ヤオモテ、OK  矢沢永吉の新しい『ROCK'N'ROLL』

第12回 もう、とんでもないステージだったよ。

矢沢 まぁ、いろいろ言うけど、オレはやっぱり、
自分の経験から実際に学んで、
「自分はこう思うんだけど」とか、
「こう自分に言い聞かせてきたけど」
っていうことしか言えないんだよね。
糸井 うん、うん。
矢沢 そういうふうに、
自分なりの理屈を人に言うことで、
自分を暗示にかけてるのかもしれないし。
糸井 やっぱり、永ちゃん自身も
つねに探っている状態というか、
暗示かけながら自分を
奮い立たせてるようなところがあるんだね。
矢沢 うん、ありますね。
やっぱり不安になるからね。
だからこそ、「これでいいんだ」って。
糸井 ずいぶん前に、
ステージに出ていく直前は、
こっちだってガタガタしてるよって、
言ってたことがあったけど、
いまでも、そういう気分っていうのは?
矢沢 もちろん。あたりまえの話です。
糸井 やっぱり、そうなんだ。
それもだから、
ある意味、押し出されているというか、
「大好きで、なんのストレスもなく」
っていうことじゃないんだね。
矢沢 そりゃそうよ。
矢沢永吉は、1万人相手に
「ヘイ、ロックンロール!」って言ってるけど、
「はい、10分前です」って言われたら
「10分、OK」って言いながら、
もう開き直ってるんだ。
なんで開き直るかっていうと、
開き直るしかないぐらいにビビってるから。
糸井 おもしろいねぇ。
ビビってる永ちゃんと、
ぜんぶ平気って言う永ちゃんと。
そういうのをぜんぶ考えてる永ちゃんと。
矢沢 ぜんぶ、ほんとう。
糸井 何人もいるよね。
矢沢 いっぱいいるよ。
それで、はねのけてるんだから。
糸井 不安やストレスを。
矢沢 うん。
それで、1曲目がはじまって、
2曲目やって、って進んでいくとね、
だいたい5、6曲目ぐらいで、
油が回って体が落ち着いてくる。
糸井 へぇー。
矢沢 出る前のほうがイヤだね。
「カァー、もうはじまるなぁ、
 えい、クソ、いったれー」みたいな感じ。
いってみれば、もうヤケクソよ。
糸井 そういう話は、何度聞いてもおもしろいね。
矢沢 そういうことでいうと、
いちばん笑っちゃう話があってね。
オレ、過去にね、
「これは最高だったんじゃないか」
っていうステージを何回か経験してるんだけど、
それのめずらしいパターン。
糸井 ほう。
矢沢 ある年の横浜スタジアム。
あそこで、ワァーって、キメてね、
大きな場所で、いいステージができて、
もう、最高にうれしくて、
「大成功ー!」って言って、その夜はもう、
朝までベロベロに酔っぱらってたわけ。
糸井 うん。
矢沢 で、翌日が銚子かどっかだったの。
糸井 うん。
矢沢 それでね、まぁ、ほんとに、
銚子の人には悪いんだけど、
もう横浜のスタジアムが終わったあとで、
つぎは銚子ですって言われてもさ、
正直、ピンとこないんだよ。
「銚子にオレ、なにしに行くわけ?」
ってな感じなわけよ。
糸井 (笑)
矢沢 ところが、だよ。
そのときの銚子のステージは、
史上最っ大に、よかったね。
糸井 へぇーー(笑)。
矢沢 だから、人っていうのは、おもしろいもんでさ。
糸井 おもしろいねぇ(笑)。
矢沢 いや、あれはいまでも忘れないよ。
銚子の人には悪いけどね。
「そんなつもりで永ちゃん来たのか」
って言われちゃうかもしれないけど、
まぁ、ちょっと許してよ、と。
糸井 「許してよ」(笑)。
矢沢 その前にスタジアムの大仕事やったあとだからさ。
銚子? OK、もういい、わかったよ、
あいさつしに行くから、ヨロシク、
って感じで、朝まで酒飲んでたよ。
そして、二日酔いのまま、銚子行ったんだ。
糸井 うん(笑)。
矢沢 だから、ある種の大きな心配事が
なくなったあとでさ、リラックスしてるし、
「なんぼのもんよ」みたいな感じでやってるから、
もう、声も動きも、いままでにないような状態。
やりながら、「オレは神か」と思ったもん。
一同 (笑)
矢沢 いや、ほんと思ったよ。
もう、声も動きも、アドリブも、
バーンと、ぜんぶがハマるの。
糸井 へぇー。
矢沢 パーン、ボーン、バァーっと。
MCもさ「ヨロシクゥー」って
舌がいい感じで回るような感じ?
あのステージ見た人はラッキーだったと思うよ。
終わったあとに、今日のオレは
どうなっちゃったんだと思ったもん。
糸井 おもしろいねー、それは。
矢沢 だから、人ってさぁ、おもしろいよね。
デカい箱のステージで、出る前にガタガタ震えて、
「えい、ヤケクソだ」って言って出て行って、
だんだん油が回って最後はいいステージになる、
っていうときもあるし、
「なんぼのもんだ」と思って、
はじまった瞬間から
ものすごくいいステージになるときもあるし、
生もんだよ、やっぱり。
糸井 いや、その銚子の話は、
いままで聞いたことなかったな(笑)。
矢沢 あ、そうだっけ?
もう、とんでもないステージだったよ。
ぼく、いままで、
1800回ぐらいステージやってると思うけど、
銚子の、なにやってもハマるあの感じね。
何回か、あるんだ、そういうステージが。
ま、あのときは、ほんとに
なめて楽屋に入ったこと、
反省してますけど(笑)。
一同 (笑)
(つづきます)



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2009-08-20-THU

HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN