矢沢永吉の開けた新しいドア。
「ほぼ日」特別インタビュー2003。

第2回 見切り発車から生まれた宝箱


糸井 もともと、
『ピノキオ』企画が出たのも、
去年の夏のアコースティックツアー、
あれが、とてつもなく大きかったからで。
矢沢 あれを観にきた人は、
それなりに感じたものが、
けっこうあったんじゃないかなぁ。
糸井 アコースティックは、永ちゃん、
あんな宝箱だとは、思わなかったよね。
矢沢 「宝箱」って、いい言葉だね。
糸井 永ちゃん本人も、
「ドアを開けた気がする」
みたいには、言っていたんだけど、
「ほんとに、本人は
 アコースティックライブのすごさを、
 やるまで、わからなかったんだろうか?」
というところから、今日の話を、
はじめようと思うんですけど……。

つまり、シンガーとしての永ちゃんと、
もうひとり、
プロデューサーとしての永ちゃんが、
いるじゃないですか。
矢沢 うん。
糸井 その人が、後ろで、
「行けよ、行けよ」って、
言っているような気がするんです。

永ちゃんは頑固だから、
決めたらやるし、決めなかったら絶対にやらない。
はじめての試みのアコースティックライブにしても
「やる」と言った以上は、もうひとりの矢沢が、
シンガーの矢沢のケツを叩いていたんじゃないか?
そのへんを、改めて訊きたいなぁと思ったんですよ。
矢沢 今言ったことも、
あるかもしれないけど、
現実問題として、とりあえず、
ツアーがスタートを切っちゃった、と。
切っちゃったらもう、行くしかないもんね。
糸井 最初のキーワードっていうのは、
「アコースティック」っていうだけだったの?
矢沢 もう、最初は……そう、
「アコースティック」だとか、
「アンプラグド」だとかだった。
それで、
「アコースティックって何なんだろう?」
というところから、はじまって。
糸井 最初は「5人ぐらいでいいや」と?(笑)
矢沢 うん。

3人かなんかで、
アコースティック・ギターを持ってからに、
ジャンジャカジャンジャカ歌おうかと。
それで、当然、クラプトンだとか、
いろんなアーティストのシーンを見る。
糸井 うん。
矢沢 見ながら、いろいろなことを思うわけ。
オレは、3本だけの楽器でいいのかな?
やっぱベースは入れようか、
いやいやいや、ピアノも要るな、みたいに……。
そういうふうに増えていった。

そもそも、
オレの中で、もともとあったのは、
「絶対に他のアーティストが
 やっていないようなことをやりたい」
ということだったんです。
やっぱり、矢沢永吉のアコースティックには、
ひとつのオリジナルなものとしての色がある、
というところに到達しないと意味がない
なぁと、
ほんとに試行錯誤で、すごく悩んだよね。
糸井 それは、リハまでの間?
……つまり、キャスティングを、
決定しなきゃいけないわけだよね。
矢沢 メンバーのトータル・イメージ、
何人で、どういう編成で、
音楽はどんなことやって、
どんな目的でどういうコンセプトでどうやるか……。
具体的なところに入っていけばいくほど、
だんだんだんだん、やっぱり怖くなってきたし。
糸井 そのへんは、まだ歌っていないわけだから、
プロデューサー矢沢の仕事だよね。
矢沢 うん。
去年のアコースティック・コンサートの
おもしろさっていうのは、
同時進行だった、みたいなところがあるよね。
見切り発車で、発車しながら作りあげていく。

それは、わざとそうしたんじゃなくて、
「そうなっちゃった」んです。
だから、別の言い方をしたら、すごく本人、
ナメくさってツアーに入ったところがあるよね。

もう、入っちゃった。
抜けられない。止めるわけいかない。
「ツアー切るか……。
 いや、どうしようか?
 このメンバーじゃ、
 とんでもないことが起きるぞ。
 メンバー取り換えなきゃいかん!」
そのくりかえしで、
バーッとツアーに入っていった。

入って、手探り手探りしながら、
着実に自分のものにしていくっていうか。

ぼく自身も、
ツアーに入って、10本、15本していくうちに、
色っていうものがはっきりわかってきたのよ。
「矢沢永吉の
 アコースティック・コンサートは、
 こうなきゃいけないんだ!」
っていうのが、ツアーに入った時は、
わかってないんだよね。
入って、何本か消化して、わかってきてる。
糸井 じゃあ、
「わかるまでは組み立てらんないな」
と思って、先のばしにしていたら、
一生、できなかったかもしれないね。
矢沢 そうね。
だからこそシリアスだったし、
ほんとだったんだよ。
糸井 ずーっと、心配もあったわけ?
矢沢 もう、ありまくりよ。
カタチが見えてないんだもん……。
「見なきゃ見なきゃ」と、必死で。

あれがもしね、やる前からわかってて、
「はい、えー、段取りはこうで、
 こういう色で、このコンセプトで、
 こんだけのメンツを揃えて、
 こういう感じで、こうやりましょう!」
とわかっていて、メンバー押さえにかかろうか、
っていうんじゃないんだよね。

「こうでいけるだろ? ああでいけるだろ?」
といううちに、だんだん日にちが迫ってくるわけだ。
タッタカタッタ、と。

もう、日にちがない。
その中で、決定的なイメージを発見した。

(つづきます!)

2003-06-09-MON


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