
話のテーマは思った以上に深い方向へ‥‥。
お金のこと、経済のこと、
いまだから話せる上場のことなど、
思わず「へぇー」や「なるほどー」という
エピソードがたくさんとびだしましたよ。
全6回、どうぞ気楽におたのしみください。

05

いろんなタイプがいてもいい。

2017-10-30-MON

糸井
せっかく会社が上場したのに、
そのあとダメになるようなことも、
やっぱりあったりするんでしょうか。
岩永
たとえばですが、
ようやく上場にこぎつけたあとに、
ご自身の持ち株の一部を売り、
一夜にして大金持ちになってしまった、と。
そうして突然大金を得てしまったがゆえに、
事業の方向性をすこし見失ってしまう、
という経営者の方はいらっしゃいます。
糸井
そういう方は、たくさんいるんですか。
岩永
いくつか、という感じでしょうか。
フェラーリを何台も買ったり、
大きな家を何軒も所有したり、
ちゃんとしたビジョンがないままに、
大金を手にしてしまった場合の悲劇、
というのはあると思います。
糸井
その悲劇は、
ほかの経営者たちにも
悪影響をおよぼしますよね。
まわりから
「おまえもそうだろう」
という目でみられるわけだから。
岩永
それはあるでしょうね。
ただ、わたしたち東証は、
日本経済のためにもっと上場会社を
増やすべきだと思っています。

これから日本の人口が減り、
日本のGDP(国内総生産)が
下がっていくとしても、
いわゆる「一人当りGDP」
(GDPの総額をその国の人口で割った数)が
高くなっていけば、
国民は豊かな感覚を
もてるようになると思うんです。
糸井
なるほど。
岩永
もしそうだとすれば、
1000社上場したうちの1社でもいいので、
アマゾンやアップルのような、
世の中をかえてしまうイノベーティブな
会社が出てきてくれたら、
それだけで日本の世の中を
変えられると思っています。

せっかく会社を上場したのに、
大成できなかった経営者もいると思います。
でも、1社でも本物のイノベーションを起こす
上場会社が出てきてくれるなら、
日本国としてはそれでオーケーだと、
わたしは思っています。
糸井
いまの岩永さんのお話を聞いて、
日本にエレキギターが
流行したときのことを思い出しました。
岩永
エレキギターですか?
糸井
ぼくはけっこう年なので(笑)、
エレキギターが流行しはじめた時代を
よく覚えているんですよ。
ビートルズやベンチャーズを、
リアルタイムで体験してますから。
今泉さんもそのあたりでしょうか。
今泉
まぁ、だいたい。
ぼくもその世代に近いですね。
糸井
エレキギターがはやったころって、
みんなが音楽の授業と関係ないところに、
音楽を見つけた時代だったんです。
つまり、日本中の
「音楽なんかやってらんねぇ」
とかいってたやつらが、
ビートルズとかにあこがれて
自分たちで楽器を買って、
バンドのまねごとをはじめたんです。
岩永
へぇー。
糸井
そうすると、
音楽の素養がないやつも、
いつもワルさばかりの不良も、
モテたいと思ったやつらが
みんな一斉にバンドをはじめるから、
結果的に全体の音楽水準が
一気にバーンと上がったんです。
岩永
参加する人の数が
一気に増えたわけですね。
糸井
すごく増えたんです。
みんながエレキを買って、アンプを買って、
それで音楽が町から町に広がって、
もう「うるさい!」っていうぐらい
日本中で音楽がはやったんです。
当時はもしかしたら、
「エレキ騒動」とか
「騒音で住民が困ってます」とか、
よくないニュースとして
取り上げられていたような気もします。

でも、はっきりいえるのは、
もしその時代がなかったら、
いまの若い人たちがきいている
ポップスの素養はなかったと思うんです。
岩永
なかったでしょうね。
糸井
そして、そうやってバンドを
はじめた人のなかに
井上陽水さんがいたり、
吉田拓郎さんがいたり、
細野晴臣さんや
永ちゃんがいたわけです。

で、なにがいいたいかっていうと、
そういう時代に「俺も俺も!」って
参加していた人のなかには、
ちょっと言葉はわるいですが、
いわゆる「ろくでもない人」たちも
いっぱいいたんですよね。
でも、忘れちゃいけないのが、
そういう「ろくでもない人」たちが、
業界全体の肥やしになっていたんです。
岩永
ああ、なるほど。肥やしに。
糸井
そういう人たちの、プレイヤーであって、
仲間であって、客であってという、
エネルギーの渦のようなものが、
なにか新しいものを
生みだすような気がするんですよね。
「枯れ木も山のにぎわい」という
ことわざがありますが、
やっぱり参加する人が増えないと、
拍手の量も増えていかないわけですから。
岩永
お利口さんばかりだと、
イノベーションは起きませんからね。
糸井
そう思いますよ。
だから、いま上場を目指す人たちが、
どこか同じタイプすぎるのが、
ぼくにはちょっとつまらないんです。
事業を起こして会社をつくるというのは、
人生をかけてもいいぐらい、
すごくおもしろいことなんです。
それを「KPIはなんですか?」みたいな
人たちばかりじゃなく、
いろんなタイプが混じりあっていくのが、
ぼくは理想的だと思いますね。
岩永
ほんとにそのとおりだと思います。
糸井
なので、ぼくはちょっとそれの
手伝いをしているような気分もあるんです。
「資本主義市場を転覆させよう」なんて、
これっぽっちも思ってませんが、
「資本主義にギャグを入れよう」くらいの
気持ちは多少あったりするんです。
岩永
それはいいですね。
そうじゃないと広がっていかない。
糸井
いかないですね。
でも、おふたりのような方々にも
理解されるとわかっていたら、
ぼくは上場のプロセスで、
もっと夢を見られたような気がします。
やっぱり上場したあとだから、
こういうことも話せるように
なったんだと思います。
(つづきます)

今泉泰彦

みずほ証券株式会社 取締役会長。
1956年生まれ。
1980年、東京大学経済学部卒業後、入社。
株式会社みずほフィナンシャルグループ副社長執行役員、
株式会社みずほ銀行取締役副頭取などを歴任後、
2014年に「みずほ証券株式会社」の
取締役副社長兼副社長執行役員 法人営業統括副社長、
2016年に取締役会長に就任。
現在に至る。

岩永守幸

株式会社東京証券取引所 取締役 常務執行役員。
1961年生まれ。
1984年、慶應義塾大学卒業後、東京証券取引所入社。
90年米国ロチェスター大学でMBA所得。
東証と大証の経営統合後に発足したJPXにおいて、
CFOとしてグループ財務戦略の策定や
組織運営におけるコスト適正化を推進。
現在は、マーケット部門の責任者として
市場運営を総括すると共に、
投資者層拡大の責任者も務めている。