- SWITCH新井さん
- 糸井さんが書くのが好きじゃないって、
びっくりしました。
それでも今日も書くし明日も書くのは、
待っている人がいるから、
という、牛乳屋さんみたいな気持ちで?
- 糸井
- 文章を書くということが、
もう生活の中に入っちゃってるんです。
だから、毎日ひとつは必ず原稿を書く、
そのために生きてるって、
そういう言い方もできるかもしれない。
- 梅
- わあ。
- 糸井
- それがないと、つかまる吊り革がない、
みたいな感じなんで、
かえって「書くのは嫌い」って
言い切っちゃったほうが楽なんですよ。
- 梅
- わたしは自分で勝手に撮る写真もあるし、
依頼されて撮る写真もある。
好きか嫌いか聞かれたら、嫌いとは‥‥。
- 糸井
- 言わないだろうね。
ただ、カメラを取り上げちゃったら、
拷問だよね、梅佳代にとって。
- 梅
- えー、どうしよう‥‥。
- 糸井
- 撮ってるマネするんじゃないかね。
ファインダーのぞくフリ。
- 梅
- あはは! ダサい人のやるやつ?
- 糸井
- それほど、身体の一部になってる。
- 梅
- いつも持ってるんで。
- 糸井
- で、その姿を他の人が見たら、
「好きなんだろうな」と思うよね。
- 梅
- でも、そうすると違和感あるのは、
「写真大好きなんです」
って言っとるその人の写真が、
何ていうか、わたしには
おもしろいと思えんっていうか‥‥。
- 糸井
- 好きだ好きだって言い過ぎる人って、
おもしろくないことあるよね。
「わたし詩を書くのが大好きです!」
‥‥っていう人の詩とかさ。
- SWITCH新井さん
- 谷川(俊太郎)さんも、
職業として、「依頼されたら書きます」
という感じがありますよね。
- 糸井
- そうですね。
ただ、さっきのお寿司屋さんみたいに、
谷川さんも、
好きだと思っていた時期は長いと思う。
好きだと思ってないと、
乗り越えられないものって、あるから。
- SWITCH新井さん
- 本にまとめるときは、どうですか。
- 糸井
- 自分でまとめることには興味ないです。
編集者がやってくれたのを見て、
ずいぶん時間が経ってから、
「ああ、けっこうおもしろいね」って
言ったりはしてますけど。
- 梅
- 写真のおもしろさも、時間差できます。
- 糸井
- ああ、そうだね。
- 梅
- 撮った次の日にいいと思ってなくても、
5年後に見たとき、
「え、なんで、
この写真、入れんかったんやろう?」
みたいな。
少し時間をあけたほうが、
よく見えることがあるのは、何でかな。
- 糸井
- きっと、いつだって、
「ぜんぶ」って見えてないんだと思う。
- 梅
- ああー‥‥そうか。
- SWITCH新井さん
- 糸井さんの娘さんが
電車のなかから撮った糸井さんの写真、
すごくいいですよね。
遺影にしたいっておっしゃってるのが
よくわかります。
なんのてらいもなく、
ただシャッター押しましたって感じで。
- 糸井
- 電車の中の娘に手を降ってるんだけど、
ぼくは、あっちがこっちを
撮ってるのは、知らなかったんです。
- 梅
- へぇー。
- SWITCH新井さん
- 最高の1枚ですよ。
- 糸井
- なーんにも思っていなくたって、
撮れちゃうじゃない、写真って。
- 梅
- はい。
- 糸井
- なのに、何か思っていたほうが、
撮れるんだよね。
- 梅
- ああ‥‥。
- 糸井
- なんだろう、あれ。
撮りたいって思う気持ちかなあ。
- 梅
- そう‥‥うん。
- 糸井
- 極端に言えば、
カメラを出してきたこと自体が
すでに「写真」なんだよね。
ちっちゃいカメラでも、
取り出して、
こっちに向けたその瞬間にもう、
撮ってなくたって、撮れてる。
- 梅
- 撮っておきたいというか‥‥。
- 糸井
- 撮ってやれって感じ?
- 梅
- そっか。撮ってやれ、だ!
- 糸井
- 父親が手を振ってる姿を見て
撮ってあとで送ってやれ‥‥っていう、
報道写真?
- 梅
- そうですね、報道写真。
<続きます>
2019-01-14-MON
2019-01-14-MON