ラストワルツを聴きながら。
あのすごさを、余すことなく語りあう。

第1回 太鼓は言葉。

沼澤 イトイさん、こんばんわ!
糸井 こんばんわ。
沼澤 すごいですよねぇ、
「ほぼ日」に届くおたよりって。
先月、「ほぼ日」の読者から
いただいたメールで、特にうれしかったのは、
「音楽からずいぶん離れていたんだけど、
 また、音楽を聴いてみようと思いました」
という・・・。

糸井 あったねぇ。
沼澤 「沼澤さんのライブを見にいって、
 まだ数回なんですけど・・・」
そんなふうに書いてくださる感想も、
とてもうれしいんです。
よく知らないから失礼なんてことはない。
はじめて見たとしても、すごい感動したなら、
20年来のファンも何も、関係ないですもの。
糸井 ぼくも、反響がよくて、
ほんとうにうれしいです。
いわゆる「ティーン向け」でないところに、
ちゃんと音楽は根づくのだということが、
信じられてうれしいんです。
しかし、沼澤さん、ドラムで、
こういうお客さんを獲得してきたなんて、
ほんとにスゴイですよ。
沼澤 みなさんの感想メールや応援を受けると、
ぼくが発信したものへの反応で、
発信した自分自身が学習できることに、
いつも、とても驚きますね。
つくづくありがたいことだなぁと感じました。

価値を理解してくれる受け手と、
情熱を傾けて必死に自分たちの
想像力と創造力を発信している「ほぼ日」との
素晴らしい関係を目の当たりに見たんです。

また、ライブを見に来てください。
ライブがいいんです。
生の音と空気を、
その瞬間に送り手と受け手が
同時に感じる・・・。
これがなんたって、いちばんですから。
糸井 ぜひぜひ。

いま、マイブーム中なのが
The Bandの『ラスト・ワルツ』っていう
ライブDVDを観ることで。

「興奮した!」ってメールを送ったら、
沼澤さんが、すごい反応してくれて・・・。
沼澤 いや、このタイミングで、
いま、『ラスト・ワルツ』 に来たっていうのは、
イトイさん、ものすごい
ミュージシャン寄りの耳をしていますよ。
糸井 もともと、
『ラスト・ワルツ』に興味がいったこと自体、
無意識に、沼澤さんの影響が
あったと思うんです。

前にお話をした時、沼澤さんがおっしゃった
「太鼓って、通信から、はじまったんです」
というひとことが、まず、すごく大きくて。

遠くの人に感情を伝えることが起源の楽器。
それを理解すると、音楽を聴くことが
もっと、たのしくなったんです。
「リズムっていうのは、言葉なんだ」
とわかったから。

ぼくもいちおう、仕事として
言葉を使う人間っていうことになってるので、
いらない装飾だとか、
フカシのための言葉だとか、
言葉にもいろいろある中で、その時々で、
ひとつの「通信」を選ぶってことは
わかるんです。

「何を言ってるんだかわからないけど、
 何かいいような気がする言葉」
を使うことも、技術として、あるわけです。
沼澤 それ、ぼくらがやってることと
まったく同じですよ。そういう時、あります。
糸井 「お飾りをジャンジャン出して、
 それ自体を楽しんで、
 酔っぱらっちゃえばいいじゃない!」
という言葉の使いかたも、もちろんあるけど、
たとえば、そういう方向の表現って、
しっかりとした言葉を使える人間がやらないと
すごい、きたならしいものになるんです。
・・・ドラムにも、そういうとこ、ありますよね?
沼澤 まったく一緒です。
技術がない人が
「いい感じでしょ?」
みたいなものを出しても、
土台としての技術がなければ
「それなり」
だね、
というのがありますから。
糸井 それで、まず、沼澤さんが
「この人は尊敬する」っていうドラマーの
スティーブ・ジョーダンを聴いたんですよ。

おもしろかった。
ドラムをおもしろがろうとしないかぎり、
おもしろくないドラムじゃないですか。
それが、印象に残っていまして・・・。

「この合図のような太鼓は、
 どこかで馴染んでいるはずだ」
「なんだっけ」
「あ・・・The Bandだ」
というふうに刺激されて、あらためて
DVDを観たんだと思うんですよ、無意識で。
それで、『ラスト・ワルツ』に行き着いた。
沼澤 それは、危険な道筋ですねぇ・・・。
そう感じていること自体、キてます!
飛び抜けて優秀な音楽家の感覚ですよ。

スティーブ・ジョーダンは、
技術が最高峰なくせに、
それを見せない方向に行く
わけです。
すごい確信犯なんですよ、あの人。
それを見て、THE BANDって
思いあたるのは、ほんとにすごい。
糸井 それで、思わず、
沼澤さんと話しあいたくなっちゃったんです。
『ラスト・ワルツ』について、さらに、
感心させてもらいたいなぁと感じまして。
沼澤 こちらこそ、たのしみです。
ドキドキしてきた。

糸井 ぼくは、言葉の分野でも、音楽でも、
もともと、スティーブ・ジョーダンとか
THE BANDみたいなのが、とても
好きだったなぁ、と思いおこすわけですよ。

言葉なら、最近なら、たとえば川上弘美さん。
『センセイの鞄』というのが
賞をもらったり売れたりしたんですけど、
川上さんの言葉は、いわゆる修業をして
身につけたものではないんですね。
沼澤 ストリートミュージシャン、
ストリートライターみたいな?
糸井 いわばそうですね。
徹底的に敏感に言葉を生きてた人が、
言葉に対してウソをつかないまま、
言葉を重ねていく
と、
どういう文章になるかな、みたいな。
そこが、とても好きだなぁと。

川上さんの先祖が、
田中小実昌さんだと思うんです。
田中小実昌の書くものも、
「あぁ・・・わたしも好きですねぇ」
って言うヤツがいると、そいつと
すぐ仲良くなれるみたいなところがあって。
音楽にも、そういう時ってありますよね?
沼澤 うん、いっしょです。
糸井 つまり、フカさないし、
とにかく広げないんだけども豊か

っていうような表現の系統があるんですね。
沼澤 「狭くて深い」みたいな。
糸井 そうそう。

いくら、いっぱい言葉を使っても、
あちこちに電灯はともるけれど、
まぶしくて見たいものが見られない。
沼澤 ええ。
糸井 やっぱり言葉も、信号だから、
細い道を一緒に渡ってでもなんでもいいから、
宝物のところにたどりつく道であって欲しい。

自分でも、なかなか
そんなことができない時もあるけど、
「そういうのが、いいなぁ」
と思う心で、いつもぼくは何かを書いてる
つもりではあるんです。
どんなに、ムダなおしゃべりをしていても。
沼澤 言ってること、すごいわかります。
糸井 それで、
沼澤さんの好きなものを見せてもらったら、
「あ、俺が文章で好きなのと同じじゃないか」
と思ったんです。

沼澤 The Bandはミュージシャンにとっての憧れです。
特にレボン・ヘルムは、
歌を支えるドラム、あるいは歌いつつの
ドラムとして
歴史上の誰も、まるでかなわないですから。

The Bandは、世界の音楽歴史上で、
ある意味で、最高峰の位置にいます。

まずは全員が驚異的な職人であることと、
天才のガース・ハドソンを除いて、
全員がリードボーカリストであることと、
そして、完璧な
オリジナル・バンド・サウンドを
持っていること。

このおかげで
ボブ・ディラン、エリック・クラプトン、
ニール・ヤング、グレイトフル・デッド、
ジョージ・ハリソンなどなど、
世界の有名アーチストたちが、
彼らと作品を作りたいがために
ラブ・コールを送り続けたという
紛れもない事実があるし・・・。

この映画の『ラスト・ワルツ』に関しては、
確かに歴史的な作品として存在しているのですが、
裏には、けっこう政治と音楽ビジネスがあって、
ロビー・ロバートソンと
残りのメンバーとの対立がすごくて、
やってる本人達はどうでもいいと思っているのに、
でもものすごいライブ映像なんですよね・・・。

レボン・ヘルムにとっては
やっぱり『Rock of Ages』がいちばん、
と本人が明言していて、『ラスト・ワルツ』は
仕方がなくてやった代物だなんて言ってますし。
糸井 チラッと聞くだけで、
いきなり、おもしろくなってきた!
  (つづきます)

2003-05-02-FRI

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