矢沢永吉の開けた新しいドア。
「ほぼ日」特別インタビュー2003。

第9回 ライブハウスの匂い

矢沢 すごい短い時間で
アコースティックライブを実現させたのは、
結局、矢沢自身が歌手であるし、
そのライブのど真ん中にいるから、
実現できたのよ。
糸井 しっかり、やっていたからね。
矢沢 これが、机の前でモノを言って、
ああでもないこうでもないってやってたら、
たぶん、実現できなかったと思う。
糸井 「シナトラがこう言って……」
そういう会議をいっくら開いたってダメで。
矢沢 ダメだね。
会議、開かなかった。開く必要がない。
オレが「よし、コレだ!」と思ったことを
パパパパッと振って、もう、
その気になって入ってるわけじゃない?
糸井 その方針も、
「あ、違った、違った」
っての、あるわけでしょ?
矢沢 もちろん。
だからやりながら、
最初の10本15本のライブは、
「どこへ行っちゃうんだろう?」
っていうのがあったけど、
その都度、手を打ってるよね。

パーカッションがもうダメだってわかったら、
ルイス・コンテに電話を入れて……。
ツアーもやりながら、アメリカに電話して、
直接、ルイスのギャラを決めてるんだもん。
「これでどうだ?」
「それなら、今行く」
それで、あいつがバーッと飛行機に乗ってくる。
糸井 聴いてて、ワクワクするよね。
コワイけど(笑)。
そのスピードは、
永ちゃんがアメリカでやってる時に
身につけた、新しいやりかたなんじゃないかな。
矢沢 よく考えたら、そうかもね。
ぼくら、ローリング・ストーンズみたいに、
何十年も同じメンツでやってはいないじゃない?

毎年メンツ変わるから、
ギャラの交渉だってする。
「どう?やる?乗る?」
そういう感じも、あるわけで。
糸井 舞台裏では、
ものすごい先端の突っ走り方をしてて、
お客さんに見える部分では、
「ゆっくりしていってください」
そういうライブだったんだよね。
矢沢 そうだよ。
一生懸命、呼吸してね、
グーッと息を飲んで、MCで喋ってるわけ。
「ぼくも、このコンサートは、
 2〜3年前から、
 やりたいなという夢はあったんだけど、
 そんな中で、今日を迎えました」
クーッと抑えてしゃべってるの。
糸井 それ、感じたわ。
お客を落ち着かせてね。
矢沢 それで、自分も落ち着けと(笑)。
糸井 積み残しのトラックで走ってるけど、
舞台裏であったミスはぜんぶ手を打っておく。
そのやり方ができたら、
2度でも3度でも、また違うことをやれるよね。
矢沢 そうか。
イトイは、そういうふうに感じてたんだ。
糸井 うん。
アメリカのライブハウスで
ツアーをやっていたでしょう?
きっと、あの経験が下敷きになっているな、と。
矢沢 あるかもわかんない。
糸井 言わば、素っ裸じゃないですか。
味方の信用できる部隊を
ぜんぶ連れていったっていうのも、
それほど、怖かったからでしょう。

あれ、経費、めちゃくちゃかかってるよね?
矢沢 最初のアメリカ・ツアーが終わった時に、
ぜんぶお客が満タンに入っていても、
4000万ぐらいの赤字だった。
糸井 あそこで、素っ裸での戦いを
もう1回、覚えさせられて……。
そこで、新しいドアを開いたじゃないですか。
プロデューサー矢沢は、苦労するよね。
矢沢 でも、アメリカツアーっていうのは、
ほんとに、おもしろいねぇ。
糸井 あれ、苦労したと思うなぁ。
オレは、たぶんテレビで見たと思うんだけど、
アメリカのライブハウスの、
楽屋とも言えないような場所で、
永ちゃんが、スタンバイしている。

あれは、シビれたなぁ。
20代のやることだよね?
矢沢 うん。
楽屋の匂いって、おんなじ匂いがするの。

横浜に出た時のライブハウスの楽屋も、
ロンドンで撮影等々で行った時の楽屋の匂いも、
アメリカ・ツアーをやった楽屋の匂いも。

こないだ日本で、
音楽専門誌に出た時に、
下北か渋谷の小さなライブで撮影した時も、
やっぱり、楽屋の匂いは、おんなじなのよ。

甘酸っぱい匂いがするのね。
アメリカでコンサートに行って、
またその甘酸っぱい匂いが
フッとした時には……。
糸井 あの年だよね。
1999年だから、50歳近く。
矢沢 うん。
その年になってアメリカ・ツアーをやって、
入った楽屋がやっぱり甘酸っぱかった……。

最初に、横浜でオレが
「絶対、上に行きたい」
と思った甘酸っぱさと一緒なんだよね。

あの楽屋の甘酸っぱさって、やっぱり、
「上に行きたい、上に行きたい」
そういう匂いなんだよね。


あれ、不思議と共通した匂いがするの。

楽屋の匂いっていうのは、
甘酸っぱくて、不潔で、汗っぽくてね……。

その匂いを、矢沢永吉って名前が、
日本でハッキリあるという時に、またかいだから。
ロサンゼルスの楽屋、おんなじ匂いがするんだもん。

あれは、よかった。

(つづきます!)

2003-06-18-WED


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