テレビと落とし穴と未来と。 ーー価値・無価値・反価値のはなしーー  吉本隆明+糸井重里

04 やりやすい、励みになる、飯の種になる。
糸井
これまで記録として、映像を
NHKに撮ってもらったものが、
お正月に、ETV特集として、流れます。
「吉本隆明 語る 〜沈黙から芸術まで〜 」
というタイトルで、
人見記念講堂で行った講演を中心に
構成されます。
放送日は、2009年1月4日(日)、
夜10時から11時29分までの89分間です。
基本的にはほとんど
講演会の内容を紹介する、というものですが、
ご存知のとおり、全部は入りきりません。
吉本
ああ、そりゃそうだ。
ぼくは、もうこれについては
関与はしなくていいんですよね。
やんなきゃいけないようなことがあるのかな、と
思っていたんですが。
糸井
いいえ、ないです。
最初に吉本さんにお話したとおり、
吉本さんがテレビカメラに対して
テレビのためになにかすることは
ないようにしたいんです。
「密林の中のゴリラを撮るように、
 吉本さんを撮りますから」
と言っていた、
そのとおりになっていると思います。
吉本
ああ、それじゃあ(笑)、
わかりました。
糸井
吉本さんがこれだけ本格的に
テレビに出演なさるのははじめてでしょうし、
おそらく、放送後にさまざまな意見が
吉本さんのところにも、ぼくのところにも
NHKにも寄せられることでしょうけど‥‥
本当は、講演会よりも
吉本さんのご自宅で、
こうやってカメラをまわしていた時間が
いちばん長いんですよね(笑)。
35時間くらいは撮ったんでしょうか。
吉本
ああ、そうでしょうね。
糸井
ぼくとしては、この、
吉本さんとの35時間は、
番組に使われなかったとしても、
NHKに、大事にとっておいてもらいたいな、
と思っています。

今年は、『吉本隆明 五十度の講演』の
監修があったり、
いろんなことがあって、
吉本さんのところに通うことが多くて、
そこにテレビカメラも入ったことで、
ご迷惑をおかけした部分が
たくさんあったと思います。
でも、逆に、カメラがあったことで
ぼくも、慣れっこになりすぎないで、
いろんな話を吉本さんに訊くことができました。

これまでは宴会でお会いすることが
多かったんですけども、
そことはまたちがう時間をもつことができて、
それはそれでよかったと思ってるんです。

そして、改めて、
吉本さんの仕事が「芸術言語論」の講演という形で
出てきたのは、ぼくたちにとって
とてもびっくりしたことでした。
それをまず、映像に残したいと思った、
ということがあります。
吉本
はい。
糸井
あの講演は、
なにかに対する批評や解説でもなければ
問に対する答えでもない。
これがあったんだ、ということに
ぼくは、驚いたんですよ。

その意味で、
これからの仕事の方法として、
どこに可能性があるのか、
なにとどう格闘するのがいちばんなのか、
考えたいんです。
吉本さんの仕事でいうと、
吉本さんがやりやすくて、励みになって、
飯の種になるもの。
それを考えてみたいんです。
吉本
ええ、いや、そのとおりです。
ぼく自身も、そう思ってます。
飯の種になって、
やりがいがあって、まぁ、
自分のやってきた得意なことも
その中に入ってる。
そういうのがいいですね。
糸井
吉本さんの発言は、仕事になることが
たくさんあると思いますし、
具体的に『五十度の講演』の中に
けっこう入っています。
ぼくたちも探してみますけど、
ときには、別の筋肉を鍛えないと
できないこともあります。
吉本
ええ。
糸井
お正月のテレビが、
そのひとつになるのかもしれないです。
(つづきます)

2008-12-28-SUN

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