ありがとうが爆発する夜
矢沢永吉バースデー記念
スペシャルイベントまでの日々。

第8回
矢沢永吉49歳・糸井重里50歳
ありがとうが爆発する対談



4曲目
「ハッピーにならなきゃいけないんだよ」
矢沢: 人間がハッピーに暮らすってことが
どこで完結するかって考えたときに、
レールを信じて頑張ってきたはずなんだけど、
もうひとつ、“気”が必要なんだよ。
“気”があって、
フィーリングがあってハッピーなんだよ。
それで初めて人間は幸せになれるんですよ。
迷わないんですよ。
納得して死んでいけるんですよ。
ここんとこずっと、その“気”を忘れてきた。
その“気”はなにかって言ったら、なに?
「なにになりたいの?」
「どうしたら気持ちいいんだ?」
「僕は○○になりたい!」っていう
子供の頃にやってた会話が
実はとんでもなく大事な
意味を秘めていたってことが
はっきりするんだね、これでね。
糸井: 今みたいに、親とか周りの人が
自分がどうなりたいのかわかってないときには、
子供だってわからないよね。
矢沢: そうだよね。
だから、なんていうのかな、教育のなかで
自然にそういうことが意見交換できるような環境を
つくらなきゃいけないってことなんですよ。
わかります?
糸井: 青臭い話ができる環境がほしいんだよね。
矢沢: たとえば、これも言ったんだよ。
モーツァルトだ、シューベルトだ、って教えてて、
音楽の時間どうだよ、みんな寝てるよな。
わかるわけねぇじゃんそんなの。
モーツァルト? シューベルト? だからどうしたよ!
だけど、キャンバィミィーラーヴ! ってやってくれて、
「あれはCマイナーと転調でFコードだよ」
ってやったら、そのほうがよっぽど入るよ。
というようなね。

だから僕思うけども、そういう環境づくり?
今、そういう環境ないわけじゃない。
だって、ウチは特別講座を
受けてでも次の受験には勝つ
っていうやり方をずーっとやってきたんでしょ。
大学が絶対じゃないんだよ、
大企業が絶対じゃないんだよ、
っていう前提で、それでもキミが大企業に
絶対行きたいんだったら、それが答えだよ。
そしたら、大企業に入るように全力でやれよ。

青臭い話をすることは恥でもなんでもないんだよ。
もっと子供の心ひらいてあげて、
子供の気持ちを聞く。
子供がサッカーしたいなら、
サッカーのサークルにぼんぼん入れりゃいいんだ。
「さて、塾の時間とサークルの時間があるけれど、
うーん、ま、塾はいいわ、サークル行け!」
みたいな。
「まあ大学でもいろいろ種類あるけど、
まあ、いいじゃん、サッカー行く?」
みたいな環境がもし日本にあったら……。
糸井: どっちでなにを学ぶかわかってれば、選べるんだよなぁ。
矢沢: 必要なのは、そういう環境があるかないかじゃん。
もしあったら、将来いろんなヤツが出てくるよね。
だけど、もちろん最低限の教育はぜったい必要だよね。
それをね、今日感じたの、俺。
糸井: 仕事で日本とアメリカを行き来してるのが、
すごく影響してるでしょ?
矢沢: すごく影響してるね。
糸井: 何日か前にNHKでハリウッドの歴史をやってたのよ。
その番組観てたら、今トップクラスの人が
元郵便配達係だったりするんですよ。
会社のなかで郵便物配る人いるじゃない。
ああいう人がトップクラスになってるんだよね。
矢沢: アメリカに発明家がなぜ出るか?
改良は日本でやるけど、発明はアメリカで、
パテントはほとんど握られてるよね、
携帯電話でもなんでもそうだけど。
アメリカにはそういう環境があるんだろうな。
理にかなってんだと思うな。
俺、日本大好き、だって自分の国じゃん。
でも、理にかなわないことが日本は多すぎるんだね、今。
糸井: エーちゃんの理ってのが、
今までの日本の理じゃなかったんだよ。
矢沢: そうだよ。
だから、今考えたら「成りあがり」の本ってあれすごいよ。
あれはすごいこと言ってるんだ。
今考えるとあらためてそうなんだな。
糸井: あのときに、相談して、ああいう本にするかどうかって
ちょっと悩んだじゃん、みんなで。
だけど、あそこで選択したことが、
今の時代にぜんぶつながってるんだよね。
矢沢: つながってる。
だから、人間ってのは本当はシンプルでいいのよ。
糸井: その人の生き方なんだよねぇ。
矢沢: そうなのよ。
それを勇気をもって社会とかメディアとか周りの人が
「大学行かないことは恥でもなんでもない。
むしろ目的をもたせることのほうが
もっと大事なテーマなんじゃないの」
って言える環境ができることのほうが、
本当は正しいんだと思うよ。
勇気いるけどね。

人間ってのはどうならなきゃいけねぇかって言ったら、
幸せにならなきゃいけないんだよ。
ハッピーにならなきゃいけないんだよ。
だから、悩んで、うだうだしてたら
こんなつまんないことはないよね。
まあちょっとこう七面倒くさい話になってるけど、
今日、俺は感激してるのよ!
糸井: わかっちゃったんだね。
矢沢: こないだまでわからなかったなぁ。
糸井: え、そうなの? わかってやってたじゃない。
矢沢: いや、そうでもないんだよ。
糸井: エーちゃん、身体が先にわかるんだよね。
矢沢: 結局ねぇ、一流大学出て一流企業入って
ホワイトカラーやることがいいんだというのはね、
これはね、トリックだよ。
ある種のトリックだよ。
まあ、面倒くさいから、まとめちゃったんじゃないの。
ああだこうだって言い分をぜんぶ立てると、
いろんな言い分があるから、
「こういうラインが、まあ手堅いんじゃないの」
っていうことで、やったことが、
いつのまにか絶対になっちゃったんだよ。
糸井: そういうことだね。
いつのまにか「みんな同じにやれよ」になっちゃった。
そこから外れたときの冒険とか勇気とか
いろんな苦労がくっついてくるじゃない。
で、それを乗り越える前にだいたい倒れちゃうから、
まとめられたところに戻っちゃう、
っていうことの繰り返しですよね。
(つづく)

1999-08-12-THU

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