ありがとうが爆発する夜
矢沢永吉バースデー記念
スペシャルイベントまでの日々。

第9回
矢沢永吉49歳・糸井重里50歳
ありがとうが爆発する対談



5曲目
「まず自分のために楽しもうよ!」
糸井: エーちゃんさぁ、あの話したっけ?
もともと生き物は水の中で育ったわけじゃない、
地球ができてから。
で、魚だとかタコとか水の中で安定してたわけですよ。
水ってぜんぶの栄養素あるし、生き物がすむのに
最高の環境だったんだけど、どういうわけか
陸に上がったやつがいたんですよね。
それまでって、生き物はぜんぶ水の中にいたんですよ。
それなのに、陸に上がる理由ってホントはないんですよ。
だけど、陸に上がって何かになって、
今、ほ乳類として僕ら人間がいる。
陸に上がる理由がなかったことだけに、
生きるのがすごいつらかったらしいんですよ。

で、それと同じことが、母親の子宮のなかで
赤ん坊が成長するときに起きてるんですよ。
つまり、最初は精子、微生物ですよね。
それが水の中、羊水の中で暮らしてる。
で、だんだん形が変わっていって、
魚の形からサルの形になるまでに、
ちょうど今までの人間の進化の過程を
ぜんぶやってるんだって、子宮で。
で、陸に上がるときってのがツワリなんだって。
いちばん苦しいんだって。
つまり、生き物として、
そこで死んじゃうかもしれないっていう大冒険を、
陸に上がった経験を全員子宮でやってるのよ。
人類そのものがやってきた勉強を、
もう一回子宮の中でそれぞれの人間がやってるのよ。
その話を最初に聞いたときにね、気が遠くなったねぇ。
みーんなそれやってきたんだって。
矢沢: それを考えた人もすごいねぇ。
糸井: 日本人。三木成夫さんていうね、
もう亡くなっちゃった解剖学者でね、
早く亡くなっちゃって、3冊くらいしか本出してないのよ。
その人が発見したのよ。
単純に、胎児をタテ方向から観察する研究したのよ。

思えば長生きしてる人って、
ぜんぶ安定した水のなかができたときに、
たとえば自分はサメでもマグロでもいいよ、
ここで安定したって時に、
ぜったい陸に上がろうとするじゃない。
で、陸にもうひとつすみかを作って、
次はあの山に行ってみようとか、
安定したところをぜったい出るじゃない。
あれを繰り返した人だけが長く生きてるんだなぁ
って思うと、おもしろい。

エーちゃんも、ぜんぶ安定してるのよ1回ずつ。
で、ぜったい捨ててる。
創って「もういいんじゃない」って平気で壊して出ていく。
捨ててるのか、留守番させてるのかしらないけど、
自分はいなくなってるよね。
矢沢: 俺、そういうところ、あるよね。
俺ね、ワーッって行くとこまで行くと、
パッとそこから出ちゃうとこあるよ。
広島から出てきてよ、あるもの創ったら壊す、
壊すっていうか出ていく。
糸井: 一生家出人みたいなやつだね。
矢沢: で、それは、マイナスじゃなくて、
プラスとして残っていかんがために出ていったのね。
だから、そういう運命なのかな、って。
糸井: だから、結局何回冒険したかだけが経験で、
ただ生きてたっていうか、
ただ漠然とこれでいいやってなったら、
あとはおもしろくないよね。
矢沢: おもしろくないよぉ。
前にイトイに言ったっけ?
むかーし、友だちの家に遊びに行ったら、
友だちの同級生ってのが2人来てて、男と女で。
で、「あ、どうも」って言って、俺のこと見て、
「あ、矢沢さん、テレビ見てます」ってそこまで普通で、
「えーと、どちらに?」って話したら、
2人とも区役所勤めてて、
区役所いいじゃない、役人だよね。
歳はあのころまだ、25歳くらいよ、お互いに。
俺、キャロルでデビューして間もない頃で。
で、なんだかんだ話してたら、2人は夫婦なんだよ。
それで、恩給がまともだとか、実働は6時間しかないし、
スリッパも支給されるし、どうのこうの言ってる。
……こいつらバカじゃねぇか、と思った。
なーんつうのかな、ホントつまんないよねぇ。
そうやって、25歳でレール決めちゃってんだもの。
糸井: それをバカにするつもりはぜんぜんないんだよ。
その暮らしの中で、何か見つけようとしてる人ってのは、
動きとしては見えないけど何かあると思うから、
なるべくその人たちの「何か」を
見たいなとは思うんだけど……。
矢沢: だから、役所でも、大企業でも、
彼らの世界のなかにもちゃんとスピリッツはあると思う。
ふたつにわかれると思うよ。やってる人はやってるよ。
だけど、もうその彼らの場合は話聞いてると、
もうレールぜーんぶひいて、
それが安心だからいいよねって、女房も「うん」って。
その職場だけでなく、どのジャンルにも
そういう人はいるんだろうけど、
人生ぜんぶを考えたら、今イトイが言ったように、
生まれてから死ぬまでのひとつの映画じゃない。
そしたら、いろいろな経験したり、抜けたり、
新しいこと始めてぶつかったり、
結果的に、ぜんぶ自分がやって自分で納得していったら、
そのほうが人生おもしろいよね。
糸井: 「俺が生きていることを、俺がいちばん楽しむ」
っていう気分が、たぶんいちばんおもしろいんだろうな。
みんなが喜ぶからってしたことって、
そんなにないんだよね。
わがままな話だけどさぁ(笑)。
矢沢: だから、知らぬ間に、僕はよく、
「自分を楽しませるために俺はやってる」とかさ、
たとえば“ありがとうが爆発する夜”もそう、
「自分自身に感謝したい」とかさぁ(笑)。
そういうことポーンと言ったりするわけよ。
俺ってけっこう素直なんだと思うなぁ。
糸井: 俺はあのコピーは、
エーちゃんのイタコやって書いてるわけだから、
自分がエーちゃんだと思ったら
こういうこと言いたいだろうなと想像して書くから、
不思議はないよ。
でも、俺自身のことであれは書けない(笑)。
矢沢: ホントそうなのよ。
「自分がどのくらい人生のオルガスムスを感じたいか」
っていうことなんじゃない、結局は。
だからそれを言い切って、やりきってるやつのほうが、
本当は人のこと考えられると思うよ。
糸井: 結局さ、海でつくる砂の城みたいなもんでさぁ、
ぜったい壊れるってわかってるじゃない。
だけど、「ここまでスゴイのできた!」ってのを
一生懸命つくればつくるほど、大波がバーンって来たとき、
ウワーって気持ちいいじゃない。
あれをやってるのかね。
永遠になくならないものなんて、
エーちゃん、創ってる気持ちないでしょ?
矢沢: ないね。ないない。
そういうおセンチになった時期はあったよ。
あったけど、すぐに違うもんだとわかったもの。
「そういうもんじゃねぇな」と。
その場その場を、強いて言えば
自分のためにバーッとハッピーにやってたことが、
ファンたちへのメッセージにもなっているし、
だから「まず自分のために楽しもうよ」と。
糸井: それがライブの感覚ってやつかねぇ。
矢沢: そうよ。それをやることだけですよ。
糸井: 今日のショーは今日しか観られないっていうねぇ。
明日はちがうんだもんなぁ。
(つづく)

1999-08-13-FRI

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