HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
 
お直しとか
 
横尾香央留
 
 第24回 《 実はわたし 》

『実はわたし あの前日に入籍したんです』

出鼻をくじかれた。
ふわぁーーーーーーー
びっくりしすぎて言葉にならない声が
息の続くかぎり出てしまった。

いづみちゃんとは半年くらい顔見知りの期間があった。
とはいっても展示会場で顔を合わせる程度で
どちらも積極的ではないから 話をすることもなかった。
それが古巣のアトリエの展示会でばったりあった時
なにか磁石のようなものがすーっと働き
『今度ごはんでも食べましょう』
気がつくと声をかけていた。
その時いづみちゃんの隣では あたしがアトリエ時代
一方的に知っていたアートディレクターの男性が
アトリエスタッフ達と談笑していた。

〈 早速ですが今夜ごはんいかがですか? 〉
吉祥寺に用事があるという いづみちゃんから
メールをもらったのはその2、3日後のことだった。
ほとんど初対面にもかかわらず なかなか人の寄り付かない
ひなびたタイ料理屋に連れてきてしまい
“安くておいしいけどやっぱり違う店にすればよかった…”
乾杯もそこそこに 自分のチョイスを後悔し始めたころ
突然の告白だった。

“あれ? お付き合いされてるのかな?”
“お仕事仲間なのかな?”
ふたりが並んでいる姿を見て
ちょっとそんな風にあの時 思ったから
ごはんの途中にその話にもなるかな なんて思っていたが
まさかこんなしょっぱなに… しかも入籍って!
いづみちゃんは自分でもこんなに唐突に
告白したことを驚いているように見えた。

いづみちゃんは 外見がとてもかわいい。
しゃべり方もかわいい。
内面もかわいいのだが ボケ体質だ。
あたしはいづみちゃんと一緒にいると
うかうかしていられない。
いつどこでボケるかわからないから
取りこぼさないように。
ツッコミ役はよそ見なんかしていられないのだ。

あの初めてのごはんのすぐあとに
いづみちゃんは展覧会をした。
その展覧会のDMには女の子と赤い手が描かれていた。

『まだもらっていないの』という結婚指輪を
左薬指に編みつけた赤い手の刺繍ポーチ。
結婚と展覧会 両方のお祝いのプレゼント。
いまでは すっかり馴染んだ本物の指輪が
いづみちゃんの薬指で輝いている。
4月2日 きょうできっかり まる2年。
おめでとう いづみちゃん。
 

 
2012-04-02-MON
 
 
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写真:ホンマタカシ
デザイン:中村至男