焼き肉が好きだ!
知れば知るほど、焼き肉が好きになるわ。

焼き肉の好きな人が、焼き肉屋の娘と知り合いで、
焼き肉の話を聞いているというシチュエーション。
これが、意外にも、
「あきんどごころ」の特集みたいで役に立ちそう。
しかも、なんといっても、焼き肉が食べたくなるんです。



ほぼにちわ。通天閣あかりです。
突然ですが、みなさん、お肉はお好きですか?
わたしは、好きです。

わたしは、10代のころ、雑誌の人に街頭取材されまして。
「好きな食べ物はなんですか?」という質問に、
「肉です」と即答しました。
女学生でした。
ポケベルの呼びだし番号は「29」(にく)でした。
親しいと友人からの餞別が、
「肉の写真アルバム」
そのくらいお肉が好きなんです。

好きの力は、すごいものです。
なぜか周りには焼き肉屋関係の友人が集まりました。

そのうちの1人(30歳・女性・既婚)が
45年続いた、実家が経営している
焼き肉屋の手伝いをすることになり、
店をものすごくリニューアルするところだと言います。

よーし、これを機会に、食べたり取材したり、
食べたり食べたり、書いたり、取材したり食べたりして、
ほぼ日を読んでいる焼肉好きのみなさんと、
焼肉の快楽を共有しようというプランを出しました。
みんなが、「あ、読みたいかも。食べたいし」と、
妙に賛成してくれまして、このページになりました。




わたしのともだち「ヤキコちゃん(仮名)」の店は、
京都にあります。
4月6日に、リニューアルオープンした
『南大門 春夏秋冬というお店です。
いつ行っても、めちゃくちゃ美味しくて、
45年の歴史と信頼があって、
京都の繁華街、四条河原町の真ん中にあって、
流行らないとおかしいくらい
条件のそろった焼き肉屋でした。
そして実際、とてもよく流行っていました。

それでも、あの事件以来、
客がぱったりと来なくなるのです。
そう、全国の、いや、全世界の肉屋を震え上がらせた
「狂牛病」騒動です。
ヤキコちゃんのお父さんが経営していた『南大門』は、
つぶれはしませんでしたから、
ましな方だったとも言えます。
この事件で、たくさんの焼き肉屋さんが倒れたし、
焼肉のテーブルをつくっているメーカーとかも、
たいへんな状況になったという話も聞きました。

そういう焼き肉屋の危機に、
こうしてはいられへん、と立ち上がったのが、
ヤキコちゃん(仮名)だったのです。
焼き肉屋版の細腕繁盛期みたいな話が、
きっとあるやろと思って、わたし、京都に行きました。
話聞いたり食べたり、食べたり、聞いたり食べたり。
さ、テレコを回します。

おいしいだけでは人は来ない。

ほぼ日 では、焼き肉の基礎知識から聞かせてください。
ヤキコ まず・・・うちの肉は村沢牛を使っています。
村沢牛は、長野で育ちます。
血統を三代先までさかのぼって調べ、
但馬系(※註1)など極上の雌だけが、
厳しく吟味されて買い求められます。
2年くらいの時間をかけて
一頭一頭に、きめ細やかな飼育が施されることで
有名な牛なんです。

普通はステーキとして使われる肉ですが、
この肉を、焼き肉屋で出しているのは、
京都ではうちだけなんです。

【註1:但馬系】
あの有名な松阪牛も兵庫県の但馬地方から生まれ、
その他にも但馬地方には中土井系、熊波系など
(総じて但馬系・兵庫系)の優秀な系統があります。
但馬系の特徴は脂身(霜降り)の
おいしさと言われています。
ほぼ日 あ、それはおいしいわ。
ヤキコ まだ、早いって!
メニューには「極上」(A4)(※註2)という
ランクで載っていて、
サシ(※註3)がきれいに入っていて、
30代の私は、
2枚も食べれば大満足してしまうような、
そんな味わいの肉です。
そのほかの肉にしても、
よその店で、「上」として扱われている肉を
うちでは「並」で出しています。


焼き肉屋なんだから、当り前かもしれませんが
うちではそんな風に「肉」には
徹底的にこだわってきました。

【註2:A4】
肉のランクはABCまであります。
その中でも1〜5まで分かれていて
A5が一番良いランクなのですが、
その中でもまた1〜10まで分かれています。
このランク付けは人間の目が頼りです。

【註3:サシ】
いわゆる霜降りの白い部分のことを、
業界ではこう言います。
ほぼ日 そんなこと知らずに食べてました。
すみません。
ヤキコ いえいえ、知らなくても、おいしいと思って
通ってくださるのがなによりありがたいですから。
コチュジャンも手作り(河原町店のみ)、キムチも
おばちゃんとは言いがたいくらい美しい、
キムチづくり専門のおばちゃんを2人雇っています。
文字通り、1年中、
キムチを作るのが仕事の人たちです。

チシャ菜ひとつにもこだわり、
山形から無農薬のサンチュを取り寄せています。
ほかの素材にも、力をぬいたことはありません。
ほぼ日 無敵ですね。
そういえば、キムチ、ほぼ日のみんなも
前にわたしがもらったのを食べて、
とても評判がよかったですよー。
ヤキコ それ、早く言ってくれたら、
また送ったのにぃ。
でも、
おいしいだけでは店は成り立たない、

それがわかったこの1年でした。
ほぼ日 しっかりしてきたんやねぇ。
キリッとしてた、いまの言い方。
ヤキコ 必死ですから、ね。
じゃ、まず、店の歴史から話さないとね。
聞いて。
ほぼ日 知りたい!
ヤキコ 「南大門」は京都で45年続いている焼き肉屋で、
私は、30年前、その店の三女に生まれました。
はじめに父親がパチンコの事業をおこし、
それが波に乗ってきたころ、
「南大門」をオープンさせたのです。


旧南大門

店は、8階建てビルの1、2階が店になっていて、
席数は232席あります。
ほぼ日 はい。
大きい店ですよね。
ヤキコ 創業当時の昭和30年頃は
まだ焼き肉という食文化が定着していなくて
珍しいものだったと聞いています。
父は、食に対してすごくうるさい人でしたから
「南大門」の創業当時も、
腕のいい料理人を他の店から引き抜いてきて、
自分も一緒に厨房に入り
試行錯誤しながらおいしいメニューを
作り上げて来ました。


旧南大門の当時のメニュー(河原町店以外では、
現在もこのメニューをお出ししています)


当時から素材には、こだわってきたので、
段々と評判が広まり、そのうちに
たくさんのお客さんが来てくださるようになり、
そのころはまだ京都の撮影所にも活気があって、
多くの役者さん達にも来てもらっていたそうです。

一日何百人
ひっきりなしにお客さんが来られ、
土日の予約もほぼ取れなかったようです。
「南大門」はずっとそんな調子で、
今では、4店舗にまで増えました。
ほぼ日 そこまで、じゅんぷうまんぱんですね。
ヤキコ そうかもしれません。
時代が流れるとともに、
肉にもみこむタレや、
洗いダレ(※註4)の味付けなどが
その時々の調理長によっても、
微妙に変化していきました。
でも、「肉」自体へのこだわりは一貫して
今日まで変わらないスタイルで、
45年間営業し続けています。

父が病気で亡くなったのは、7年前。
これは、やっぱり、とても大きな事件です。
それまでは専業主婦でずっと家にいて
のんびりと暮らしていた母が、
突然、社長として、会社を継ぐことになりました。
そして、右も左もわからない母を手伝うために
同じく右も左もわからない私も、
一緒に会社で働くことになりました。

【註4:洗いダレ】
焼き上がった肉をつけて食べるタレのことです。
このタレで、その焼き肉屋の好き嫌いが決まることもある
重要な味の決め手。
洗いダレをあえて出さない店もありますね。
ちなみに今の主流は、「甘め」だそうです。
ほぼ日 家にいた人が、経営に入っていくというのは、
大転換だったでしょうねぇ。
ヤキコ で、働くといっても、食べに行く以外は、
店に出ることはほとんどありませんでした。
当時は、机の上でする仕事が、
自分の仕事のすべてだと思っていました。

でも働き始めてしばらくすると、
自分の父が、
どういうことを目指して進んできたのか、
ちょっとずつですが、わかり始めてきました。
うちの会社では、
パチンコ、焼き肉屋、サウナ、
様々なサービス業を手がけているのですが、
最終的に父は、亡くなる前に
釜山にホテルを建てました。
完成間近に亡くなって、
自分の目でその姿を見ることは
できなかったのですが、
がんばってがんばって、大きなホテルを遺しました。

父の故郷は韓国の貧しい村なのですが、
そこに錦を飾りたい、と考えていた
父の想いについてはまた改めて言うとして、
父は、究極のサービス業をやりぬくことを
強くのぞんでいたんだと思います。
ほぼ日 そっかー・・・。
ヤキコ 日々仕事をしながら父のことを考えていると、
だんだん自分がこの会社で、
どんな仕事がしたいのか、
どんな仕事をするべきなのかもわかってきました。

おそらく将来は、
家の仕事を手伝うんだろうと思いながらも、
なんとか自分の夢を探そうとして、
ネイルアートの学校に行ってみたりした時期も
ありました。

でも、父の会社に入ってみて、
自分の夢が、父の夢と重なるようになりました。

究極のサービス業をやりぬくこと。
父がこだわりぬいて、
私も子供のころからよく通っていた
愛すべき「南大門」を、守ること。
それが自分の仕事だと思いました。

ただ、古くから店を知っている
社員の人たちに混じって、
こんなに何も知らない自分が、
店の何に、どう口が出せるのだろうと思って、
じっと考えていました。
ほぼ日 そうか。
いくら娘だといっても、
素人が口を出すという感じに
とらえられてはいけないものね。
ヤキコ その頃、世の中の不況にともなって、
「高級焼肉レストラン」のイメージのある
うちの店は、確実に売り上げが
落ち始めていました。

焼肉屋ってどうあるべきなのか。
よその店と、うちはどこが一番違うのか。
どこが良くて、どこが悪いのか。
なんで、こんなにおいしい肉を出しているのに
ほかの店よりお客さんが入らないんだろう?

他の店や、最近増えてきた韓国家庭料理の店や、
オオバコ(※註5)の居酒屋などを
何軒も食べ歩きながら、考えました。
そうしているうちに、どうやら、店が流行るには、
おいしいだけでは、だめなんだ
ってことがわかり始めていました。

【註5:オオバコ】
比較的席数が多く、スペースの広い店のこと。
ほぼ日 もう経営者的な目ができてきた・・・。
ヤキコ 冷静な目で自分の店のことを
見られるようになってきた。
父の愛したお店はどんどん古くなり、
みるみる売り上げが落ちていきました。
もうその頃の「南大門」には、父の意志など、
跡形も残っていない有り様でした。

そこに追い討ちをかけるように
狂牛病のニュースが流れ、
客足が、文字通り「ぱったり」と途絶え、
売り上げは一気に落ちていきました。
それはもう、こわいくらいの勢いでした。
ほぼ日 すごかった。
ほんとに、どこの焼き肉屋さんでも、
お客さん、いなかったものねぇ。
ヤキコ 生肉は出せないので、「刺し身こんにゃく」を
替わりにメニューに加えましたが
もちろん何の足しにもなりませんでした。

それまでの店は、
活気がなくなりつつあったとは言え、
土曜日や日曜日は、20分や30分待ちをしてくださる
ウエイティングのお客さんがいたのに、
そんなお客さんもまったくいなくなり、
「お店を閉めた方がいいのではないか?」
という声が
会社の幹部から出てくるようになっていきました。
ほぼ日 わぁ。
ヤキコ でも、どうしても私は「南大門」を
なくしたくありませんでした。

父が必死でつくり、
守ってきた店を絶対に失いたくない。
このまま店を潰してしまったら、
父に対して申し訳ない。

店がどうしようもなくなってきたとき、
役員の人達の反対を押しきって、
「リニューアルしよか」
母が言いました。
ほぼ日 おかあさんがですか。
ヤキコ そう。母が。
義兄の力添えもあったのですが、
多大な予算を投じて、
父が築いてきた今までの南大門を
大幅にリニューアルをすることを
ものすごく悩んだ末、母が決断しました。

きっと母も私と同じ気持ちだったんだろうと思います。
(つづきます)



焼肉屋の娘に聞く、
「南大門」でおいしく肉を焼くコツ


1.片面を中火で45秒焼きます。
2.裏返してさらに15秒焼きます。
3.すぐにタレにつけてお召し上がり下さい。


ホルモンなどは別ですが、
ロースやカルビなどについては、
このタイミングがベストです。
なぜなら、焼いて油が炭に落ちると、煙になって
肉についてしまい、せっかくの風味が落ちてしまいます。
これくらいの焼き加減でパクッといっていただくのが
脂分と水分のバランスがちょうどよくておいしいのです。

 


「こんなにおいしいのに」と、
 悔しい気持ちになった時期も。

ヤキコ 私は、店をリニューアルするチームに入りました。
とりあえず考えたのは、とにかく
「お店に出て、店の現状を知ること」でした。

店に出てみてわかったのが、

1.店が汚い
2.スタッフのサービスの質が
  料金に見合っていない場合がある


という2つでした。
いくらおいしい肉を出しても、これでは
お客さんが増えないのは当り前でした。
ほぼ日 うんうん。
いくらおいしくてもねえ。
ヤキコ ちょうど、ワールドカップが
日本と韓国で盛り上がっていた時期だったので
私は、ワールドカップ期間中のキャンペーンとして
入り口にチマチョゴリ(※註1)を着て立ち、
お客様を出迎えてはどうか、と提案して、
自分でチマチョゴリを着て毎日店に出ました。
一日だけぶっ倒れたけど、
あとは休まなかったなー。

【註1:チマチョゴリ】
韓国の正装のこと。
現在の南大門河原町店のスタッフは、
チマチョゴリを簡単にした韓服(ハンボク)で
出迎えてくれます。
ほぼ日 へえ!ヤキコってそんなに根性あったっけ?!
電車に乗ることさえ億劫がっていたあなたが。
ヤキコ 根性出てきたのかも。
「私は接客業がものすごく好きなんだなあ」
ということを実感する毎日でした。

お客様がうちのお店で
楽しそうに食事をされている姿を見るのが
とてもうれしい。
帰られる時に見せてくださる笑顔がすごく好き。
一言「美味しかったよ」と言われるだけで、
じわ〜っと涙が出てくるぐらいでした。
めちゃくちゃ楽しい一ヶ月間でしたが、
それと同時に悔しい気持ちもいっぱいでした。
ほぼ日 悔しかった?
ヤキコ こんなにおいしいのに、
どうしてお客さんは、離れていったんだろう。
もっともっとうちの肉を食べてもらいたいのに!
って思うと悔しかった。


焼き肉や、サービスや、調理の本を買いあさりました。
もっと学ばないと、店も自分も、
ここから先に進めないと思いました。


小さい焼き肉屋にない魅力って?

ほぼ日 研究していってどう思った?
ヤキコ 小さい焼き肉屋さんは、人気があるよね。
あれは、相手にするお客さんの人数が少ないから、
本当においしい稀少価値のある肉が出せるし、
サービスにしても、
店主が1人で全部のお客さんを
見ようと思えば見られるよね。
やっぱり、その人の、
力や思いが入ってるものは強いんです。
ほぼ日 そうかー。
小さい焼き肉屋がおいしい理由って
そこにあるんだね。
店主さえ本気でやれば、結果がついてくるよね。
ヤキコ でも、うちみたいに、
客席が200席以上ある店では
それが簡単には実現しない。
おいしいものを10人前出すことと
200人前出すことの違いはやっぱりあって。

だったらどうしたらいいんだろうって考えた。
ものすごくおいしいものをいくら知ってても、
それを200人前出すことが物理的に無理なとき、
どうするか。
こだわりすぎることもできないけど、
こだわらないともっとだめ。
大きい店の魅力って何なのか、
200人が納得するレベルって何なのか、
徹底的に考えた。
ほぼ日 難しそう。
ヤキコ そこで出した答えが、「バランス」だということ。
味、接客、内装、盛り付け、価格など、
すべてのバランスが必要なのです!
そしてこのバランスは実に微妙で難しい。
バランスがとれていたとしても、
そのレベルが高くないと
お客さんには満足してもらえないし。
ほぼ日 うーん。確かにそうやろうね。
食べさせてもらったけど、
お肉はあい変わらずとびきりおいしいままで、
いちばん変わったのは、
接客スタッフと、この内装じゃない?
あ、メニューも全然ちがうし。
ヤキコ そうですね。
味のレベルの高さに、他のものをひきあげるために、

・内装リニューアルチーム
・メニューリニューアルチーム
・スタッフリニューアルチーム


にわかれて、プロジェクトを進めました。
まず内装は、夫のヤキオの人脈をたどって、
インテリアデザイナーの
森田恭通さん(※註2)にお願いしたんです。
ほぼ日 あ!あの「ケンズちゃんとダイニング」や
ランプの灯を使った内装でお馴染の!

【註2:森田恭通さん】
世界的にも有名な大阪出身の
超売れっ子インテリアデザイナー。
「内装はあの森田恭通」という文字が
女性誌のグルメ記事などによく登場する。



竹をつかった客席
ヤキコ この内装を喜んでくださるかたも
もちろんいらっしゃいますが、
やっぱり今までの常連さんは、
来られたらびっくりされますね。
「照明暗なったなあ!」って言われたり(笑)。
ほぼ日 それがねらいなのに。
ヤキコ そう。
実際、暗いほうが、お酒はよく出るんです。
ほぼ日 ああ!生鮮食品の逆だね。
ヤキコ 今まで来てくださっていた
家族連れのお客さんに加えて、
20代〜30代くらいの女性が来てくれるような
お店にしたいって考えてたから、ね。
森田さんにお話ししたら、焼き肉だから、
「セクシー」「アジア」をテーマにしましょう、
ということで、取り組んでくださいました。
ほぼ日 なるほど。肉を食べる行為はセクシーだと。
だから、カップル席があったりするんやね。
ライトでうまく客席が区切られている感じですね。


大切な人と仲良く並んで肉を焼ける席。
ヤキコ うん。あとは、土と火と竹っていうのを組みあわせて。
いかにも韓国って感じではなく、
アジアのイメージを
打ち出したほうがいいっていうことだったので。
ほぼ日 ほう。壁が、土やね!ざらざらしてる。
個人的には、つるつるした感じのお店って
あんまり食欲湧かないっていうイメージがあるけど、
この土壁は素敵。落ちつく。
オイルランプも揺れてるねえ。

ヤキコ この森田さんからのプレゼンが終わったとき、
森田さんに「いかがでしょうか?」って言われて、
会社の幹部の人たちは、
ぽかんとしていました。
意味が全然わからなかったみたい(笑)。


旧南大門の大広間。
ほぼ日 そうだよねえ。
今までは和風の大広間があったり、
照明もぴかぴかしてたのに、
それがいきなり「アジアンセクシー」やもん(笑)。
ヤキコ 母は、きっぱり、
「そういう専門家には口出しせんと、
 全部お任せしたほうがいいんや」

って言ってたので、そうしてもらいました。
ほぼ日 ほんと、おっしゃるとおりですねえ。
ヤキコ それまでは社内でも
色々と意見が行き交っていましたが
その一言でびしっとしました。
ほぼ日 さすが、ヤキコママ!
実際に若いお客さんは増えましたか?
ヤキコ そうですね、
2〜3誌くらい雑誌に載ったこともあって
デートで来てくださったり、
女性同士でわいわい来られるかたが
格段に増えました。
もう既に、「ほぼ日を見ました」
と言ってくださったかたもいらっしゃいます!
こんなに早く来られるとはって、
店長もびっくりしていました。
この場を借りて、来てくださったかた、
本当にありがとうございます。
ほぼ日 わあ、こちらこそうれしいです。
「ほぼ日」読者は、おいしいものには目がない!


ひとつのメニューに、
ひとつの歴史あり。

ほぼ日 雰囲気ももちろん大事ですけど、なんといっても、
気になるメニューの話が知りたい!
(メニューをパラパラと見る)
は!「旬」を最大限に活かした感じになってますね。
ヤキコ これは、もう本当に、
各メニューに各歴史があるんです。

日本で焼き肉屋をやっていくってことは、
やはり、韓国で焼き肉屋をやることと
違うんですね。
ほぼ日 ああ、確かに。
韓国と日本では、焼き肉の
肉の種類からして全然違うもんね。
ヤキコ それもあるし、
韓国の焼き肉屋は、季節感をものすごく
大切にしてるんです。

ナムル(※註3)をとってみても、日本では、
ほうれん草、もやし、ぜんまいが必ず出てきますが、
韓国では、その時の旬の野菜が必ず出てくる。
しかも、季節を折り込んだ美しい京料理もある
京都で焼き肉屋をやっているんだから、
うちでも、日本の四季を意識したいと思ったんです。
だから、名前も
「南大門」から「南大門 春夏秋冬」に。

【註:ナムル】
小皿に入ったちょっとした野菜の和え物や
おつまみのこと。韓国で焼き肉屋に行くと、
頼んでいないのに出されるサービスの品。
ほぼ日 はっはーん!この4文字にはそういう思いが。
確かに、焼き肉屋って季節感ないですね。
ヤキコ 実際に、今までの店と違って、
野菜の注文がすごく増えました。
こちらの気持ちが伝わったのか、うれしいです。
だって、リニューアル前の調査で、
「焼き肉屋でよく注文するもの」
というアンケートをとったときも、
「ナムル」とか「野菜」っていう答えが
まったくなかったですからね。


野菜を使った前菜たち。
ほぼ日 そうそう、読者のかたから、
こんなメールをいただきましたよ。

きょうさっそくに、河原町の南大門に行ってきました。
HPの写真を見てちょっと「高級」かな?
というイメージもあったのですが、
行ってみると家族連れも多く、
スタッフの方々の笑顔もきさくで、
でも、きっちりと接客されていて、
くつろぎながら気分良くたらふくいただきました。
お肉のうまさはもとより、
わたしは野菜のおいしさに感動しました。
肉巻かずとも、
お味噌つけてばりばり食べるほどでした。
ヤキコ いやあ、本当にうれしいわ!涙出る。
メニューも、季節ごとに変えていきます。
今なら、春野菜ビピンパ(数量限定)、
春キャベツの浅づけキムチ、
春菊のヤンニョンセンチェ(※註4)
などが季節限定のメニューですよ〜。

【註4:ヤンニョン】
薬に念じると書いて薬念(ヤンニョン)。
様々な調味料、香辛料を各家庭オリジナルの配合で
合わせます。食べ物は身体を癒す○であるという
医食同源の考え方からこの名称ができたといわれます。
ほぼ日 この「韓ドリンク」「韓chu-hi」って何?
ダジャレ?
ヤキコ 私がネーミングした(笑)。
「韓ドリンク」は韓国のお茶で、
それで割ったチューハイが「韓chu-hi」。
その中の五味子茶(オミジャ)は、
新陳代謝の促進にもいいよ。
ほぼ日 なーんか、肉を焼く以外にも
楽しみがいっぱいあるね〜!
たまりませ〜ん!
(つづきます)



焼肉屋の娘に聞く、
「南大門」でおすすめの
お肉たち。



ジューッ。

1.トロテッチャン
テッチャンには、もともと脂身があるって
ご存知でしたか?
あまりにも脂身が多いので、普通のお店では
その部分を削いでお客さんにお出しするのですが、
実は、脂身がついているほうが、こってりとして、
タレと絡まって、これがまたおいしいのです。

2.秘伝の漬け込みカルビ
骨付きカルビに切り込みを入れて、
南大門オリジナルの秘伝のタレに
(にんにくや季節のフルーツを入れたもの、
それ以上はムフフフフフ)
漬け込むことによって、肉自体がやわらかくなり、
さっぱりしたあまさになります。
サンチュで巻いて、特製の味噌をちょっとつけて
お召し上がり下さい。

 


まずは、さっそく南大門に行かれたかたからの
よだれの出そうなメールをご紹介します!



先日の「焼肉が好きだ!」を読んで、
今度京都でご飯を食べるときはここだ!と決意し、
本日、実践してきました!

もぉ、むちゃくちゃおいしかったです!
特に秘伝カルビ!!
一緒にテーブルを囲んだ友人の言葉は
「これまで食べたなかで、一番おいしい焼肉」
でした!
もちろん私もそうでした。
思わずおかわりをお願いしましたよ。

今日、頂いたのは
豚トロ、ロース、秘伝カルビ、地鶏、レバー、上タン
センチェ、ビビンバ、ビビン冷麺、デザート、
そしてキムチ盛り合わせです。
私は辛いものが得意でなく、
焼肉屋さんで出されるキムチは辛すぎて、
今までおいしく頂いたことがありませんでしたが、
南大門さんのキムチのおいしいこと!
辛いんですが、辛いだけでなくて、
上手く表現できないのですが、
おいしくキムチをいただけたことが
とてもうれしいです。

もちろん、秘伝カルビだけでなく、
すべてのお肉を大変おいしく頂きました!
地鶏の味付けやロースのやわらかさ。最高です!

通していただいた席も、
予約していなかったにもかかわらず、
ラウンド席で、友人達4人でゆったりと
お肉を囲むことができました。
また、従業員の方々もみなさんとても感じがよく、
笑顔をたやさず、よい印象でした。
お値段も「この内容でこのお値段!」
うれしくなりました。

友人達とは、また京都でご飯を食べるときには
このお店!と誓い合って別れました。

(あきこ)

行ってきました!南大門っ!
学生時代は、サークル仲間と
時々お邪魔していましたが
今回、久しぶりにうかがいました。

お肉の美味しさに幸せを感じたのは
もう言うまでもないのですが、
サイドメニューがこれまたおいしい〜っ!
今回は食べ損ねた冷麺も次回はぜひ食したいです。

細かい心遣いにも感激しました。
取り皿のデザインが、違う味のタレでも
交じらないよう仕切りがついていたり、
お手洗いには「ご自由にお使いください」と
歯ブラシと紙コップが備え付けられてたり。
実際、食後に歯磨きをした友達は
かなりの爽快感を味わっていました。

そして、そして、激うまキムチっ!
ありがとうございました〜!
わがままを言って、お持ち帰りにして頂きました。
本場仕込みの激うま冷麺を作る祖母を持つ
我が家のダンナも、このキムチは上手いっ!と
非常に喜んでおりました。

京都で南大門と言えばあまりに知られたお店なので
「ほぼ日」で読んだ内容を私がいくら熱く語っても
「だから南大門やろ。知ってるって〜。
 よう行ったやん」と適当にしか
話を聞いてくれなかった彼が、
キムチを食べたとたん
ちゃんと聞いてくれるようになりました。
わかりやすい。

もしかしたら私たちのように、
以前食べたことがあっても
お肉やキムチがこんなに美味しかったこと
忘れてる人も多いかもしれませんね。
学生のころなんて特に
腹いっぱい食べることに重点があったりしますし、
最近では少しでも値段の安いお店に
足が向いてしまいますし。

大満足でした〜!ごちそうさまでしたっ。

(ヨーコ)




京都一の焼き肉屋になります!


ヤキコ 毎回みなさんからのメールを読んで、
ありがたくてありがたくて、
家族で喜んでます!
ほぼ日 ほんとうれしいですよね。
おいしいものは、
みんなにお伝えしたくなるんですよね。

このヨーコさんのメールにあるように、
この取り皿、すごく便利やね。

ヤキコ そう、このお皿は、
このかたが言ってくださってるとおりなん。
特に焼き肉はたくさんのお料理をとって
食べてもらいたいので
「取り皿もう一枚ください!」って、
お客さんがヤキモキされることが
できるだけないように、
仕切りのついたかたちを、
わたくしヤキコがデザインしたのです。
韓国の国旗のマークになってるでしょ?

あと、取り皿は一番最初から最後まで
テーブルの上に乗っているものなので
特徴をつけましょうと、
食器屋さんからのアドバイスもありました。
ほぼ日 ああ、なるほど!細かい心くばりやなあ。
昔から繊細なヤキコの性格が、
この皿やお店のサービスによく表れてるね。
ヤキコ やっぱり、私自身が
他のお店に行ったときに気になることは、
南大門のお客さんに気にさせないようにしようと
心がけました。
でも、私以上にうるさい客は、
あんまりいないかも(笑)。
ほぼ日 うん。ヤキコ、一緒にどこかの店に行くと、
そこのサービスにすごく目を光らせてるもんね。
こわいくらいに・・・(笑)。

紙コップや歯ブラシも、
確かにあったらありがたいよねえ。
ガムをぽんて渡されるより。
ヤキコ うん。
南大門では、お客さんのかゆいところに
手が届くようにしたいんです!
ほぼ日 うん、気持ちいい。そうそうそのもっと左。
ヤキコ ・・・・・。
ほぼ日 4月6日にオープンして1ヶ月ちょっとだけど、
だいたいいつごろからお客さんの
手ごたえを感じるようになりましたか?
ヤキコ ここ最近ですね。
若い人が増えたことは、もう一目瞭然。
それから、
「どれを食べてもはずれがないね」
っていう声をよく聞くようになりました!
でもやっぱりこれからじゃないのかな?
もっと多くの人に知ってもらって
食べに来てもらえたらええなと、思ってます。
ほぼ日 そういうお客さんの手ごたえがあったのは
どうしてだと思う?
想像してたとおりだった?
ヤキコ やっぱり、「今まで」があったからだと思う。
この45年間、数々の人の思いや力を経て
築き上げたものがしっかりしてるから。
私は本当にちょっと手を加えただけです。

その歴史や思いを失わずに、
時代に合うようにシフトしていけたことが
お客さんに来てもらえるようになった
一番の要因だと思います。
あの大流行りだった頃の「南大門」に戻りたい。
ただその気持ちだけでここまで来ました。


でも、リニューアルすると決まった最初の頃は、
こんな風にうまくいくとは思ってなかったなあ。
ほぼ日 へえ、そうなんや!
これだけのお店なんだから、
自信満々でオープンしたのかと思ってたけど?
ヤキコ そんなことないない!
どきどきしてました。

でも、どんどんメニューの中身や
内装ができていくうちに
自信に変わっていった。
もう、けっこう腹がすわった、というか、
「どうですか、見てください!
 こんな店、ほかにありますか!」
っていう気持ちにスパッと変わった。
「まずは京都一の焼き肉屋さんにしよう!」
と決心した。


エントランス

オープンして、実際お客様が入って
お食事をされてるところを見て、
サブイボ(※註1)が出ました。

【註1:サブイボ】
鳥肌のことを関西では、寒イボ、
サブイボと言ったりします。
ほぼ日 わあ、出そう〜!
お父さんのことは考えた?
ヤキコ めちゃめちゃ考えた。
お仏壇の前で何度もぶつぶつ言いましたよ。
でも、みなさんが送ってくださったメールを読んで
ちょっとは父に顔向けできたかな、と思いました。
ほぼ日 お父さん喜ばれてるだろうね。
これからは、どんな店にしていきたい?
ヤキコ 京都に「南大門」アリ!という感じにしていきたい。
京都にきたんやし、「南大門」行かな!ぐらい。
どんどん進化して行きたい。
止まりたくない。

実は今回、やりたくてできなかったこともあるし。
ほぼ日 え、例えば?
ヤキコ 女性がたくさん来る店にしましょう!
ってことで進めていたから、
本当はもっとメニューの書き方も変えたかった。

例えば、チヂミはおモチが入っているのが珍しいから、
「モチモチチヂミ」にしようとか、
パッと見て「何だろう、これ?」
って思ってもらえるようなメニューにしようと
思ってたんだけど、
「店の品がおちる」っていう理由で
ダメになったりとか。
ほぼ日 ええ!?そうなんだ。
お客さんとしては、
「何これ?」って思いたいよね。
ヤキコ 「これ、どんなのですか?」って聞いてもらえたら、
そこでお客さんとコミュニケーションができるから、
そのときに、色々お話しできたりするし、
焼き肉のおいしさを知ってもらえる
チャンスにもなると思ったんだけどね。
ほぼ日 社内の人からの反対意見も、色々あるんだろうね。
ヤキコ そうですね。
それも、私の説得力のなさとか、
やるべきことの優先順位によるところも
大きいと思うんだけど。

これからの課題です。

ワインもフルボトルを置きたかったけど、
今までワインがほとんど注文されない
っていう理由からハーフボトルだけになったり。
ほぼ日 確かに、焼き肉にワインはあまり頼まないかも。
でも、意外とおいしい組み合わせが
あったりするのかもね。
ヤキコ うん。そうやねん。提案次第だと思う。
そういうチャレンジしていこう
っていう気持ちはなくさずに、
いいものは徐々に取り入れていきたいです。
ほぼ日 ヤキコ、がんばって!
私でできることなら、
飲んだり食べたり、何でもするから。
もう肉でもワインでも何でも。
遠慮はいらんよ。
ヤキコ ・・・う、うん。
ほぼ日 東京にお店を出す予定はないんですか?
ヤキコ できれば出したい!
東京は夜が遅いから、
また店のアイデアも広がりそうですね。
京都は、もう夜10時頃になると
人がぐっと減るからね。
行けるとこまで進みたいです!
ほぼ日 ぜひ、ぜひ!
ヤキコにとって商売ってどういうもの?
ヤキコ なんでしょう・・・。(じっと考えて)
これから答えを探して行くんじゃないのかなぁ。
ただ、私はずっと商売人の父を見て育ってきたので
やはりこの商売をし続けたいですね。
人を喜ばせることを考えるのが
好きなのかも〜。
ほぼ日 うん。すごく好きだと思う。
ヤキコ 商売で大事なことはね、
やはり、だなあということが今回わかった。
この連載をしていただいて、
もう一度今までの店の成り立ちを思い返してみると、
当然一人では絶対にできないことですし、
父にしてもそうだったと思う。

今いてくれるスッタフの人達と、
今まで「南大門」に携わってくださった
たくさんの人たちが、手をぬかずに、
一所懸命やってきてくださってきたことが
今のこの店を作ってるんですよね。


商売のことなど何も分かってなかった私が
こんなプロジェクトに参加できて、
そしてオープンすることができたのは
そういう人たちへの、『感謝』の一言です。

でも、オープンしたことがゴールではないし、
ここからがスタートですから、
今まで以上に努力していかないといけないと
思ってます。

どんどん進化していく「南大門」を
どうか皆さんに見守っていただきたいです。
そして何より、思いきり食べていただきたいです。
本当においしいですから!
ほぼ日 肉が好きなだけでは、商売はできない
ということがよくわかりました。
私もサブイボが出るくらいの仕事をするよう
がんばります!
darlingもきっと食べに行くと思うので
キムチサービス、肩もみサービス、よろしくね!
ヤキコ ああ、美容室みたいに
そういうサービスがあるといいかもね。
メモメモ。



焼き肉屋の娘に聞く、
タンとチゲは、こう食べる!!!


タン
上に乗っているねぎやにんにくのすりおろしを
肉でまいて焼くと、網も汚れず、中もジューシーに
おいしく焼けるのです。


これを


こう焼く


チゲ
アツアツがおいしいチゲは、
その店の器にもよりますが、網の上に器ごと乗せて、
一度アツアツ状態にしてから食べると、
尚おいしいです。熱さもご馳走のうちですからね!


これを


こう乗せる



『南大門 春夏秋冬

京都府京都市下京区河原町四条下ル稲荷町326
tel.(075)351-0351
(阪急河原町駅より徒歩1分/
 京阪四条河原町駅より徒歩5分)

URL:http://nandaimon.jp/
営業時間:17時〜23時
    (ラストオーダー22時30分・ランチはありません)
     無休