19、「男だから?」


うちのチビちゃんは、
私のことをなかなか「ママ」と
呼んでくれませんでした。
「パパ」は一日千回くらい言うようになってもです。
こどものことではなにがおきても
焼きもちを焼かなかった
私(男の子の母の余裕)ですが、
そのときはさすがにちょっとあせり、
まわりもまたけっこう
「なんでママって言わないの?」
「パパのほうが好きなんじゃないの〜?」
とか言うので、
いちいち胸がきゅんとなっちゃいました。
それでいろいろがんばって、
「ママだよ〜!」「ババ〜!」みたいな
やりとりをいっぱいしたけれど、
それでも全然呼んでくれません。

「パパ」のみが採用されてから
一ヶ月くらいたったとき・・・
なぜか、フロリダのホテルのベッドの上で、
私は夜中の三時に時差ぼけたチビから突然
「ママ〜!」と揺り起こされたのです。

「ママ〜!」
(すごい揺さぶり)
「え?今、ママって言ったの?」
(寝ぼけ)
「ママ〜!」
(ミルク作ってくれ〜!腹減った〜!)
「チビちゃん!」
(ぎゅうと抱きしめる)
「ママ〜!!!!」
(じたばた、早く飲ませろ!)

気持ちにはかなりの
食い違いがあった
ようですけれど、
人生でも最高の一瞬でした。

いいからもう一回寝な!
とも言わずに、
母はいそいそと旅先の
洗面台で粉ミルクを
作ったものです。


数週間後、チビちゃんの大きな親友である
なっちゃんという男の子の名前を、
チビちゃんは私の前だけで
突然練習しはじめたのです。
なっちゃんの写真を持ってきて
「んっちゃん!」「あっちん!」などと
試行錯誤を重ねてがんばっていました。

しかし、本人の前では
それをおくびにも出さないのです。
「なっちゃんは?言ってみたら?
 昨日言えたじゃない?」
とうながすとなっちゃんを指さすんだけれど、
呼びはしない。

時差ぼけも手伝って
すっかり夜型になったその頃のチビに、
夜中の三時にベッドに並んで、
大きな声で
「なっちゃん!」「なっちゃん!」と
いっしょに練習させられたことも
一生忘れないでしょう。
もう、なっちゃんが夢に出てきそうでした。

そしてある日、玄関先で
「おお!そうだよ!僕がなっちゃんだよ!」
などと感極まった声が聞こえてきたので、
見てみたら、
やっと本人を前に呼びかけた様子・・・。

あの練習・・・そして、どうしてその日を
「本人にデビュー」の日に決めたのか?
いろいろ謎があるんだけれど、
私はなんとなくその
「このリハの感じ・・・
 男ってそういうものかもな」
と思いました。


2005-05-25



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