HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
 
お直しとか
 
横尾香央留
 
   
 
 第10回 《 インベーダーゲーム 》


“いったい何本あるんだろう”
オレンジ色の世界をぼんやり眺める。
顔が暖かくって ぽわんとなる。
“このまま ねちゃおうか…”
うつらうつらし始めるが
数分で息が苦しくなって
ぷはーっとからだを起こす。
顔はあついが すぐに冷える肩に
首をすくめ布団をかけなおす。
オレンジ色の世界から顔を出すと
世界がいつもより澄んで見えた。

父方の祖父の家 居間の掘りごたつでは
大人達がだらだらごろごろ寝転んで
テレビは誰が見るでもなくついていた。
いびきの合唱が聞こえる。
おこたの上は みかんとお煎餅
日本茶だけでいっぱいだった。

つまんないな

ガラガラと引き戸を開けて
外とあまり気温の変わらない
途中 糠床のにおいのする
廊下を足早にわたって
離れにあたる いとこの家に入る。

こっちでは男の子たちが
テレビゲームをやっている。
寒いけどペタンと座れば
ホットカーペットがあたたかい。
いとこのヒデくんと兄は
2才違いで仲がよく 会えば
『けんくん けんくん』
『ヒデくん ヒデくん』
ずっと一緒 くっついていた。

テレビゲームは禁止されていたから
我が家にゲーム機はなかった。
兄はここぞとばかりにマリオで遊ぶ。
ヒデくんはすごくやさしくて
『かおるちゃんもやる?』
ちっぽけなあたしにも気遣いを忘れない。
コントローラーの使い方から
教えてくれたけど いかんせん
反射神経の鈍かったあたしは
走りながらのジャンプもままならず
あっという間にマリオは姿を消した。
やってる方もこんな気分なのだから
見てるほうもつまらないだろうと
早々にコントローラーを返し
オーディエンスにまわる。

やっぱりつまんないな

部屋の中をぶらぶらして
うんと年上のトモコちゃんの
エレクトーンの椅子に
よいしょと腰掛け 冷えた鍵盤をさわる。
いろんな色の四角いボタンに
英語で文字が書かれていて
なんだかわからないが かっこいい。
足の届かないペダルを手で押したり
横の壁に貼られた坂本龍一の
ポスターをまじまじと眺め
元旦恒例のすき焼きの夕餉まで
時間を過ごす。
甘辛い しらたきとお麩が好物だった。

母方の祖父の家にはそのむかし
インベーダーゲームがあった。
喫茶店などに時々あったテーブル自体が
ゲーム機になっているものである。
おじいちゃんはあまりに
インベーダーゲームにはまってしまい
喫茶店に行ってお金を払ってやるのが
ばかばかしくなったとかで
いつでも好きなときにできるようにと
買ってしまったのだという。

『おじいちゃんはむかし
 喫茶店をやりたかったんだよ』
いま喫茶店を営んでいる
母から聞いたことがある。
夢を引き継ぎ叶えたのだと思っていたが
ひょっとして こういうゲームが
置いてあるような店を
おじいちゃんはやりたかったのだろうか。
庭からさす 白っぽい光の中
煙草を吹かしながら
ゲーム機に向かい座っている
おじいちゃんの姿をうっすらと思い出す。

兄は大学生になると
自分のお金でテレビゲームを
買うようになり 2、3台の
ゲーム機を使い分けていた。
結局 姉とあたしは
ゲームウォッチどまりだった。

いまでもテレビゲームはやらないし
携帯のゲームにも手を出さない。
ただ まわりが寝静まった
飛行機の中でやる 数独だけは特別だ。

*手袋の薄くなったところを
 カラフルな糸ですくっていくと
 なにやらインベーダーゲームの
 キャラクター(?)に見えてきた。
 持ち主の同い年の女の子が
 ゲームをすきかどうかはわからない。

 

 
 
2011-12-26-MON
 
 
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写真:ホンマタカシ
デザイン:中村至男