矢沢永吉の開けた新しいドア。
「ほぼ日」特別インタビュー2003。

第8回 完璧な絵は求められない

糸井 永ちゃんがアメリカに行ってから、
アメリカの速度というものを学んだでしょう?
ゆっくりな時は、ゆっくりだけど、
踏みこむ時は猛スピード、みたいな。

アメリカ人って、
「積み残してもいいから、
 ほとんどの荷物を運べよ!」

みたいな発想が、あるじゃないですか。

多少、荷物を落っことしてもいいから、
ほとんどの荷物を運べよな、というか。

そういう気質が、
プロデューサー矢沢には、
もしかしたら、影響をしてるのかも、
と思っているんだけど。
矢沢 ふーん。
イトイから見ると、やっぱりこの
アコースティック・コンサートは、
まあ、「大変だったろうな」と思うわけだ。
糸井 ものすごく思う。
矢沢 「よくあそこに到達させたな」と思う?
糸井 思う。
矢沢 あぁ……やっぱり、そう映ってるんだ。
糸井 うん。
最後の日しか観てないのに言うのは、
ほんとはおかしいんだけど、
最初から、ああなるはずがないよね。
矢沢 よく来たよ、あそこに。
もう何度も同じこと言ってるけど、
あの最後の日、いちばん、
オレが嬉しかったんじゃないですか?
糸井 自分の中の、
ブライアン・エプスタイン
(ビートルズのプロデューサー)が
よろこんだ、っていう(笑)。
矢沢 いやぁ、でも、うれしかったね。
やっぱ、イトイにもそう映った?
糸井 あのね、ひとつ感じたことがあるんです。

アマゾン・ドット・コムって、
アメリカの会社で、あるじゃないですか。
ずっと赤字なのに株価を上げていった会社で、
去年はじめて黒字になって……。

あの会社の日本の支社ができた時に、
もう、今はいない社長なんだけど、
ものすごい速度でがんばっていた人がいて。
その人と、会って話した時のことを思い出した。

「昔は、組織がピラミッド型でしたよね。
 社長がいて、専務がいて……。
 でも、今の仕事をするには
 ピラミッド型では、とてもできない。
 組織論も変わっていると思うんですけど、
 どういう組織論を持っているんですか?」

そうやって訊いたんですよ。
そしたら、正直なところ、
組織論を語れるヒマがないんだ、って言うんです。
毎日どんどん変わっていってしまうので、
「こういう組織なんですよ」と絵が描けない。
でも、走らなきゃならないから……。
矢沢 うん。
行きあたりばったり的なことも、
必然的に起きてくるってことだよね。
糸井 そうです、そうです。
だから、何かをやろうと思った時に、
「組織がぜんぶ絵に描けてからやる」
っていったら、ライバルには、
とっくに追い抜かれちゃってる
わけで。
矢沢 それ、わかるなぁ……!
糸井 俺は、永ちゃんは、
そういうアメリカ時代を経た人だから、
あのクラシックなコンサートでも、
見切り発車ができたんじゃないかと思うんです。
だから、やる勇気が持てた。

最初は、
やりたいって意志だけはあった、
という状態でしょう。
矢沢 うん。
糸井 つまり、あの、建築模型でもそうだけど、
「街の中にその建物がある姿」が、あるじゃない?

あれは設計図でもないし、夢ですよね。
まわりに平気で緑を描いたり、
「こういう夢があるんですよ」
と、設計図をあとまわしにしてでも、
その「夢」のほうを、作っていくと言うか。
矢沢 実際、あたらしい扉を開けたり、
あたらしいことやることの実情ってのは、
そうかも知れないね。
糸井 そうだと思う。
矢沢 意外と、絵を完璧にサーッと描けて、
こっちから斜めに見て、
「お、抜けがないな。完璧だ。
 じゃ、みなさん行きましょう」
ってところまで来たら、
もう、日が暮れてんだよな。
糸井 (笑)
矢沢 完璧な絵を求めたら日が暮れてるし、
そんなもの、描けるわけないんだよね。
糸井 うん。

完璧な絵を書けるまで待ってると、
人間を集めたぶんだけ、
ずっと給料が出ていくんですよ。

だから、
3年前からキャスティングしてたら、
それって、「迷惑」ですよね。

黒澤明さんの時代にはできたんです。
役者さんは、1年、黒澤さんの映画にかかると、
ぜんぶ、収入がガーンと落ちるけど、平気だった。

今は、その時代ではないじゃないですか。

いちばんスピード感のあるヤツを、
バーンと集めて、ものすごく短い期間で、
自分たちのやりたいことを
徹底的に見えるようにしていって……。

それで、実現していったライブでしょう?
矢沢 そうだね。

(つづきます!)

2003-06-17-TUE


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