|
<ほぼ日読者の皆様へ>
今週は過ぎ去った11月の悲しみです。
11月
死ぬことは人生の最大の事業といってもいいだろう。
たいていの場合楽には死なせてもらえない。
人間の尊厳を失っていくプロセスを
周囲の人に見せることになる。
それはどんな美人も金持ちも王様も同じだ。
あなたはそうなった場合
その姿を愛する人に見せるだろうか。
先月封切りされた『スウィート・ノベンバー』
という映画を観た感想は人それぞれだ。
広告代理店のクリエイターのネルソン(キアヌ・リーブス)は
業界で何度も賞をとったやり手で典型的な仕事中毒人間。
そんな彼がふとしたことでサラ(シャリーズ・セロン)という
美しい女性と出会う。
サラは仕事しか目に無いネルソンを変えようと
11月の1ヶ月だけ自分の家に住み仕事を忘れるよう
様々な手を使って説得する。
そうした中で精神のバランスを欠いていくネルソンは
ある日得意先へのプレゼンテーションをぶち壊し
ついにクビになる。
そこでふたりの奇妙な共同生活がスタートする。
サラの提案は11月の1ヶ月だけなのだが、
次第にふたりとも深く愛し合うようになり、
ネルソンも仕事だけじゃない人生の意味に気づいていく。
彼はサラにプロポーズするのだが彼女は拒絶。
すぐにその理由がわかる。
サラは若くしてガンの一種に冒されていたのだ。
死が避けられないと悟ったサラは病院での治療を拒否し、
治療に専念するよう勧める家族の元を去って
膨大な痛み止めの薬を頼りにひとりで生活していた。
そして生きる輝きを取り戻したいと
期限を決めてのつかの間の恋を繰り返していたのだ。
サラの具合が次第に悪くなる中で
彼女は約束通り1ヶ月で出て行ってくれとネルソンに言う。
ネルソンは最後まで一緒にいたいとサラに懇願する。
しかしサラは死に向かう自分の姿を見せたくないと
あくまで拒絶する。
ネルソンは失意の中でサラの部屋を出て行く。
ところがクリスマスの夜、
ゲイの男友達たちとパーティーを開くサラの自宅の窓から
サンタクロースの帽子をかぶったネルソンが突然入ってくる。
そこで彼女に幾つものプレゼントを渡し、
ふたりはいったんは縒りを戻す。が、早朝サラは外出し
その間に荷物をまとめて出て行ってくれと
ネルソンに通告するのだ。
サラを追いかけるネルソン。
看病したいと言うネルソンに、サラは言い放つ。
「家族に連絡を取って治療を受けることにしたの。
あなたの記憶に残る私は、美しく強い私でいたい。
だから別れたいの」と。
最後までサラの強い決意は変わらなかった。
僕はこの映画を見ながら、
11月に亡くなった友のことを思っていた。
その友は40歳で、ガンに冒された。
7月に検査で見つかり
わずか4ヶ月で突然命を断ち切られた。
大学時代に所属していた映画制作グループの仲間だった。
同級生の中でおそらく最も映画のセンスのいい男で
物事をほど良い距離からひいた目で面白がることができ
時に自分をも笑い飛ばせる余裕を持っていた。
面倒な仕事も引き受けても必ず期限までに仕上げた。
僕は一種の憧れを持って彼を見ていた。
居場所さえなかなか見つからない自分に比べて
彼のなんとカッコイイことか。
実際彼は多くの友人に囲まれ信頼され好かれていた。
そんな彼がガンに冒されていると知ったのは
亡くなるわずか1ヶ月ほど前だったと思う。
夜中に仲間のひとりから電話があったのだ。
その時の驚きとショックは今でも忘れない。
だがすぐに彼に会うことはできなかった。
病に伏せる姿を仲間たちに見せたくない。
治ってから笑い話として友達には伝えたい。
彼はそう話していたそうだ。
最も深い関わりを持つ親友も
見舞いに行くことはできなかった。
入院していることさえ連絡しないよう彼は言っていたが
命の期限を知った奥さんが
悩んだ末、仲間たちに情報だけは伝えてくれたのだ。
すぐにでも見舞いに行きたい。
おそらく皆そんな気持ちだった。
だが見舞いを受けたくないという彼の思いは
最も優先されるべきものだった。
じりじりとした気持ちで待ちながら、
僕らが彼と会えたのは亡くなる前日だった。
医者が親しい人たちに会わせた方がいいと勧め、
奥さんが自分の判断で仲間たちに連絡してくれた。
仕事を終えて駆けつけると
もうろうとしているとはいえまだ意識もあった。
ひどく痩せていたが手を握ると
驚くほど強く握り返してくれた。
それからほぼ半日後彼は帰らぬ人となった。
あまりに早すぎる仲間の死からまだわずか2週間余り。
見舞いを受けなかった彼は
死に向かってどんな気持ちで日々過ごしていたのだろう、
『スウィート・ノベンバー』を観ながら
そんな思いに何度もとらわれてしまったのだ。
僕の父は肺がんで亡くなった。
半年間に渡る闘病生活は
人間の尊厳を失っていくプロセスそのものだった。
その10年近く前も、父は舌ガンにかかり入院した。
ごく初期の軽いもので放射線治療だけで完治した。
だが点滴の生活が続き痩せてやつれたためか
父は、姉と僕の見舞いを拒否した。
生還できると考えた当時の父は子供に会うことを拒み、
半ば死を予感した10年後の闘病生活では
子供の見舞いを受け入れた。
映画では、愛する恋人の介護は拒否しながら
ゲイの男友達には看病してもらい風呂に入れてもらう。
ドアを閉められ入室を許されないネルソンは
いたたまれなず複雑な思いに襲われる。
サラにとってネルソンは愛する恋人ではあっても
家族ではないことも大きく影響しているだろう。
愛情には様々な形がある。
亡くなった友は人一倍映画が好きで
社会人になってもコンスタントに映画を観つづけていた。
そんな彼が例えばこの映画を観たらどう感じるのだろう。
『スウィート・ノベンバー』が終わっても
僕はしばらく目をつぶって席に座っていた。
そのとき僕は気づいた。
本当は映画のテーマから彼を連想したわけではないと。
11月のあの日から、
何を見てもふと気がつくと友を思い起こしているのだ。

『勝者もなく、敗者もなく』
著者:松原耕二
幻冬舎 2000年9月出版
本体価格:1500円
「言い残したことがあるような気がして
口を開こうとした瞬間、
エレベーターがゆっくりと閉まった」
「勝ち続けている時は、自分の隣を
神様が一緒に歩いてくれてる、と感じるんです。
・・・たいていそういう頂点で負け始めるんです」
余韻を大切にした、9つの人間ノンフィクションですっ。
(ほぼ日編集部より)
|