糸井 この先、どんなことをやりたいの？ うめ よく聞かれるんですけど‥‥。 糸井 困っちゃうよね。 うめ たぶん、ずっと撮ってるんです、写真を。 糸井 赤ん坊抱えながらも、カメラは離さない？ うめ たぶん。 糸井 今は、ふつうにカメラマンとしての仕事も 引き受けたりしてるわけでしょう？ うめ はい、雑誌とかで、よく。 糸井 それについては、どう捉えてるの？ うめ これ、聞かれたらクライアントの人に 気まずいんやけど‥‥ あんまり「仕事」と思ってないんです。 だって、撮影で会うのはだいたい芸能人だし、 たんに「ラッキー！」っていうか‥‥。 しかも撮っていいっていうんですよ、写真に！ 糸井 そりゃ撮っていいよね（笑）。 うめ ほんとラッキーとしか言いようがなくて。 糸井 気に入ってもらえるように撮らなきゃとか、 そういうプレッシャーはないんだ？ うめ あっちはプロだしねぇ。撮られる。 糸井 ああ‥‥「撮られかた」を知ってるわけだ。 うめ そう、だから、たいがい平気なんです。 しかもシャッター押したら「写る」し。 糸井 あの‥‥木村拓哉くんがね、ぼくとふたりでいるときは 若くてふつうの、いーい子なんだけど、 ぼくの娘が同じ空間にいるとさ‥‥「キムタク」になる。 うめ へえー。 糸井 やっぱり「視線ひとつ」で、ぜんぜんちがう。 変わるんだよ。 うめ へえー、おもしろーい。 糸井 ターバンを巻いてサーベルふりかざす 「タイガー・ジェット・シン」っていう 悪役レスラーがいたのね、むかし。 会場の子どもまで追っかけまわすという、 凶悪なヤツが。 うめ こわー！ 糸井 ある日、そのタイガー・ジェット・シンが 大阪駅にいたらしいんだよ。 それを見た、買いもの帰りのおばさんが、 「あ、シンや」って言ったんだって。 うめ うん、うん。 糸井 そしたら、それまではふつうだったのに、 「あ、シンや」って言われたとたん、 いつもの凶悪レスラーに豹変して、 そのおばさんを追っかけまわしたらしい‥‥。 うめ すーごーい！ 糸井 ‥‥ま、つまり何が言いたいかというと（笑）、 「視線ひとつで、プロになる」ってこと。 うめ でも、それはほんとに、そう思います。 だから、あたしが撮っても大丈夫やし、 逆に、あたしっぽく撮りたいとか、 そういうのは、あんまり、ないんです。 その人が撮られたいように撮るのが、 いちばんいい写真になるから。 糸井 なるほど、そうですか‥‥。 でもさ、そろそろ、 本日のまとめに入ろうとするなら、ですよ。 うめ 何やわからんけど、緊張するー。 糸井 ぼくが、今回の作品ですごいなと思ったのは、 「写真のおもしろさ」もあるけど、 「10年間も撮り続けてきた」ってことなんです。 あなたが、あなたのじいちゃんを。 それが、いちばんすごいことじゃないかって。 うめ うーん。 糸井 なんで続いたんだろう？ うめ うーん。 糸井 じいちゃんだから？ うめ じいちゃんがあたしのこと好きやし、 あたしもじいちゃんのこと好きやから。 そういうことやろかと思うけど‥‥。 糸井 ‥‥なるほどね。 うめ あと、実家におったらヒマやしね！ 糸井 さっきの「コンセプト」の話じゃないけど、 たぶん「目的と動機」がハッキリしてるじゃない、 ふつう「写真家」と呼ばれる人なら。 うめ そうやろね。 糸井 梅佳代みたいな「写真家」が あんまりいないっていうのは、そこなんだよ。 だって、「写真家」の姿勢じゃないもん、 「ヒマだから写真を撮る」ってのは。 うめ 何なんだろうか、わたし。 糸井 うーん‥‥写真人。 うめ しゃしんびと？ 糸井 むかし、「恋人よ」って歌の歌詞に 「マラソン人（びと）」って人が出てきてさ。 うめ 何その人？ 糸井 ベンチに座っていたら 目のまえを通り過ぎていくという‥‥、 「ただ、マラソンをする人」。 うめ それが「マラソンびと」？ 糸井 当時、すごい言葉だなぁと思ったんだけどね‥‥ 同じような意味で、 梅佳代は「写真人」なんじゃないかと思った、今。 うめ つまり「ただ写真を撮る人」ってこと？ 糸井 そう、コンセプトなんか、なくってよくて、 おもしろいと思ったものに向けて、 ただ、ずーっとシャッターを切ってる人だよ。 うめ そうやわ、わたし。 糸井 うん、いや‥‥今日はすごいものを見た。 おもしろかった。 ありがとうございました、ほんとに。 うめ こちらこそ、 ノーベル賞ありがとうございました。 糸井 俺からもらったって言わないでね。 ニセモノってバレるから（笑）。 うめ あはははは（笑）。 糸井 いや、でも、これがあったからこそ、 『うめめ』とか『男子』ができたんだよ。 いやー、たのしかったぁ‥‥。 うめ わたしもー！ 糸井 ああ、そうそう、 梅佳代さんの名刺、あったらください。 うめ えっと、はい、あります。よろこんで。 糸井 ‥‥ふるさと大使。 うめ 能登町の親善大使になってしまって。 糸井 すごいな（笑）。 うめ わたしのパパとかにも、 「絶対ならんとダメやぞ」とか言われて。 糸井 よっ、ふるさと大使！　あはははは‥‥。 ＜終わります！＞ 2008-10-03-FRI

© UME KAYO / HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN