ありがとうが爆発する夜
矢沢永吉バースデー記念
スペシャルイベントまでの日々。

第5回
矢沢永吉49歳・糸井重里50歳
ありがとうが爆発する対談


都内にある一流ホテルのスイートルーム。
控え室にいるdarlingとセイヒロー。
隣りの部屋では、矢沢永吉が雑誌の取材を受けている。
とにかく声がでかい。話がそのまま聞こえてくる。
ときどき大きな笑い声。……取材がおわったようだ。
ガチャ、ドアが開く。来た!
“でかい!”180センチくらいの大男。
肩、腕、胸の筋肉がすごい。
黒い服が印象をさらにひきしめている。
「よぉ! イトイ! 久しぶりぃ!」。
がっちり握手……。

“ありがとうが爆発する夜”というのは、
矢沢永吉の50歳を祝う9月15日のコンサート用に
darlingが創ったコピーです。
話はそこからスタートしました。


1曲目
「キャッチコピーそのままの気持ち」
矢沢: “ありがとうが爆発する夜”ってコピー。
どっから出てくるのかなと思うけど、
俺すごくうれしかった。
なぜかって言うと、今ホントにその気持ち、
“ありがとうが爆発する夜”なんだよ。
このタイトルそのままがコンセプトですよ。
糸井: うれしいねぇ。
“爆発”と“ありがとう”って合わないんだよ、普通。
エーちゃんだとできるんだよ。
矢沢: いや、でもねぇ、僕はうまいと思った。
だって“ありがとうが爆発する夜”だよ。
みんなも言ってるよ、
「キャッチコピーすごいね!」って。
「これ考えたのって、糸井重里さんだろ?」
「いや、糸井重里“氏”だよ」って。
俺もあっちこっちで言ってるもん。
うん、いいタイトルだよ、いいキャッチコピーだよ。
あれ以上のものはないね。
糸井: 今年の9月15日にしか使えない、
ってものにしたかったから。
矢沢: うまい! やっぱり、うまい!
俺は言いまくってるんだよ、「あいつプロだね」って。
ま、それがあってね、今もう取材すごいんだよ、俺。
ボコボコ、やりまくってる。
新聞にだって、ばっかばか出てるだろ。
糸井: 取材100件とかあるんじゃない?
矢沢: うーん、そりゃオーバーだけどさ。
でも考えてみりゃ、50歳になるってときにラッキーだね。
こうやって、俺みたいに言いたいこと言って、
やりたいことやって、思うことやってきてんだもの。
普通、消されるよ、途中で。
糸井: 5回や6回、消されてもおかしくないよね。
矢沢: そう、消えるよ。それが消えないんだもの。
むしろパワーつけちゃってるんだもの、ガンガン。
それはねぇ、幸せなことだと思うね。
冗談ぬきで、もともとが僕はぜったい真面目だからね。
糸井: クソがつくくらい。
矢沢: クソがつくくらい真面目よ。
人間の基本ラインなんて、若い頃と変わんないじゃん。
変わらないけど、まあ、見方が幅広くなってくるよね、
歳とってくると。
歳とるっていうか、経験積んで。
昔は矢沢のあの頑固さがよかったのよ。
「俺はこう思う、ほかはクソ! 認めない!」みたいなさ。
エッヂが立ってるみたいな。
糸井: ちょうど建築現場みたいな時代だよね。
矢沢: そう。
今はねぇ、それをやってきて言えることなんだけど。
ああいう道があってもいいんじゃない、って。
糸井: あのとき思い切ったのが、ぜんぶよかったよね。
矢沢: そう。思い切ったのがよかったのよ。
ところで、イトイが今やってるホームページ、
毎日? 信じられないねえ。
なに? ほぼ日刊イトイ新聞?
でもさぁ、こういうことやろうと思ったイトイって
おもしろいキャラクターしてるね。
結局、イトイのすごい素晴らしいところはね、
僕、つくづくわかるんだけど、
やっぱり、ずーっと遊んでるじゃん。
糸井: 遊んでる? うーん?
矢沢: いや、遊びっていうけど、真剣ってことだよ。
遊びが真剣なんだよ。で、遊んでるじゃない。
それを何人の人ができるかな、って考えたら、
ある種、すっごく大事なことやってるよね。
埋蔵金の話あったじゃない、あれ大好きなのよ。
それで最終的に「エーちゃんあれないよ」ってときに、
「おー、そこまで掘った!」みたいなさ。
そーいう人間はいなきゃダメよ、日本に。
糸井: オレなんかは、エーちゃんみたいに、
ちゃんと積み重ねていくものに憧れるのよ。
乱暴やりながらも、ちゃんと。
矢沢: いや、だから、俺がしょっちゅうイトイに
「なんかアイデアない?」って訊くのはそこよ。
イトイが急にいろんなことパーンとやるじゃない、
あーいうものはぜったい必要なの。
それと、矢沢のバチーンって決めるとこあるじゃない、
あれで勝負をかける必要性ってのもあるんですよ。
そりゃ、俺はああいうことしたい、
こういうことしたいってことがバンバンあるけど、
ちょっと「うーん」と迷うときは、
「あの遊び人の天才のイトイはなにをするんだろう?」
「またバス釣り行こうっていうのかな?」
「なんて言うか訊いてこい」って言うの。
そしたら“ありがとうが爆発する夜”ってタイトルだよ。
ひじょうに、いいんじゃないですか。
人間の世の中ってのは赤い色ばっかりじゃいけないし、
黄色も黒もなきゃいけないでしょ。
そういうことで、成り立っていると。
糸井: ぜんぜん違うんだろうね、いる世界がね。
水生動物と陸生動物みたいにね。
矢沢: そうなんですよ。それが必要なの。
糸井: 俺はさ、逆にさ、いろんな若い人が出てきたり、
引っ込んだりしてるの見てて思うんだけど、
人が引っ込んでいく理由はいくつだってあるじゃない。
矢沢永吉が潰れる理由なんて、もう100回もあったよね?
矢沢: あったよぉ。
糸井: だいたいの人は何回か大きいパンチくらったら倒れるし、
いなくなるのか、いらなくなるのか、ね。
だけど「このオッサンはどうやったら倒れるんだよ」
みたいなさ(笑)。
矢沢: ますます、大木がでかくなっちゃってさ(笑)。
(つづく)

1999-08-05-THU

YAZAWA
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