HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
 
お直しとか
 
横尾香央留
 
 第41回 《 抜けない針 》

坂のうえにある ともだちの家めざし
黄色い自転車をはしらせる。
途中の小さな公園で
男の子たちがハチをつかまえ はしゃいでいた。
子供というのは残酷なもので
“ハチの胴に糸を巻き付けて散歩させる”
そんな遊びが4年生の頃 一瞬流行った。

あたしもそのハチが欲しい。
自転車をとめ “とってとって”とお願いする。
羽をあわせるように持っててもらい
赤いボタン付け糸をお尻のポッケからちょっと拝借。
くびれた腰に糸を2回3回 巻き付けたら 片結び。
いつもなら刺されるんじゃないかと
異常にビクビクしていたはずなのに
その時はなぜか ちっともこわいと思わなかった。

用意周到な誰かがくれたビニール袋に
糸付きハチと空気をいっぱい詰め込んで
ペダルをぐいぐい 家路を急ぐ。
夕ご飯を食べ終え 黄緑色がまぶしい
プラスチックの虫かごのなかを覗くと
糸付きハチは息絶えていた。

“あのとき 糸はとって埋めるべきだったな”
マンション裏の花壇に埋めた糸付きハチは
あたしの手を刺すことはなかったけれど
しっかり胸に針をおとしていったようで
いまだにこの模様を見るたびに
抜けない針がチクリと痛む。

*じょうずに1マスだけシミの付いた
 ハチの巣模様のミニバッグ。ハチではなく
 小さな小さなチョウチョの刺繍でシミ隠し。
 そのうえに1マスサイズの扉を編んだら
 チョウチョにかぶせて かくれんぼ。

 
 
2012-07-30-MON
 
 
まえへ ホームへ
つぎへ
 
写真:ホンマタカシ
デザイン:中村至男