梅田望夫×岩田聡×糸井重里  適切な大きさの問題さえ生まれれば。  インターネット、オープンソース、 コンフォートゾーン、そのほか。


第5回 そういう目に見えない関係を、「愛」と呼ぶこともできる。

糸井 インターネット上では、
適切な大きさの問題さえ生まれれば、
そこに問題があるというだけで
それを解決する人が現れる。
いや、この理論はいいですね。
梅田 だから、この話を聞いたとき、
どうやったら適切なサイズの問題を
つぎつぎに生み出すことができるんだろうか、
って思ったんですね。
つまり、適切なサイズの問題をつぎつぎに生み出し、
それの集まった総体を意図する方向に
向かうようにデザインできる人こそが、
これからのインターネットのリーダーというか、
未来のリーダーシップなんじゃないか
というような予感がしたんです。
糸井 そうですね。
だからやっぱり、その問題なり、総体なりに、
魅力というのはなきゃいけないんですよね。
わかりやすい例でいうと、
ぼくらも「ほぼ日」でアンケートって
よくやるんですけど、
おもしろいアンケートには人が来るんですよ。
梅田 うん、魅力は必要です。
あとは、隙があるというのも大事。
糸井 ああ、そうですね。
あの、お客さんの立場で、
「なにが素敵か」ということが
きちんとわかっている人は、
誰でもつくり手に回れるんです。
それが、なんていうか、
いま、ぼくが頼りにしている部分なんです。
その感性でつくられるものこそが
いまは求められていると思うんですね。
それと、いまの「辻プログラマー」の話は
すごくつながるというか、しっくり来ましたね。
梅田 ああ、そうですか。
糸井 はい。なんのためにやるのか、
利己的なことなのか、利他的なことなのか、
そういうことをはっきり決めなくたって、
自然とつくり手に回る人っているわけだし、
そういう目に見えない関係、
しっかりとした説明のできない関係を、
「愛」と呼ぶことだってできると思うんです。
梅田 そういう言い方をする人もいますよね。
糸井 あの、以前、カメを研究している、
学者の人の本を読んだことがあるんです。
その中にひとつ、大好きな話があってね。
その方が飼っているカメがいて、
休みの日かなんかに、
部屋を歩かせて、それを眺めていると、
自分のヒザに登ってくるんだそうです。
その学者さんはもうおじいちゃんなんですけど、
彼は、自分のヒザに乗ってくるカメのことを、
まるで孫のことを語るように、
愛情たっぷりに書くんです。
ところが、一方でその人は学者でもあるから、
「カメというのは変温動物で
 温度がなければ生きていけないから、
 人間の温度を目的にヒザの上に登るんだ」
というふうにも平気で書くんですよ。
つまり、ヒザに登ってくるカメのことを、
一方では「愛」といい、
一方ではただの「温度」だという。
それって、「辻プログラマー」の話とも
近いんじゃないかなと思って。
梅田 そうですね。
自分のためにやっていることが、
一方から見ると利他性を帯びてくるという。
糸井 その理屈で、いろんなことが
整理できるんじゃないかなぁ。
その場その場での人の自然な振る舞いが
誰かの助けになって、
大きなものを進めていくという。
岩田 あの、私の経験からいうと、
あるプロジェクトがうまくいくときって、
理想的なリーダーがすべて先を読んで
きれいに作業を割り振って分担して
そのとおりにやったらできました、
という感じのときではないですね。
糸井 ああー、そうですか。
岩田 まぁ、とくに、ぼくらの仕事は、
人を驚かせたり感動させたりすることですから、
事前に理詰めで計画をたてることが
難しいというのもあるんですが。
一方で、どういう企画がうまくいくかというと、
最初の計画では決まってなかったことを、
「これ、ぼくがやっておきましょうか?」
というような感じで誰かが処理してくれるとき。
そういう人がたくさん現れるプロジェクトは
だいたい、うまくいくんです。
糸井 まさに、「辻解決者」みたいな人が。
岩田 そうですね。
逆に、そういう現象が起きないときは、
完成したとしても、
どこかに不協和音があって、ダメなんですよね。
糸井 「ただの完成品」が
できちゃうだけですからね。
岩田 ええ。で、Wiiをつくっているときなんかは、
「ここがちょっと問題だから、
 やっておきましょうか」っていうことが
いままでのハードの中で
いちばん多かったような気がするんです。
きっと、そういうムードができてたんでしょうね。
糸井 おもしろいですねぇ。
岩田 あと、全体の方向性の話でいうと、
Wiiの開発チームでは、開発のごく初期のころから
「Wiiはこういう機械にしたいんだ」っていう話を
ものすごくたくさんしてたんですよ。
だから、「こうありたい」という
イメージはけっこう共有されていたと思うんです。
そのうえで、現実的な問題が起こりそうなときに、
誰かが発見して、自然と解決していくという感じで。
糸井 それも、「思わず解決しちゃう」んだろうね。
オープンソースのデバッグとくらべると、
自社でつくってるWiiの問題を解決するっていうのは
純然たる仕事だとは思うんだけど。
岩田 そうですね。
糸井 それでも、総体がいい方向に向かっているときは、
「問題があると解決しちゃう」という
いい反応が連鎖してるんだと思うなぁ。
梅田 「そこにクロスワードがあれば解くのと同じです」
とまつもとさんも言ってましたけど、
「問題を見つけると解決を考える」というのは、
本能に根ざした行動なのかもしれないですね。
糸井 そうですね、ついやっちゃうという。
「いい」とか「悪い」とかの概念を入れずに
成り立つロジックだというのが
ものすごくおもしろい。
梅田 そうなんです。
そこに善悪の判断とか、
利己、利他みたいなものがない。
糸井 最近はその善悪という概念を
逆に使い道にしている人たちもいるじゃないですか。
なんというか、あっちよりこっちのほうが
いいことをしてるぞ、って言い合うような。
そういうことよりも、この理屈のほうが
よっぽどよくわかるなぁ。
いやぁ、なにしろ、インパクトありました。
梅田 ぼくも、聞いたときには
インパクトがありました。
糸井 オープンソースに
長く関わった人ならではの発見というか、
長い歴史が言わせたひと言でしょうね。
梅田 はい。
(続きます)


2008-11-19-WED

(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN