第2回 ヤマトは我なり。

糸井 クロネコヤマトのDNAが、
社員にしみついている。
つまりそれは、昔からの企業理念のような‥‥?
木川 そうですね。
うちの社訓に、
「ヤマトは我なり」ということばがあります。
「ひとりひとりが会社の代表である」
という意識を持ちなさい、という意味です。
糸井 ヤマトと自分がイコールである、と。
木川 ええ。
ですから、それだけに‥‥
また自慢になってしまいますね、これは。
糸井 してください、今日はどんどん自慢を(笑)。
木川 ありがとうございます(笑)。

「被災しているヤマトの社員が
 自発的に救援物資の配送をはじめている」
という事実を最初に聞いたときは、感動しました。
ほんとうに涙が出ました。
糸井 あー、うれしいですよね、
「ヤマトは我なり」が、
すごいかたちで実践されたわけですから。
木川 自発的に動いた社員たちの気持ちを、
サポートしなくてはいけないと考えました。
中途半端ではなく、
会社として最大限のやりかたで。
そうしてつくったのが、
「救援物資輸送協力隊」なんです。
糸井 なるほど、
そういう流れがあったんですね。
木川 現場判断で会社の車を使い、
上司の承認も得ず、勝手にことを運ぶ。
しかも無償で。
これはね、ふつうの会社なら、
権限違反なんです。
糸井 そうですよね(笑)。
でも、「ヤマトは我なり」であれば‥‥
木川 自己判断でやってしまっていい。
やっていいどころか、
どんどん自発的に考えてやりなさい、と。
とにかく現場主義なんです。
糸井 現場主義。
木川 たとえばいま、うちではたらく人の数は
グループ全体で17万人、
『ヤマト運輸』だけで14万人います。
で、この建物、
この本社ではたらく人の数が、300人弱。
糸井 割合を考えると、すごいですね、
その本社のちいささは。
木川 先日も外国からのお客様をご案内したら、
「これは別館ですね、本社はどこですか?」
と言われてしまいました。
糸井 ちいさいと思われた。
木川 現場に権限を渡しているので、
本社はスリムでいいんです。
糸井 なるほど。
木川 14万人いる『ヤマト運輸』を、
本社が官僚組織のように全部コントロールしたら、
おかしなことになってしまいます。
ですから、
かなりの権限を現場におろします。
糸井 ‥‥そうはおっしゃいますが、
現場におろした権限を大きな組織で
ちゃんと機能させるのはたいへんなことですよね。
木川 そうですね、
おっしゃるとおりです。
糸井 「組織が大きくなると無理なんだよ」とか、
「ヤマトは我なりって誰もが思えるわけじゃない」
というような雰囲気が、
性悪説じゃなくても、ごくふつうに、
「あきらめ」として
会社には入ってくるものだと思います。
でも、お話をうかがっていると
ヤマトさんにはそれさえないような‥‥。
木川 いやいや、そうでもないです。
平常時には、うちも往々にしてそうなります。
糸井 そうなんですか。
木川 会社が大きくなって
組織が官僚化することには、
いつも警鐘を鳴らしてるんですよ。
せっかく権限を渡しているのに
行使されないことも平常時にはけっこうあります。
でも大災害のときには
目が覚めたように自発的になって‥‥。
ですから、DNAは消えてないんですね。
糸井 ええ。
木川 現場のドライバー全員が、
「ヤマトは我なり」という意識を
常に緊張感と共に持ち続けられるかといったら、
それはやっぱり無理だと思います。
でも、DNAはちゃんと持っている。
なぜ消えないかというと、
それはおそらく、
何度も口にしているからだと思うんです。
毎日、朝礼で、
社訓を唱和するんです、全員で。
糸井 ほおー。
木川 一、ヤマトは我なり
一、運送行為は委託者の意思の延長と知るべし
一、思想を堅実に礼節を重んずべし

これが、しみついているんですよ。
緊急事態が発生して、
自分しか判断できなくなったときに、これが働く。
糸井 しみついてたものが緊急時に出てくる。
木川 ものすごい地震が起きた。
本部に相談しようにも、電話が通じない。
事態はどんどん悪くなる。
仕事をしようにもそんなものはない。
そういうとき、何を考えるかというと‥‥。
糸井 毎日やっていたことを頼りにしますよね。
木川 そう。
車はある。
燃料はほとんどないけど、車はある。
自分は元気。
周囲では救援物資が来なくて困っている。
そうなったときに‥‥
「運ぶ」ということが、
いまの自分は提供できる!と思って、
自発的に動いたんでしょう。
糸井 クロネコヤマトの生存本能みたいな。
木川 そう、生存本能。
ほんとうにそうです。

(つづきます)


2011-08-18-THU