ITO Masako + HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN 白いもの。 伊藤まさこさんと「白」をめぐる、ちいさな旅。  ベッドリネン、タオル、 アンティークリネンのハンカチ、 うつわ、白いシャツ、 バブーシュ、キャンドル‥‥。 それから、海岸で拾ってきた白い石。 スタイリストの伊藤まさこさんの家には、 「白いもの」がたくさんならんでいます。  白が大好き。 けれどもいままで「なぜか」とは 考えたことはなかったという伊藤さんといっしょに、 いろんな白いものや、 そこにかかわる人たちをたずねる、 ちいさな旅を、はじめました。

伊藤 岡田さんの仕事場ってとてもきれい!
やっぱり「白」なんですね。
岡田 むかしは、ぐっちゃぐちゃだったんですよ。
最近、歳をとってきたのかな、
整理整頓したくなり、
まめに、角を揃えたりしだして(笑)。
でも、白をやってる理由のひとつに、
いろんな色が混ざると
混乱しそうになるからというのもあるんです。
なるべくトーンが似た白で統一すると、
仕事的にも、健康的かなと。
片づいていないと効率がわるいですし、
ものがあり過ぎると、
シンプルに考えられなくなって。
いっそ、ものがないと、
ナチュラルに考えられるような気がします。
伊藤 わたしも家はできるかぎりシンプルにしてるんです。
ふだんいろんなものを見たりとか、
いろんな人と会ったりとかして、
刺激があるから、家はもう
ほんとになにも置きたくないなぁと。
岡田 それ、わかる気がします。
ぼくもそういうところがありますから。
フランスのリネンとかも白いのが好きで。
寝るときは、一人で寝るんですけど、
その部屋も白にしているんです。
ほんとに落ち着くんですよ。
伊藤 岡田さんは、白がずっと好きだったんですか。
岡田 いま考えると
むかしから好きだったかもしれないですね。
陰影がすごくきれいで、
立体感が出るじゃないですか。
それがやっぱり好きなのかな。
伊藤 子どものころから?
岡田 そうかもしれないです。
うつわも、部屋と同じで、
色を付けだすと、ほんときりがなくて。
頭が混乱してくるんですよ。
色を入れだすと、そっちに目が行っちゃう。
でも、白って、同じことを何回やっても、
窯のあがりで、ちょっと黄色味がかったり、
青みがかったり、その変化が
自分にはちょうどいいのかなと思っているんです。
伊藤 いっぽうで、岡田さんは、
麻布のアンティークショップ
「さる山」の猿山修さんといっしょに、
“猿山修デザイン洋食器”を
つくっていらっしゃいますよね。
そういうふうに新しいデザインを、
誰かと組んでつくるというのも‥‥
岡田 はい、とてもたのしいですね!
第三者の意見を聞くのはほんとうにたのしい。
自分とはぜんぜん見方が違う感じとか、
どういうことで使われるだろうって想定するだけで、
もう、たのしいですよ。
人と仕事をすると、
その人がどういうふうな見方をしていて、
食器を使っているかということが
すごく勉強になりますし、
なにしろ妥協できない。
適当なことができない。
自由業をしていると、ついつい適当なものに
なっていくことだってありますから。
伊藤 岡田さんはきっと、そんなことはないですよ。
岡田 いえ、やっぱり、
人の厳しい目で見ていただいて、
バランスを取りたいというのはあります。
伊藤 じゃあ、気づくこともいっぱいある?
岡田 すごくあります。
伊藤 松本の料理屋さんの温石(おんじゃく)でも
猿山さんがデザインした、岡田さんのうつわが
使われていましたね。
ちょっと深さのあるうつわなんだけれど、
ふちの内側に、ちょっと引っかかりがあって、
スプーンで、すくいやすいんですよね。

ああ、それにしてもこの場所の気持ちのいいこと。
きょうは雨ですけれど、
窓の外の景色が、いいですね。
岡田 たけのこが生えるんです。
今年は、なり年で、
30本ぐらい食べました。
柿もなりますし、あけびも、
自分が食べた種で毎年、実をつけます。
ここ、ほんとにおもしろくて、
野うさぎが出てくるんですよ。
伊藤 え! ほんとうに?
野うさぎ!
岡田 キジも出てきますし、
ハクビシンも出てきますし。
でも、怖かったのは、
マムシも出てきたんですよ。
意外とこのあたりは自然が残ってて、
アライグマも見たことありますし。
これほんとの話なんですけど、
4、500メートル向こうに
熊が出たことあるんですよ。
月の輪グマが。
山が続いてるのか、
野生動物がひょこひょこと出てくるんです。
伊藤 へぇー!
この鏡はなんですか?
ふたつ、ある。
岡田 作陶中に、フォルムをチェックする鏡です。
削りだすときに、鏡があると、
きれいに削れるんですよ。
上の鏡は皿の深さを見る鏡なんです。
外国人の陶芸家さんの書いてる本に
こういう写真が載っていて。
説明がなかったので、
なんでやってるんだろうかと考えて、
置いてみたら、なるほどと思って。
ちょっと遠い距離でフォルムを見るためなんだと。
陶芸家って、ごく近くのフォルムしか見ないんですよ。
伊藤 近くでずっと見ているより、
ちょっと離れた感じで
見れるといいのかなあ?
おもしろい!
人と人もそうですし、
場所もそう。
毎日つかうタオルや石けん、ベッドマットにシーツ‥‥
自分にとって「相性がいい」とか「悪い」とか、
そういうのってあるものです。
相性が悪いと、なんだか居心地が悪いし、
楽しくないですものね。
そういう意味で、岡田さんのうつわって
私にとって
「相性がいい」んだということに気がつきました。
料理が映えるとか、
形がどうとか、
触り心地がどうと言う前に、
相性がよかったのです。
だから好きなんですね。
岡田さんとは、今まであまり
お話をする機会がなかったのですが、
工房にうかがって
いろいろとお話を聞かせていただくうちに、
「ああ、やっぱりこの人が作るうつわ、私は好きだ。」
そう思いました。
ストイックな部分も持ちつつも、
(きっと、それはこっそり内に秘め)
彼のまわりに漂う空気はなんだか大らか。
作品とご本人の間に距離がないのでした。
お話の中で、
「白いうつわを作る理由のひとつに、
 いろんな色が混ざると
 混乱しそうになる。
 ものがあり過ぎるとシンプルに考えられない」
そうおっしゃっていました。
そうそう、ほんとうに! と思わず膝を打ちました。
家をすっきりまっ白にしておきたい、
私が白が好きな理由のひとつに、
「いつもニュートラルでありたい」
そんな思いがあります。
毎日、いろんな人に会って、
いろんなものと出会って刺激を受けて。
でも家に帰って白いものに囲まれていると、
その出会いから受けた刺激を、
自分になりに噛み砕いて、消化できる、
いつもの私に戻れるというか。
白って、そんな不思議な力を持っているのだなぁ。
(伊藤まさこ)

2012-08-10-FRI

 

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