2006.11.15, Wed
SAKEROCK星野源さんのインタビュー、第4回です。
SAKEROCK結成時の「産みのくるしみ」になぞらえて、
タムくんと星野さん、お二人のクリエイティブに
共通するものについて、語ってくださいました!

ほぼ日 タムくんって、
実際に会うとどういう人ですか?
星野 タムくんは、
ぼくより年上ではあるんですけど、
実際に会うと、そんな気がしなくて。
ふつうに、優しくて
ふつうに、いじわるなことも言うし。
「キモイ!」とか平気で言うし(笑)。
ほぼ日 (笑)
星野 あと、タムくんと話したときのことで、
すごく印象に残っているのは、
「タイの人が、
 人のことをバカにするのが
 イヤになっちゃった」
って言ってたことなんです。
これは、ぼくの想像なんですけど、
タムくんって、タイで暮らしながら、
「自分は何かが違うなぁ」と感じていて、
自分のアイデンティティを
いちからつくりあげていった人なんじゃないか、
っていうふうに思うんですよね。
ほぼ日 そういえば、『タムくんとイープン』の中にも
そういうことが書いてありましたね。
星野 ええ。ああいう意識を持てるっていうだけでも
すごいことですよね。
なかなかできることじゃない。
しかも、タイには
「マンガ家」っていう職業が
ちゃんと確立されてないらしいんですよ。
それでもやるっていうのも、かっこいいですよね。


「葉っぱ」より(『タムくんアニメ イエロー』収録)
ほぼ日 そういうふうに
「自分のやり方を大切にする」というところは
タムくんと星野さんのおふたりに
共通しているように思います。
タムくんは、本の中で
「自分のやり方で人を幸せにしていきたい」
って書いていらっしゃいましたよね。
「マンガ家だからとか、ミュージシャンだから、
 ということを気にしていたら
 世界が狭くなっちゃう」とも。
星野 ぼくがSAKEROCKをつくったときは、
まわりの人はみんなコピーからはじめたりとか、
自分の好きな人たちの真似して曲をつくるとか、
そういう人が多かったんです。
たとえばスカバンドだったらスカバンド、
ロックバンドだったらロックバンド、
っていう状態からはじめるやり方がすごく多くて。
それが「なんだか納得いかない」
という気持ちだったんですよね。
SAKEROCKはそれを、
「自分たちの方法をいちからつくっていった」
っていう感じがあるんです。
とりあえず、コピーや真似を
全部拒否するところからはじめて。
ほぼ日 ああ、なるほど。
星野 と、言いながらも、最初は、
細野晴臣さんの『トロピカル三部作』みたいなのを
やりたかったんですけれど(笑)。
ただ、そういうものが自分たちには
やれないっていうことはわかっていて。
だから、自分がおもしろいと思うもの、
それに加えて、とにかくまわりを見て
「やりたくない」と思った事はやらない!
というところからはじめたんです。
リズムとかも、いちから全部。
「人は何故、まずエイトビート
 から始めてしまうんだろう?」
っていうところから考えるっていうような
あまのじゃくなやり方で。

ほぼ日 そこまで徹底して。すごいですね。
星野 「気持ちよければいいっていうことじゃない」
っていうところからはじめたんです。
だから、最初はすごく楽しくなかった(笑)。
ほぼ日 めずらしいですよね、そういうやり方って。
「楽しい!」っていうところから
はじめる人がほとんどなのに。
星野さん そのころ、知り合いのライブに行くと
楽しそうに演奏しているじゃないですか。
観てるこっちはぜんぜん楽しくないのに
なんで楽しそうに演奏しているんだよ、
って、思うことがたくさんあって。
その時に、自分たちが楽しまずに
周りを楽しませるっていうことができるのが
一番いいなと思って。
まずは、自分たちが楽しまない
っていうことをやりたかった(笑)。
だから、曲をつくる段階で、模倣というか、
何かを取り入れてということではなくて、
逆に、何かになりすぎたら
そこから離れていくというやり方を
ずっとやっていたんです。
そうやってつくっていったら
自分たちでもよくわからないものができあがって、
知り合いの人たちに聴いてもらっても
すごく反応が悪くて。
「よくわからない」という反応ばかりで。
そういう手探りな中、不安な中で
夜通し録音をして、やっぱりやめようか、
ということをずっと繰り返していたので
全然すすまなかったんですよ。
みんなが許せる何かが生まれるまで
やらない、みたいな感じで。
ほぼ日 いったん、どこかまでいってみて
やっぱり違うからやめようということを
繰り返すみたいなことですか。
星野さん そうですね。その時はなんか
そういうやり方でやっていたんですね。


「葉っぱ」より
ほぼ日 ある種、修行みたいな感じで。
星野さん そうなんですよ。まさに、修行ですね。
だから全然楽しくないんですよ(笑)。
しかも、いいものをつくっているんだっていう
自分の確信もないわけですし。
自分自身が、そういうふうに
しむけているんですけれど、自分でも不安で。
「こういう方向でいく!」っていう勘だけしかない状態。
はじめて自分のつくったものを世に出したのは
「これを置いてもらえませんか」と
レコード屋さんに持ち込んだ時だったんですが、
「聴かせてもらって、判断するよ」と言ってもらって。
何日か後に、そのレコード屋さんに行ったら
「こういう風に持ち込まれるものって
 大概受けないんだけれど、
 これはすごくよかったから売るよ」
って言ってもらって。その時にはじめて、
「自分たちのやっていたことは、
 間違ってなかったんだ!」と思えたんですね。
そこから、いろんな人の手に渡って
「いいね」と言ってくださる方もいて。
そこではじめて、自分たちが
どういうものをつくったのかわかったんです。
ほぼ日 本当に、自分のやり方だけを信じて。
星野さん はい。SAKEROCKは、そうやって
いちからつくっていった感じだったんですよね。
だから、『タムくんとイープン』を読んだときも
「ほんとうにそうだよな」と思ったんです。
タムくんのマンガも絵柄が妙に懐かしい、
みたいなところはあると思うんですけれども、
やっぱりどこにも寄っていないというか
「支えのないマンガ」っていう気がすごくして。
そこが、すごくぐっときたんですよね。
自分で方法を編み出す、
開拓していくというような感じが。

(続きます!)
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