山元町と手をつなぐ。

07 お墓。──スコップ団 3

次のスコップの現場はお寺でした。
浄正寺という、浄土宗のお寺です。

お寺の門柱は倒れていました。

本堂にはやっぱり
津波の跡が残っていました。
お堂の時計がかけてある真下に
津波の泥の線があります。
あの高さまで、波はやってきたのです。

お寺のご住職のお話によると、
「波」というよりは「泥」が
この部屋いっぱいに詰まったそうです。
そのため、扉は開かず、
本堂に入るためには
窓ガラスを割らなくてはならなかったのだそうです。

この浄正寺で、スコップ団が
かじりついたのが
敷地内にあるお墓です。

たくさんある墓石は
ばらばらになって流されていました。
どこの場所に収まるのが正しいのかわかりません。
しかも、お墓のおうちの姓が
ほとんど同じで、混乱します。

墓石の大きなものは
ごろごろと転がっているのですが、
線香を置く石や小さな石像などは
津波の泥に埋まっています。

スコップ団はいつものとおり、
特に指示なく動きはじめました。
「自分はここから手をつけよう」と思った場所に
各々が行き、どうすればいいのか、考えます。

今回の文を書いている私菅野は、
「まずはここから石以外のものを撤去しよう」
と考えました。
はびこる夏草を抜き、
津波の運んだ泥を掘っていきます。

しばらくして、土の中から出てきたのは、
多量のビニールシートとビニールひもでした。
このビニールはいったいなんだろう、
と思っていると、続いて発掘したもので、
それがなんであるかわかりました。

土の中から出てきたものは
収穫したいちごを詰めるパックでした。
スーパーなどでいちごの入っている、
あの透明のパックです。
つづいて、壊れたライトも出てきました。

山元町の代表的な農作物は、
いちごです。
震災前は、山元町の海岸近くに
たくさんのいちごの畑がありました。
海岸に沿って南北に伸びるいちご畑は、
「ストロベリーロード」と呼ばれていました。

それが、津波によりほぼ全滅。
おびただしい量のビニールは
どこかの畑に建っていた
いちごのハウスだったにちがいありません。

そのほか、土のなかから出てきたものは
茶碗、靴下、毛糸の手袋、本、バインダー、
ジーンズ、黒電話、
たくさんの木くず(卒塔婆が砕けたものかもしれません)、
それから、じゃがいもが
ずるずるずるっと実って出てきました。
どこかの冷蔵庫から流れついたいもが
種いもになったのでしょう。

ここで、ぴたっと手が止まりました。
きっと自分は
誰も触ったことのない土を掘っているのだろう、
と思いました。
もしかしたら見つかっていない方や動物に
会う可能性もあるかもしれません。
そのことを考えつつ、
軍手で注意深く掘ることにしました。

夏草が頑丈な根を張っていて
土を掘るにもたいへん苦労します。
掘った泥をちりとりにためて、運び出します。

石以外のものを撤去し、墓石を掘り出す。
戻せる石はもとの場所へ運ぶ。
この目標を置いて、
ただもくもくと、軍手で土を掘りました。

数回挟んだ休憩時間、
仲間に進行具合を訊くと、たいてい
「とにかく墓石を発掘して整備する。
 しかしなかなか津波の泥が除けない」
という答えでした。

ゴールがないように思える手作業です。
でも、気づけば少しずつ、
お墓の風景が変わっていました。

ほんとうに、少しずつです。

最後に、浄正寺のご住職の言葉がありました。

「ほんとに、感謝ばかりです。
 みなさんの作業中、檀家さんがね、
 ときどき見にいらしてましたが、
 墓標がもういちど立ってたり
 通路が確保されてたりしてて、
 力が湧いてくるということなので、
 またひきつづき、やっていただければうれしいです」

力が湧いてくるということなので。

その言葉に胸が詰まりそうになりました。

最後に、みんなでまるく集まります。

団長から
「おつかれさまでした。来週も、ここのお寺をやります」
という言葉がありました。

数時間過ごしただけなのに、
この場所と、人びとと、
少しだけつながることができた気持ちがしました。

目を向ければ、
津波に浸かった家が
ずっと、遠くまで並んでいます。

スコップ団、団長の平了さんは言います。

「自分たちは、世界を変えることはできない。
 だけど、こうして
 誰かの世界を変えることはできる。

 簡単なことだ。
 あきらめなければいい」

(スコップ団のこと、つづきます)

 
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2011-09-15-THU
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