伊藤潤二先生の話、猫の話。

糸井
ヒグチさんは、
漫画家の伊藤潤二さんの大ファンで、
奥さんの石黒亜矢子さんを通じて、
つながることができて、
それって、しあわせなことですよね。
ヒグチ
伊藤先生は、絵がうますぎて、うますぎて。

ビッグコミックスピリッツで
『うずまき』を連載しはじめたときは、
伊藤先生がメジャーな雑誌に来たと思って、
当時、大興奮でした。
糸井
そうなんだ。
ヒグチ
もう、あまりにもすばらしくて、
連載の途中では見られなかったくらいです。

怖くて、うますぎて、
もう、わたし、どうしようどうしようって。
糸井
うん(笑)。
ヒグチ
わたしは画家で漫画家じゃないんだけど、
こんな絵を描かれちゃったら
もうどうしたらいいの、
みたいな気持ちになってしまったんです。

だから、もう大ファンだったんですけど、
まさか、お知り合いになれるとは。
糸井
伊藤先生って、ある時期、
絵が本職じゃなかったですよね、たしか。
ヒグチ
漫画家になる前は歯科技工士です。
糸井
あー、つまり、ものすごく手先が器用。
ヒグチ
まだ、ちっちゃいときに、
もう自分で描いたマンガを糸で綴じて、
本をつくってたって言ってました。

たぶん、ホラーだと思いますけど。
描く絵が、ご本人に似てますよね。
糸井
うん、似てる似てる。
「ちょっと男前」というところ含めて。
ヒグチ
きれいなお顔で、石黒さんも美人だし、
美意識が強くて、面食いなんだと思う。
糸井
ヒグチさんって
一人のファンとして発言してることが、
ものすごく多いよね。
ヒグチ
わたし、好きなもの、本当に多いです。
趣味は少ないんだけど‥‥。

伊藤先生は、お知り合いになることができて、
サインいただいたり、
気軽にお話しできたとしても、
やっぱり、わたしには「雲の上の人」です。
糸井
伊藤先生の奥さんの石黒亜矢子さんとは、
ふつうに、仲良くしてるんですよね。
ヒグチ
これ、ほんとにダメなんだけど‥‥
石黒さんのこと、
わたし最初、作家さんだと知らなくて、
ツイッターで話しかけられて、
「作品、すごくいいですねー」って。

それが、猫の話だったんですよ。
糸井
ああ、石黒さんちにも、猫がね。
ヒグチ
前に飼ってた猫を
すっごくかわいがってたんだけど、
そのこを亡くして何年か経って、
新しいこを迎えて‥‥
まさかその話が、
わたしが発売日に買いに走って読んでる
『てんまると家族絵日記』だったとは。
糸井
じゃ、伊藤先生の奥さんってことも?
ヒグチ
知りませんでした。ある作家さんから
「伊藤先生の奥様よ」と聞いたんです。
糸井
それは、ビックリだよね。
ヒグチ
もちろん、今の「てんまる」もかわいくて
愛してるんだけど、
前の「よんちゃん」を亡くしたショックを
ずっと引きずってるって、
当時の石黒さん、言ってたんです。
糸井
石黒さんの、「てんまる」のあとに来た
「とんいち」への思いの描き方に、
ぼくは、ヒグチさんを思い出すんですよ。

てんまる、主役中の主役じゃないですか。
ヒグチ
鼻が黒くて、特徴があって。
糸井
で、あとの「とんいち」は地味ですよね。
ヒグチ
でも、パソコンで里親募集を見てて、
目に入っちゃったんじゃないですかねえ。

トライアルしたら
「てんまる」ともとっても仲良くなって、
今や仲良くなりすぎて、同化してますよ。
糸井
石黒さんの描いてる漫画を読んでいると、
「猫に対する思い」そのものが
鑑賞の対象になるんだなあと思うんです。
ヒグチ
彼女のほうが、ぜんぜん猫好きですしね。
糸井
うん、ものすごく好きですよね。
ヒグチ
はい。わたしの場合は、
そこまで「猫」って感じでもないんです。
糸井
そうだね、猫を描いているというよりは、
「ボリス」という、
「よわったなぁ」っていう同居人だよね。

猫が好きで描いてるというより、
人間でない形をした同居人を描いている。
ヒグチ
わたしにとって、いっしょに住むには、
いちばん合う動物だと思う。

何かを育てるのにも才能が要りますが、
わたしは、
猫以外の動物とは、暮らせないと思う。
糸井
あ、そう?
ヒグチ
だって、なにしろ、わたし、
ことごとく植物を枯らしてしまうという
「茶色い手」の女なんで。
糸井
植物、好きなのにね。
ヒグチ
大好きなんですけど、嫌われてる(笑)。

津田さんから
エアプランツをいただいたときは、
「枯れませんように」
というメッセージがついてました。
糸井
エアプランツが枯れる‥‥(笑)。
ヒグチ
ええ、たくさんのエアプランツが、
わたしの手によって、屍に‥‥。・
糸井
枯らすコツとか、あるのかなあ。
ヒグチ
植物、大好きなんですけどねえ。

<つづきます>

2017-04-24-MON