お題さえあれば

糸井
ヨシタケさんはもともと
イラストレーターをされていたんですよね。
ヨシタケ
はい。そしていまもイラストの仕事はしています。
実はイラストレーターも、
自分でなろうと思ってなったわけじゃなくて、
たまたまお仕事をいただけたことがきっかけなんです。

それで、ぼくにとって
イラストレーターの仕事というのは
「お題に応えるもの」だったんですね。
糸井
お題に応えるもの。
ヨシタケ
イラストの仕事っていつも
「この文章を1枚の絵であらわしなさい」とか
「この本の内容を1枚の表紙にしなさい」とか、
最低限やらなきゃいけないことが
いくつかあるんです。
その言われたことをぜんぶ満たした上で、
とくに言われてないプラスアルファを
自分で追加して、ちょっと提案したりする。
ぼくはその
「これを入れてみました」みたいなところで
褒めてもらえるのが、
自分がイラストレーターとして
やるべきことだと思っていて、
ずっとそういう感覚でやってきたんです。
糸井
その感じ、ちょっといいですね。
ヨシタケ
そうこうしてるうちに
「そのイラストで絵本を描きませんか?」と
声をかけていただくわけです。

絵本デビューは4年前ですけど、実はその前にいちど
別のかたに声をかけていただいたことがあるんです。
そのときはできなかったんですけど。
糸井
やろうとはしたんですか?
ヨシタケ
したんです。いちおうラフも出したんですが
「うーん、そうですね‥‥」みたいなことになって。
糸井
それ、がっかりしますよね。
ヨシタケ
だけど自分でも「たぶんできないだろうな」と
思ってた部分があるんです。
というのが、それまでぼくは
お題に応えることしかやってきてなかったので、
「なんでもどうぞ」と言われても、
どうすればいいかわからなかったんです。
糸井
その感じ、よーくわかります。
ヨシタケ
そして、
「絵本とは?」「こどもとは?」
「こどもが読むべきものとは?」とか考え出すと、
すでに大御所のかたがたくさんいて
すてきな絵本もたくさんあるのに、
ぼくが新しくやるべきことなんか
あるわけないんですよ。
貴重な資源を無駄にしてまで。
糸井
ええ(笑)。
ヨシタケ
だから、そのときはそれで終わったんです。

だけど4年前、また別のかたから
声をかけていただくわけです。
「でも、1回失敗してるしなあ‥‥」
そんな思いで、打ち合わせに行きまして。
糸井
はい。
ヨシタケ
そうするとこんどは
「こいつは放っておいたら何もやらないな」と
見抜いたかたがいらっしゃったんです。
それでそのかたが
「やりにくかったら企画をいくつか用意しますから、
それを元ネタにするのはどうでしょう」
と言ってくださって。
そしてそのとき出していただいた企画に
「りんごをいろんな目線で見てみる絵本」という、
そのものズバリのものがあったんです。
糸井
第1作の『りんごかもしれない』だ。
ヨシタケ
そうなんです。
そのときは、りんごじゃなくてもいいけど
「1つのモチーフをいろいろな目線で見てみて」
というお題ですね。
メッセージとしては
「いろいろな視点があることを伝える絵本」。
その案を見て、
「おもしろそうなのでやらせてください」と伝えて、
作らせてもらうことになりました。
糸井
ええ、ええ。
ヨシタケ
そのときわかったのが
「あ、お題だ!」ということで。
糸井
お題さえもらえれば。
ヨシタケ
そう、「ぼくはお題さえあればできるぞ」と。
自分がそれまで10数年以上やってきたのは
お題に応えることなので、
「求められたものをすべて満たした上で
何か打ち返す」
ということならできる。
そして打ち返す際に、自分の考えや思いを
プラスアルファで入れ込めばいい。
そういうことがわかったんです。
糸井
なるほどね。
ヨシタケ
ただ、実はこの本のもともとの企画は、
もっと教育的なノリが強かったんです。
「りんごを実と皮にわけてみよう」
「産地をさかのぼって調べよう」
「いろいろな食べ方をしてみよう」
「いろんな国のことばで『りんご』と言おう」
とか。
糸井
NHK教育テレビみたいですね。
ヨシタケ
でも、いろいろやってみたんですが、
どうもおもしろくならなかったんです。

しかもぼく、さきほどお伝えしたとおり、
怒られるのが大嫌いなんですね。
そういった教育的な内容だと、
何かひとつでも間違うとぼくが怒られるわけです。

そうしたらある日
「‥‥じゃあ、りんごじゃないならなんだ? 
りんごかもしれない? 
りんごに見えるけど、りんごじゃないものって?」
そういうアプローチを思いついたんです。
糸井
そこでタイトルができたんだ。
ヨシタケ
「かもしれない」としたとたんに、
「これはこの男の子が勝手に考えてることですよ」
となって、嘘つき放題になるわけです。
何を書いても責められない。
そのアプローチを思いついたことで
逃げ道がバーンと開けて、
一気にやりやすくなったんです。
糸井
ぼくらの「ほぼ日刊イトイ新聞」と同じですね。
「ほぼ」とつけておけば、
何かあっても大丈夫というか。
ヨシタケ
そうなんです。
ただ、これだとひとつ問題があって、
編集のかたの当初の話と違うので
‥‥また怒られるかもしれない。
糸井
(笑)
ヨシタケ
だから、ちゃんと企画書を書きまして。
「路線はすこし変わりますが、
こういうアプローチはどうでしょう?」と
提案してみたんです。
そしたら
「ああ、これはこれでおもしろいから、
こっちでいきましょう」となりまして。
そういう経緯でできた本ですね。
糸井
なるほどなぁ。
ヨシタケ
そうなんです。

(つづきます)
2017-05-13-SAT