HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
 
お直しとか
 
横尾香央留
 
 
 第13回 《 日を改めて 》

『ちょっときょうは間に合わなさそう
 日を改めて行くことにします… すみません…』
いつもの調子でメールを送ると

『レセプションって お祝いなんだよ?
 おめでとうの気持ちが大切なんだからさー』
会場で落ち合うはずのともだちから
ため息まじりのメールが届く。

友人・知人 関係の深さにかかわらず
展覧会などのレセプションに行くことが苦手だ。
人がたくさんいるところが苦手。
華やかな雰囲気に浮いている自分を想像する。
“人が多くてちゃんと見れないし…”
もっともらしいことを言っているが
言い訳なことは 自分も周りも知っている。

おめでとうを伝えたい。
その気持ちはもちろんあるのだけど
たくさんの人に囲まれた主役にさりげなく近寄り
“この人は先にいたよね” とか
“この人よりは先に話かけていいかな” とか
タイミングを計る姿を思うといたたまれない。
何も言わずに帰ったっていいのだろうけれど
“挨拶なしかよ” なんて思われながら
去りゆく後ろ姿を見られていたら嫌だなとか…
自意識過剰にもほどがあるのだが
考えれば考えるほど足が重くなる。

もうひとつ足かせがつくことがある。
もらったDMを見て ピカンとひらめき
プレゼントを作りたくなる時がある。
すぐに形にすればいいのだが なかなか始められず
けっきょく前夜や当日になってあわてて作り出す。
いくらがんばっても いよいよもう間に合わない…
ということころで その日行くことをあきらめる。
それなら今日中に作らなくてもいいか
みたいなことを思ってしまい 手を止めたが最後
展示最終日3日前くらいまで放置され
あわてて再制作を開始するのだ。

このポーチは小林エリカさんの
展覧会『US』のDMをみてつくったもの。

もちろんこのときもレセプションには間に合わず
会期中にこっそり観に行き ギャラリーの人に
エリカさんに渡してください と
お菓子をつめた出来たてのポーチを託した。

『お礼を言いたくて』
そういって翌日 開店前の母の店の前に
エリカさんが立っていたという。
あたしは不在で会えなかったが
それだけ伝えたくて…と
足早に帰っていったそうだ。
なんということ!
おめでとうの気持ちのプレゼントが
むしろエリカさんの気持ちの方が
よっぽどあたしへの
プレゼントになってしまっているではないか!
このときほど自分の質を恥ずかしく思い
そして改めようと思ったことはない。

自分自身のレセプションなんていうものが
開かれる日が来るなんて この頃は
まったく想像もしていなかったが
昨年の5月 ついにその日はやってきた。
“なんだ なんだこれは…”
どこを見てもあたしの知ってる人ばかり。
全員知っているのだから
誰とでも話せるはずなのに
どこに立っているのが正解なのか わからない。

“あーみんなこんなに来てくれて
ありがたいなーすごいなーしあわせだなー”
自分が迎える立場になって初めて
たくさんの人にお祝いしてもらう
こそばゆいよろこびを知り
これからはちゃんと
お祝いしたいし しようと思った。
しかし すごくうれしい実感はあるのに
遠く空のうえから眺めているような
そんな気持ちで目の前の様子を見ていた。
もしこの気持ちをまた
味わうことがあるとするのなら
それは 自分のお葬式にきてくれたみんなに
“ ありがとう” と手を振って
高く高く昇っていく時のような気がしている。

 
 
2012-01-16-MON
 
 
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写真:ホンマタカシ
デザイン:中村至男