ヒグチ・アパートの住人たち。

ヒグチ
このあいだ、バオバブの実を、
名久井(直子/仲良しのデザイナー)さんに、
もらったんです。

ラムネの味がするらしいんですけど。
糸井
バオバブが? へぇ。
ヒグチ
津田さんも、一緒にマダガスカルに行って、
そこで食べてきたんだよね?
津田
食べました。グローブみたいな形をしてて、
ベルベットみたいな茶色い産毛が生えてて。

その中にカシューナッツみたいな実が
入ってるんですけど、
薄オレンジ色のラムネみたいな感じでした。
糸井
意表を突きますね、バオバブ。
津田
なんでもビタミンが豊富で、
現地の人は「奇跡のフルーツ」と珍重して、
「ソーダ水に溶かして飲んだら最高」と。

まあ、わたしたち的には
「たしかに‥‥酸っぱいラムネだわねえ」
という感想でした。
糸井
「最高」は、言い過ぎだった。
津田
他に甘いものがあんまりないところなら、
おいしいって思うかもしれないです。
糸井
マダガスカル、何人かで行ったんですか。
津田
名久井さんと、
大島依提亜さん(デザイナー)と、
大島さんの奥様と、うちの夫と、5人で。
ヒグチ
わたしはわたしで、楽しそうなようすを
ツイッターで眺めたり、
後日談を聞いたりしてました。

いいなぁーって、思いながら。
糸井
ヒグチさんは行かなかったんだ。
ヒグチ
わたし、飛行機ダメなんですよ。

現地のワオキツネザルが
ヒザに乗かってきた写真やなんかを、
あとで自慢気に見せられました。
糸井
でも、めずらしい動物に抱きつかれるのって、
ちょっと、うれしいですよね。

ぼくは、オランウータンにしがみつかれて、
すごく、うれしかった。
今よりいい加減な時代の話なんだけど、
バリの大金持ちがオランウータン飼ってて。
ヒグチ
力、すごくなかったですか?
糸井
そう、子どものオランウータンなんだけど、
なんか俺のこと気に入ったらしくて、
こんなふうに、足に、しがみつかれたまま。
ヒグチ
かわいい。
糸井
ぜんぜん離れないんだよ。
めちゃくちゃ、かわいいかったなあ。
ヒグチ
ちなみにオスのオランウータンって、
大人になると、顔に‥‥。
糸井
はいはい、「受話器」みたいなのね。
ヒグチ
あの造形、ちょっとすごいですよね。
触ってみたくなっちゃう。
糸井
どうなってるんだろう。
ヒグチ
マンドリルの顔とかも、
いったい何ごとかって思いますよね。

色、ものすごいカラフルだし。
糸井
あれ、「お尻のコピー」なんでしょ。
ヒグチ
あ、そうなんですか。
糸井
お尻と同じ色をしていて、
つまり、生殖本能を掻き立てるために、
「見ろ、俺はこんなだぜ!」と。
ヒグチ
そのことを「顔」で言ってるって、すごい。
なんか、お花みたいですもんねえ。
糸井
ラフレシアみたいだよ。
ヒグチ
じゃ、顔つきが立派なほど「できる男」で。
糸井
そうそう。

まあ、なんにしても、ヒグチさんって、
人が「ないこと」にしてるものを、
とにかくほじくり出して、
「いいですよねえ」
って、言い続けてらっしゃいますよね。
ヒグチ
そうなんですかね‥‥。
わたしの心にはずっとあるものなので。
糸井
住みつくんですか、そういうやつらが。
頭の中の「ヒグチ・アパート」に。
ヒグチ
住んでますねえ‥‥昔から、どっちゃり。

わたし、子どものころから
世の中の「図鑑」というものが大好きで、
深海の生物だとか、
イソギンチャクだとか‥‥の絵を、
寝るまえに
「今日はヒトデにしよう!」って感じで、
ヒトデのぶつぶつを眺めながら
ねむりに入る‥‥みたいな子どもでした。
糸井
アメフラシみたいなものに向けるのと
まったく同じ目が、
人体の内臓にも向けられるわけですか。

脾臓だとか、肝臓だとか‥‥。
ヒグチ
それは、みんなの体にあるものだから、
怖いものだとは思ってないんです。

スプラッター系の映画も平気です。
あれは、たのしむものじゃないですか。
一種の「コメディー」として。
糸井
一歩引いて見ると、笑えるもんね。
ヒグチ
大好きな伊藤(潤二/漫画家)先生の話にも
通じると思うんですけど、
「怖さと笑いはワンセット」だと思ってます。
糸井
うん、うん。
ヒグチ
だから自分でも、絵を描くときは、
あまり真面目にならないように、しています。

だって「かっこいいだけの絵」って、
ちょっと時間が経ってから
あらためて見返すと、
なんか「夜中のラブレター」みたいに、
恥ずかしいもの、になっちゃうんです。
糸井
ほー。

<つづきます>

2017-04-18-TUE