会社をつくるということは。お金と、投資と、どう生きるか、の話。

みなさんもご周知のとおり、
今年の3月16日に「株式会社 ほぼ日」は
東証ジャスダックに上場いたしました。
そんなお祝いムードも
すっかり落ち着いた9月某日、
みずほ証券の今泉泰彦会長
東京証券取引所の岩永守幸常務
おふたりをオフィスにお招きして、
糸井重里とおしゃべりしていただきました。
はじめは「株の買い方」や「投資の心得」など、
現実的なことを話すつもりだったのですが、
いざ3人で集まってみると、
話のテーマは思った以上に深い方向へ‥‥。
お金のこと、経済のこと、
いまだから話せる上場のことなど、
思わず「へぇー」や「なるほどー」という
エピソードがたくさんとびだしましたよ。
全6回、どうぞ気楽におたのしみください。

03

お金の値段。

2017-10-28-SAT

今泉
いまの日本の大きな問題は、
個人の金融資産が1800兆も
あるというのに、
そのお金が日本経済をあとおしする
ところにまわっていないことです。
糸井
それは銀行がさぼっているんでしょうか。
今泉
そうではないと思います。
銀行は預金者の方に
元本を保証していますので、
そういうお金の性質上、
ローリスク・ローリターンで
運用せざるえないところがあるので。
糸井
銀行もがんじがらめなんですね。
今泉
そうですね。
昔よりもお金の価値が
下がったということもありますし。
糸井
そうか、お金の価値が。
今泉
わたしが金融業界に入った
1980年ごろの長期金利は、
8%ありましたから。
岩永
そういう時代もありましたね。
糸井
ぼくが小学校のころは、
7%のところに預けていました。
岩永
金利が7%ということは、
複利でためていくと
10年で倍の金額になるんです。
糸井
それはすごいことですね。
今泉
すごいことです。
つまり、いまと昔では、
金融機関としての銀行の役割が、
ちょっと変わってきています。
そうなると、じゃあ、
だれが市場にお金を
供給するのかとなるんですが、
それを担うのは、
やっぱり投資家なんですね。
糸井
投資家ですか。
今泉
経済をさらに前に進めるには、
投資家のお金をどんどん
夢のある事業にまわるように
しないといけません。
いまはそういう状況です。
糸井
さきほど今泉さんは
「お金の価値が下がっている」
といういい方をふつうにされましたが、
その話をきいて、
「まさか」とか「そんなことはない」
という人ってまだまだいますよね。
今泉
まだまだいるでしょうね。
糸井
「お金の価値が相対的に下がっている」
っていうことの意味を、
ちゃんとわかる必要があると
ぼくは思っているんです。
だって、いくらお金があっても、
それを動かさないかぎり、
なんの価値も生まないわけです。
1000億円の現金よりも、
1000億円分の会社のほうが
価値があると思うんです。
みんなお金があればなんとかなる、
という幻想をちょっと
もちすぎてる気がするんですよね。
今泉
さきほど
「お金の価値」といいましたが、
もしかしたら
「お金の値段」といったほうが
正しいかもしれませんね。
糸井
ああ、なるほど、お金の値段ね。
今泉
じゃあ、お金の値段が
なにで決まるかというと、
それは「金利」なんです。
日本はいまマイナス金利ですから。
糸井
マイナス金利というのは、
かんたんにいえば、
預金している分の利子を、
銀行へ支払うという意味ですからね。
もう、すごい話です(笑)。
今泉
ちょっと昔ではかんがえられません。
そういった状況からも、
お金はあるんだけど、
お金をつかえる余地がなくなっている、
ということなんだと思います。
糸井
みんなお金のつかい道に、
困っているんですね。
今泉
だからこそ、
新しい技術やアイデアに、
お金が流れるしくみをつくって、
ある程度はリスクマネーとして
投資する気概といいますか、
意志をもった人たちが
必要になってくるんだと思います。
糸井
それが投資家というわけですね。
今泉
ただ、投資家といっても
機関投資家も個人もいます。
ここでは個人の話をしますが、
投資はバクチじゃないわけで、
自分のもっている資産、
たとえば100万円あるなら、
全額をそういうものにつかうかというと、
それはまたちがう話なんです。

もし100万円をもっていたら、
その10分の1をそういう投資にまわし、
残った額の半分は、
非常に安定した預金にいれたり、
あとは不動産にまわしてもいいんです。
糸井
全額を投資する必要はないんだと。
今泉
いま重要なのは、
たとえ10分の1の金額でも、
多くの人の10分の1を束ねて、
夢のある事業にまわるようにすることです。
「投資家の裾野を広げたい」という
東証さんの取り組みの意義というのは、
そういうことなんだと思います。
岩永
まったくおっしゃるとおりです。
糸井
岩永さんの話だと、
アメリカはそれでうまくいったわけですが、
日本でもうまくいくんでしょうか。
今泉
うまくいくかどうかは
ちょっとわかりませんが、
「日本人は投資が苦手」と
おっしゃる方は多いようですね。
これはちょっと前の
アンケートなんですけど、
100万円をあずけると
半分の確率で20万増え、
半分の確率で10万円減る。
そういう状況があったとき、
日本人の8割は「投資しない」と
答えたそうなんです。
糸井
リスクに目がいくんですね。
今泉
いくんですね。
このアンケートが出たとき、
欧米のマスコミは
非常にびっくりしたそうです。
糸井
あ、びっくりされるんだ。
今泉
彼らからすると、
半々の確率で20万、
つまり20%増えるなら、
それをやるのが当然だろう、
とかんがえるわけです。
しかし、日本人はそうは思わない。
なので、もしかするとリスクに対する
日本の常識というのが、
世界の常識とはちょっと
ちがうのかもしれませんね。
(つづきます)

今泉泰彦

みずほ証券株式会社 取締役会長。
1956年生まれ。
1980年、東京大学経済学部卒業後、入社。
株式会社みずほフィナンシャルグループ副社長執行役員、
株式会社みずほ銀行取締役副頭取などを歴任後、
2014年に「みずほ証券株式会社」の
取締役副社長兼副社長執行役員 法人営業統括副社長、
2016年に取締役会長に就任。
現在に至る。

岩永守幸

株式会社東京証券取引所 取締役 常務執行役員。
1961年生まれ。
1984年、慶應義塾大学卒業後、東京証券取引所入社。
90年米国ロチェスター大学でMBA所得。
東証と大証の経営統合後に発足したJPXにおいて、
CFOとしてグループ財務戦略の策定や
組織運営におけるコスト適正化を推進。
現在は、マーケット部門の責任者として
市場運営を総括すると共に、
投資者層拡大の責任者も務めている。