ヒグチユウコさんの、大事業。

糸井
で、こちらは、なんですか。
津田
東京都美術館の「バベルの塔」展にあわせて
グラフィック社から販売する、
ヒグチさんの新作の画集‥‥の色校正です。
ヒグチ
きちんとした本になった状態で、
お見せしたかったんですけど、できてなくて。
糸井
じゃ、あんまり見ないようにしようかな。
ヒグチ
いろいろ、すごくうまくできたんです。
糸井
すごいねえ、金箔とか。
なんか、このままで額に入りそうだよ。
津田
ヒグチさんが大好きな
16世紀の奇想画家ヒエロニムス・ボスや
「バベルの塔」で有名な
ピーテル・ブリューゲルの描いた原画をもとに、
ヒグチさんが
ヒグチさんならではの世界を描いた作品集です。
ヒグチ
原画自体は宗教的な作品ですから、
7つの大罪や、堕落した人間の姿などを
描いているんですけど、
わたしは、
そういう宗教色を一切なくしました。

たとえば
天国に行く人たちと地獄に行く人たちの
背負う十字架をぜんぶ消して、
地下に‥‥つまり地獄に行く人たちも、
地下では、たのしそうにしてるという絵で。
糸井
あ、漫画太郎みたいな人がいる。
ヒグチ
構図についてはけっこうそのままですが
細かい部分でけっこうやっていて、
羽海野チカさんちのブンちゃんが
えらそうにしてたり、
雷さまがいたり、
ボリスが手から「ぴゃーっ」てしてたり、
石黒さんちの
「てんまる」と「とんいち」も、います。
糸井
ほんとだ、ほんとだ。おもしろーい。
ヒグチ
うちのニャンコも、もちろん、います。
息子が見て「俺のニャンコだ!」って。
糸井
それ、うれしいよね。
ヒグチ
わたしが、
「ぼっちゃんは独り立ちしていくから、
 ニャンコ、第二の人生は
 お母さんの助手をやって暮らすって」
って言ったら、
「第二の人生どころか、
 第一の人生がまだ終わっていません」
って言って、
涼しい顔で向こうへ連れていきました。
糸井
おお。
ヒグチ
さわらないで、みたいな。
糸井
ぼっちゃんいいなぁ。
ヒグチ
あんた、寝てるときに
ニャンコを身体の下に敷いてるわよ、
って言ったら、
「嘘だ」ってムキになって言うから
寝てるときの写真を撮って見せたら、
「やらせだ!」って叫んでました。
糸井
そんなに愛してるんだ、ニャンコのこと。

ぼくらは、
その関係性を鑑賞してるんですよね。
ヒグチ
そうなんですよね。
糸井
つまりさ、犬猫って、
犬猫そのものじゃ、ないんだよなあ。
ヒグチ
ちゃんとイスに座らせたりしてるけど、
ああいうのも、無意識だと思う。
糸井
それは、心も生まれちゃうよね。
あのぬいぐるみ、どこで手に入れたの?
ヒグチ
IKEAで売ってたんです。

石黒邸にも同じのがいるんですよ、偶然。
あちらはピッカピカですけど。
糸井
そう言えば、TOBICHIの展覧会には、
立体も来るんでしょ、あの、ひとつめちゃん。
ヒグチ
今日、連れてこようか迷ったんですけど‥‥
ひとつめちゃんは、とても原価が高くて、
そのおかげで
着彩は、ぜんぶ、わたしがするんです(笑)。
糸井
それは‥‥すごいね。
ヒグチ
シリコンの金型をつくったら、
少なくとも「50体」はつくらないと
採算が合わなくて、
ぜんぶで4種類いるので、計200体。
糸井
大変なことです。
ヒグチ
はい、とっても大変なんです。

200匹のもらい手が現れるかどうか‥‥
資金も自分で出すんですが、
いま、職人さんたちとの話し合いを、
重ねているところです。
糸井
はー‥‥。
ヒグチ
ま、でも、もらい手がいなかったら、
わたちのうちを
ひとつめ御殿にすればいいや、って。

でも、200匹の飼い主、待ってます!
糸井
俺は、買うよ。
ヒグチ
あ、一匹売れた(笑)。
糸井
でも、それにしても、すごいですよ。
この作品集は。

これをはじめ、
200体のひとつめちゃんをはじめ、
ヒグチユウコさんのお仕事ぶりって、
なんだろう、
もう「大事業」の迫力があるよね。
ヒグチ
いえいえ、
バベルの塔を建てるほどじゃないし。
糸井
もうひとりが子どもが生まれたらさ、
バベルちゃんとか付けちゃえば?
ヒグチ
そんな名前‥‥‥‥‥‥‥‥やだ。
糸井
ぼくも、そんな親はイヤだ(笑)。

いやあ、ありがとうございました。
たのしみにしてます、いろいろと。

<おわります>

2017-04-28-FRI