矢沢永吉の開けた新しいドア。
「ほぼ日」特別インタビュー2003。

第10回 重荷を抱えこむこと

糸井 年齢、イッたほうが
ラジカルになるっていうのは、
永ちゃんを見てても、そうだよね。

50歳で、一回、
素っ裸になって、アメリカ・ツアー。
30代の永ちゃんだったら、
ああいうこと、できなかったんじゃないかなぁ。
矢沢 ああ、そうかもしれない。
糸井 「オレをそんなナメるな」
みたいになっちゃったんじゃないかね。
矢沢 そうだね。
「オレをナメるなよ」
っていう、質が変わってきたね。


30代の頃の矢沢は、
もっとすごくわかりやすい、直接的な
「オレをナメるなよ」で。
糸井 (笑)
矢沢 それで、今なんか、
悔しくないかっていったら、
いや、悔しさは一緒さ。

でも、
「オレをナメるな」
っていう中に、もっと秘めてるものがあるから、
「オレをナメていいよ。
 でも、オレは必ず打ち負かす」

……今なら、そういう気持ちだよね。

「オレをナメるなよ」
と同じことを言っていても、昔と違う。
糸井 永ちゃんって、変化すること、平気だね。
矢沢 ケンカ?
糸井 (笑)変化。
矢沢 (笑)おぉ、変化、変化。
糸井 すっごい保守的な面もあるはずなのに。
矢沢 ぼくはこうやって実際に
アメリカ移ったからわかるけど、
やっぱり、そんな簡単にはできないですよ。

仕事の撮影だとか何かで
ロスアンゼルスで2週間くらい過ごすなら、
そんなこと、カンタン。仕事だもん。

でも、実際に、生活したからね。
アメリカに生活拠点を置くとか、
子どもがいたら学校に行かせてとか、
話が、ぜんぜん変わってくる。

アメリカを見る気がするよ。
アメリカの中に入っていくわけだから。
糸井 いいところ、悪いところ、見ただろうね。
矢沢 中に入ったら、国民性の違いで、
どれだけアタマに来ることがあるか。

でもそれは、
アタマに来てもしょうがないことで。
われわれ、アメリカでは外人なんだから、
向こうに入っていかないといけない。


悔しい思い?
当たり前ですよ、
カルチャーが、違うんだもん。

でも、違う、違うって言ってはおれないから、
中に入っていく、ということとか……。
それは、ハンパなことじゃないですよ。
だから、この経験はめちゃくちゃものを言うと思う。
糸井 なるほどなぁ。
永ちゃん、家の中で、
お父さん役も、ずいぶんしてるじゃない。
家族とは、真剣に接するでしょう?
矢沢 「子どもがいなければ」
とは、正直、何度も思ったよ。

なぜかと言うと……
こういう仕事をしていると、
人に見られるだなんだ、わずらわしい、
滑った転んだ、っていうことが、あるじゃない。
子どもさえいなければ、どこだって暮らせる。

子どもがいると、アメリカでも、
学校の設備がちゃんと整ったエリアに
行かなければならない。
そしたら当然、矢沢永吉も何も、ないわけよ。
やっぱり、日本人エリアに行かなきゃいけない。
そうしないと、いい学校がないから。

そうなると、
「何のためにL.A.来たんだろう?」
っていうことも、あったりする。
子どもがいたら、人質に取られたようなもんよ。
だから、わずらわしさから何から、
もうぜんぶ、抱えこまなきゃいけないわけ。

でも、抱えこまないオレがいたら、
たぶんオレの人生は
絶対後悔するものになったと思うの。

だから、抱えこんで抱えこんで、
わずらわしさも、PTAも抱えこんで、
オヤジを張らなきゃいけないことも抱えこむ。
これは、あとでモノを言ってくるね。


わかります?
糸井 うん。
矢沢 だから、
「いなかったらどれだけラクか」
と思った時期もあるし、やっぱりその後で、
「抱えこまなきゃいけなかったっていうことは、
 どれだけまた、よかったことなんだろう」
ってことは思ったりするんです。

そういうことも経てきてるわけ。
糸井 なるほどね……自信が出てるね(笑)。
矢沢 うん。
オレ、朝に
子どもを学校に送ったりするのが、
とっても好きなんだよ。

……うちのせがれ、イトイが作った
ゲーム・ソフト(『MOTHER』)をやって、
もう、糸井を尊敬しちゃってんだけどね。
「イトイさん、スゴイ!」みたいになってるけど。
糸井 (笑)ありがたいよなぁ。
矢沢 その子どもたちを、
ガーッてクルマで送ってる時、
「あ、絶対、オレのほうが勝ってる」
と思うことがあるんだよね。

「こうやって学校に
 バチッと子ども送ってるオレのほうが、
 絶対にかっこいい。
 ……おまえらには負けねえぞ!」

っていうのが、絶対、あった。

「おまえら」っていうのが
誰かというと、わかんないんだけど(笑)。
糸井 「オレに何もやらせないでくれ、
 歌だけ歌わせてくれ」
ってやってたら、
きっと、歌えないんだろうねぇ……。
矢沢 うん。
オレは何度も思った。

「なんでオレのまわりは、
 こんなに事件が起きるんだ?」

「なんでオレはぜんぶを
 抱えることになってるんだろう?」

だから、どこかいいところのプロダクションに
抱えてもらって、高給をもらって
歌だけ書いてたら、どんなにラクかと思ったけど、
そしたら、ハッキリ言われたことがあるよ。

「それをしたらしたで、
 あなたは絶対ムリだから」

きっと、そうだよね。オレもそう思う。

(つづきます!)

2003-06-19-THU


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