横尾さんのインターネット。
横尾忠則さんが、横尾忠則さんを解説するって?

「Y字路、ふたたび」の部屋
 「絵を描く人」といること自体が
 おもしろくなってきた。変だよ!


東京都現代美術館で開催されている展覧会
横尾忠則「森羅万象」は明日(日曜)
グランドフィナーレ!
みなさん、お出かけくださいませませ〜。
今日の横尾忠則学芸員の解説は、
最後の部屋「Y字路、ふたたび」です。
前回の、引き込まれそうなY字路とは全くちがう、
別の世界がひろがっていましたよ!



糸井 最後の部屋ですね。
ここは、新作ばかりなんですか?
横尾 新作だけど、またY字路なの。
前の部屋にあったのは
夜のシーンばかりだったでしょ?
だけど、ここはちがう。

糸井 Y字路ネオ! Y字路に、
新しい表現が加わったんですね。
横尾 うん、そうね。
Y子さんがY次郎になったのかな?
糸井 アハ、ハハハ・・・。
Y字路って、
あれほどまでに暗ーいかんじだったんだけど、
どんどん、乗り越えちゃったんですね。
横尾さんは、暗いのがいま、嫌なんですか?
横尾 というより、もっと描いていくと、
Y字路でもなくなってくるんじゃないかな?
糸井 Y字路じゃなくなる?!
横尾 これなんかもう、
全体がうねってるじゃない?

糸井 これはもう・・・
Y字路じゃないですね。
横尾 Y字路はもう、どうでもよくなってるんじゃない?
どんどん発展させていくと、
まったく違うものに
なっていくんじゃないかしら。
糸井 それは、自分でも
わかんないわけですか。
横尾 ううーん、この先どうなるかはねぇ。
もしかしたらここで
Y字路をやめて、
また次のモチーフに移るかもわかんない。
これを続けて描くような、
なんていうのかなぁ、
「忍耐力」みたいなものがあれば、いいけども。
たいていの人はあるんだよね。
うん、たいていの人はあるんですよ。
糸井 もしかしたら「描くことが仕事」に
なっちゃった人は、
Y字路をやめないんでしょうか。
横尾 いや、ちがうな。
「芸術がすべて」みたいにして、
芸術と、自分の生き方や実生活を
いっしょにしている人が、
ひとつのものを
どんどんどんどん追究していくと思うわけ。
糸井 なるほど。
ひとつのものを
掘ってくんですかね?
横尾 うん。芸術の達成を、まるで、
その人間の人格の、人生の達成だと
勘違いしてる人が
いっぱいいると思うわけ。
ぼくは、そうじゃない。
糸井 ああ、ちがいますね。
横尾 ぼくは、生活だとかなんかの「現実」の反映が
たまたま、絵であればいいと思ってるわけよ。
だから、現実がおもしろくなければ、
絵がおもしろく描けないんです。
糸井 うん。そうですね。
現実がおもしろくなければ。
横尾 でも、絵を
生活そのもの、自分自身そのものに
してる人もいるよね。
そういう人はたぶん、
私小説作家みたいになっちゃうと
ぼくは思うわけ。

そうなると、最後は自殺するかもわかんないね。
だって、そうでしょう。
芸術の問題を、実生活のなかに取りこむと
そうなっちゃうでしょう。
さらにそこに、女性がからんだりしてさ。
それで情死したり心中したりしちゃう。
だから、ぼくは芸術と自分の生活とは
切り離しています。
糸井 そうか。私小説的なかんじの、
ケツの穴の小ささのようなものは
横尾さんの絵には感じられないです。
横尾 うん。
ぼくはちがうんだよね。
我々の、この世界は、
ある意味で「色即是空」の「空」だけども。
糸井 だけど、「色」について
ものすごい好きなんだ、ということですね。

こうしてざーっと見わたすと、
この絵をもって、
たぶんY字路は終わりのような気がするんですけど、
このあとの展開はあるんですかね?

横尾 ところがね糸井さん、このなかで
いちばん最初に描いたのが、
この絵なんですよ。
糸井 あれ? そうなんですか。
横尾 ここでの展示は
端から暗い絵の順番に
たまたま並べただけなの。

糸井 人はぜったいに、順路どおりに見て、
これで終わりだな、と思いますよ(笑)。
横尾 そうかもね。あれがこの部屋のなかではいちばん最初。
あの絵がね、ある日唐突にできてしまったの。
それで、次に、これを描いたの。

糸井 もし横尾さんのいまの発言がなければ、
後世、絶対にこの「暗い順」で解説をするでしょうね。
横尾 そうだろうね。
糸井 あぁ、言われたからわかるのでしょうけど、
比べて見てみれば、
ぼくが「最後に描いた」って思っちゃった絵は、
まだ幾何学模様を入れるような飛躍はしてないですね。
横尾 そうだね。
幾何学模様を入れたのは、
最後のほうだよ。
糸井 色でいうと、いちばん端に飾ってある絵が
いちばんはじけてるんだけど、
「飛んでるなー」って思う順でいうと、
こういうものが最後のほうだ、という気がします。

横尾 うん、うん。
糸井 屏風のような組みの絵がありますけど、
これはなにか新しい企みなのですか?

横尾 手前に突起してるのと、
向こうに消失点が2点あるっていうふうに
立体的にわかりやすいようしたんです。
糸井 なんだか、この作品には特に
怪しい気配を感じます。
次の時代をね(笑)。
横尾さんが、何かの展示用じゃないときに、
思いっきり精緻な絵を描くのとおんなじような企み。
横尾さん、バンッバン描いてますよね。
横尾 思想とか、メッセージ性とか、
そいういうのは一切ないけどね、この絵には。
そうだ。まだ、1点、絵を描いてないの。
それを明日持ってこないといけない。
糸井 まだ場所を空けてあるわけ?
横尾 そう、空いてるんだよ。
糸井 言いわけなら、いくらでもできそうですけどね。
空けとくのがいいってわかった、とか(笑)。
横尾 ま、描けなきゃ、空けててもいいか。
糸井 ・・・「絵を描く人」って、
その人といること自体がおもしろくなってきた。
横尾 ハハハ。
糸井 (よーく考えて)
変だ・・・変だよ(笑)!
横尾 何の役にも立たないことを
やってんだよねぇ。

糸井 ええっと、ここの最寄り駅は、
どこでしたっけ?
横尾 木場とか?
南さんに聞いてみて。
学芸員の
南さん


清澄白河駅とか、菊川です。
くわしくは、こちらを。
横尾 あんまり「都心」ってかんじのとこでもないけどね。
みなさんにぜひ来てほしいですよ。
糸井 ここまでの道案内を
したりすると来てくれるかも。
横尾 ダメダメ、ダメだよ。
それでもし途中で寄り道なんかしちゃったらさ、
展覧会の時間が終わってしまうよ。
寄り道はダメだよ。
いちもくさんにここに来なきゃ。
糸井 あ、じゃあ、あえて
「ディズニーランドより近い」
っていう紹介のしかたはどうですか?
横尾 え?
そんなふうに書くと、
ふっとディズニーランドを思い出してさ、
ディズニーランド行こうっていう
気持ちになるじゃないの。
糸井 大丈夫ですよ、横尾さん(笑)。
ディズニーランドとこの展覧会、
お客さんは別の人たちですよ。
横尾 いやいや、そう書かれちゃったら、
ぼくだったらディズニーランドに行くな。
糸井 そう言われるとな・・・(笑)。
でも、こんなにたくさんのことを思える
展覧会はまずないよ。
ほんとうに来てよかったです。
ありがとうございました。
横尾 こんなにいっぺんに見れる機会は
そうそうないからね。
何度も足を運んでくださいね。
しかし、都現美(註:東京都現代美術館のこと)は
いいね。きれいなところだね。
糸井 ぜいたくなつくりの建物ですね。
横尾 ほんとにいいところだよ(しみじみ)。


これで、「ほぼ日」での
横尾さんの解説による「森羅万象」は
おしまいです! ドンドン、ピューピュー!
解説へのご意見、展覧会をごらんになった感想、
横尾忠則さんへのメッセージなどを
こちらまでどうぞお寄せくださいね。
お待ちしておりまーす。
     

2002-10-26-SAT


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