ありがとうが爆発する夜
矢沢永吉バースデー記念
スペシャルイベントまでの日々。

第11回
矢沢永吉49歳・糸井重里50歳
ありがとうが爆発する対談



7曲目
「アーティストとしての戦い」
矢沢: 俺、若い頃に堂々とメディアと戦ってきた。
「オマエら家族撮ったらただじゃおかねぇぞ」って
はっきり言ってきてるタイプだから。
連中もやっぱり「あの人はヤバイよ」って
思ってるんじゃないの。
そりゃ姿勢の問題じゃないですか。
なかには撮って下さいっていう芸能人いるから、
だから混乱するんだけど、やっぱりわかれるよね。
「ほっといてくれよ。今、仕事じゃないんだから」
って言う人もいるけど、
「家族、観て下さい」って人もいるから。
糸井: 身をかわしながら、
言いたいこと全部言ってきたって感じだよね。
矢沢: めんどくさかったと思うよ。
「アイツはヤバイよ」って。
だって、バリバリ言っちゃうんだもの。
そういえば、こないだ俺、
あるミュージシャンとばったり会った。
「ああ、エーちゃん、どうもー」、
「久しぶりー!」って言ったけど、
かなり時間がたってたからオッケーだった。
俺、一時期、彼はすごくいいやつだと思ってて、
信じたんだけど、結局、ある事件があって、
「あ、こいつダメだ」と思ったの。
  どういうことかっていったら、
当時('72〜'75年)契約してた
フォノグラムっていうレコード会社と
もめたことがあるんだよ。
考えてみたら、俺って昔からいつも
体制と正面から大喧嘩してるんだよね。
「フォノグラム? クソったれ!
あんなレコード会社潰れれりゃいいんだ!」
ってことを雑誌とかラジオではっきり言っちゃったわけ。
そしたら、マジに影響あったみたいね、当時。
新人ロックバンドがフォノグラムに行かなくなってきた。

どういうことされたかと言うと。
結局、アルバムの曲順かえて、タイトルかえて、
何とか盤っていうのを、バンバン作ったわけよ。
彼らはやる権利があるからやったって言うけど、
俺はそういうことはやめてくれって言ったわけ。
わかるだろ?
たとえばファンキーモンキーベイビーってアルバムが
あったら、なんとかゴールドなんとか盤とかってのを、
曲順をかえて、タイトルをかえて出すわけだよ。
これはある種、ファンに対してはだましだろ、と。
だから、それはやめてくれ、と。
でも、レコード会社は儲けたいからやると。
それで大もめしたわけだ。
結局、俺ソニーに移籍した。

で、フォノグラムはもうなっとらん、と。
まあ、どこのレコード会社でもやってんのよ、当時は。
やってるけど、フォノグラムはやり方がエグかったのね。
で、俺はあの会社潰してやるってことで、
あの会社の手口をラジオでばっかばか言い出したのよ。
で、そのミュージシャンが出てる深夜放送に
ゲストで俺が出るってときに、そいつに言ったわけ、
こうでこうで俺は頭きてるんだ、って。
「エーちゃん、それはよくあるよね、うん」
と言ってたんだけど、
それを深夜の生番組でやろうとしたら、
そいつはその情報をディレクターに売った。
この、なんつうのかな、ディレクターとしては
そういう話は当番組でやってくれては困る
ってことになったわけだ。
で、今夜の矢沢さんの出演はとりやめる、と。
俺、頭きて。
「二度とこのラジオ出ない」って言ったんだもの。
普通アーティストが干されるのに、
アーティストのほうから干しちゃうんだもん。
それで本人が消えないからすごいよね、矢沢。
糸井: (笑)本人そんなこと、忘れて生きてるんだよね。
矢沢: そうよ!
で、そのときに、そいつには言ってないけど、
俺は心の中で、
「ああ、こいつは芸能人だなぁ」と。
「アーティストじゃないなぁ」と。
俺たちは共にシンガーソングライターなんだから、
お互いにミュージシャンの俺たちとしては、
改革をしていかなきゃいけないのは、
共通のテーマじゃないかと。
だから、当時、
「ミュージシャンはもっと印税をとって、
豪邸に住まなきゃいけないんだ」ってことを
バンバン言ってたのは、そういうことがあったからよ。
糸井: もう、キャンペーンみたいに言ってたよね。
矢沢: そうだよ。
だって、今ロックシンガーが一発当てれば
メルセデス乗れるようになったラインって、
オーバーな言い方だけど、俺が作ったラインですよ。
あの頃はプロダクションが上前全部はねた時代だよ。
それふざけるな、と。
あと、評論家に対しても俺言ったよね。
評論家がだいたいギター1本も弾けないくせに、
右だ左だ、そのレコードはああだこうだ書くな、って。
糸井: 「俺のことほめるな!」とまで言ってたよね(笑)。
矢沢: ふざけるな! って言ったわけ。
「矢沢さん、評論家とはどういう関係ですか?」って
訊かれたことがあったんだよ。
「評論家とは……そうだなぁ、
雨がザーッと降ってるときに、俺たちアーティストが、
メルセデス乗ってバーッと走って行こうとしたら、
雨のなかコンコンコンって窓ノックして俺のとこ来る。
『矢沢さーん、ニューアルバムに対して一言!』
俺は窓2センチだけスッと開けてやって、
『グレイトって書いといて!』、『おい、行け』
ってクルマ、スッと走らせる。
このくらいの関係じゃないの、
評論家とオレたちアーティストの間は!」
って俺言ったよはっきり。
このくらいの関係だから、評論家に言っとけって、
「生意気なこと書くな!」って。
そしたら評論家ビビッちゃってさ(笑)。
糸井: (笑)だってエーちゃん、
中上健次さんが書いたときでさえ文句言ってたもんね。
矢沢: いや、それは……。
糸井: だれでもカンケーない(笑)。
俺はね、「アイツわかってねぇよ」
って言ってるの聞いたよ(笑)。
矢沢: いや、中上健次さんはそーでもなかったよぉ……。
でも、そういえばこんなこともあったな。
ある評論家がいてさ、
あの人が書いて動かしてるみたいな時代あってさ、
それがもうカチンときたから。
それで、その人が出る番組の出演依頼が
テレビ神奈川からきて、
「生番組です、矢沢さん出ますか?」って話だったから、
「生?」って念押しして、「生です」って言うから、
「生なら受けます」って俺言ったんだもの。
それはつまり……生だから。
それで、リハーサルだよ。
「どうも、矢沢と申します、よろしくお願いします!」
ってな感じでリハーサルやって、いざ本番だよ。
4、3、2、1、スタート!
「……俺、評論家って嫌いなんだよ」。
糸井: (笑)ひどい!。
矢沢: (笑)そのセリフから始まったんだよ。
「俺って評論家嫌いなんだよ」って、そしたら
「は……!?」ってびっくりしてるわけよ。
「だいたいねぇ、ギターの1本弾けないヤツが、
ペン1本で右だ左だって、なんだよ。
俺たち意地賭けて、根性決めてから
ニューアルバム作ってんですよぉ」。
……もう、彼、顔サーッってまっ青になって、
何言ってるかわかんなくなっちゃって、ディレクターも
カメラどっちに向けていいかわかんない。
「やっぱりアーティストってのは、愛をもって、
信じて、アルバム売っていくんだよねぇ」って言って、
「それやっぱり、ギターの一丁くらい覚えて、
エレキ、ポーンとキメるくらいの人に
書いてもらいたいですねぇ」。
……終わっちゃったよ、話。
糸井: (笑)どうもありがとうございました、って。
矢沢: (笑)で、終わって。
ちょっとやりすぎたかなぁ、と思って。
さすがに俺も若かったから。
糸井: 今はしないだろぉ(笑)。
矢沢: しないしない。
それから、1カ月しないうちに
あるパーティーがあったのよ。
もう、俺、酔っぱらって……大酔っぱらいだからね。
でまあ、みんなズラーッと並んでて。
そしたら、見たんだ。彼がいたんだよ。
それで俺、謝ろうと思ったのよ。
糸井: (笑)それもすごい。
矢沢: さすがに、ちょっとやりすぎたと思ったのよ。
で、謝らなきゃと思って、近づいていって、
「あ、○○さーん!」って言ったの。
「……あっ! はあ〜」って帰っちゃったよ。
糸井: (笑)まっずいなぁ。
矢沢: で、それから月日が10年。
その間、会わなかった。
で、彼、ぜったいに俺のこと書かなくなった。
わるいことは書かない、いいこともぜったい書かない。
触れないのよ、もう。
触れたら何言われるかわからないと思ったんじゃない。
やっぱ、俺も「やりすぎたなぁ」って思ってて、
で、10年後に寿司屋でバッタリ会ったんだよ。
「あっ!」って気づいたら向こうも「あぁ……」って。
彼ともうひとり知り合いがいて、
その人は俺よく知ってたから、
「いや、どうもどうも」
「ああ、どうもどうも」ってやってたら、
その人の後ろに隠れてんだよねぇ。
糸井: (笑)かわいそうに……。
矢沢: びっくりしたんじゃない、いきなり矢沢入ってきたから。
ま、寿司屋の雰囲気だから、俺も丁重に。
俺はそのころいろいろがんばってて、
ドゥービーズ連れてきてなんだかんだやった後よ。
彼の顔がちょっとこうチラッと見えてて、
「……矢沢さん、いろいろがんばられてますね」
って言うから、
「いやいや、ありがとうございます!」って丁重に。
そして、別れたんだよ。
で、その後でスタッフに、
「○○さん、武道館に招待。
矢沢が来てくれませんかって言ってると伝えてくれ」と。
うれしかったんじゃない。
だって矢沢ってバリバリ毎年決めてるじゃない。
糸井: 評論家として、
エーちゃんに触れちゃいけないってのもいやだよねぇ。
矢沢: で、彼、来てくれたんだよ。
そしたらその年は、ちゃんと書いてくれたよね。
自分は観たと、男一匹がここまで根性決めてやるのは、
やっぱさすが、すごい、と。
そこで、なんにも言わないうちに和解よ(笑)。
でもねぇ、どれを見ても矢沢が言ってること、
まちがいじゃないんだよね。
だから、今までは、そういうことは言っちゃいけない、
言えないものだっていうレールをひいてただけの話よ。
(つづく)

1999-08-17-TUE

YAZAWA
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