笑福亭鶴瓶の落語魂。
その世界のすべてを愛するということ。

第23回 教えることを惜しまない商売

鶴瓶 青木先生のことを、落語にするのに、
どういうかたちでしていこうかは、
悩んだんです。

落語はひとりでやるから、
たとえば机を近づけるとき、
生徒の役をすると青木が消えるし……。

で、いちばんいいのは、
青木の役をするんですけども、
目線でだんだん
近づいてくるのを表す、
ということがわかったんです。

それは志の輔さんに電話したんですよ。
志のさん、俺の青木の話なんか知りませんよ。

だけど
「生徒と先生と、どっちで表そう?
 こんなんやねんけど」
と言うと、もうほんま一分ぐらいで、
「青木先生は、やっぱり年上ですから、
 上(上手、右側)を、切りますよね。
 それを斜め四五度に向いて黒板にして、
 その目線を近づけたらどうですか?」
あの人、すごいね。

それで近づいてくる雰囲気が出ます、
と言うてくれたんです。

ぼくはいろいろ悩んでたんですけど、
それがいちばんやと思った。

言うてみると簡単なようだけど、
そのことをすぐに気づいて言えるっちゅうのは、
すごいな思て。
糸井 ちょっと、感動しますね。
そのしかけで、立体化したんだ……。
鶴瓶 あとで電話かかってきてね、

「あれでよかったですか? 師匠?」
そう言うから、ほんまにもう、助かったと。

おんなじ商売でしょう?
だけど、
落語家っていう商売がすごいなと思うのは、
教えることを惜しまないんです。
師弟関係があるから。
ぜんぜん、惜しまないんです。

たとえば文珍兄さんが
ラジオをやられてなかった頃、
後輩のぼくのところに、
「ラジオのやり方を教えてくれ」
と来はったんですよ。
文珍兄さんも言いにくかったはずなんです。
だけどたずねてきてくれた。

噺家の世界は、割と、
まぁ誰にでもじゃないかもわからないけど、
割と教えますよ。

利害、ないんです。競争もない。
あの人に勝ちたいとか、そんなんない。
あの人に勝ちたいとかどうこう思うんやったら、
六人の会なんか入ってられませんよ。

勝負やったら、
昇太があんだけ爆笑したあとに
自分がどういう形でどうやっていいのか、
恥ずかしいじゃないですか、
ぼくのほうが先輩やけど。

だからもう、そういうところは
甘んじて受けようっていう思いですから、
勝ち負けは、ほんとにないんです。

「あっ! よっしゃっ!
 お客さんよろこばしてくれたな」
そういう思いがありますから、
こっちは違う形でこうしようとできる。
ほんとにいい世界ですよね。
糸井 もともと、落語家たちは、
おたがいに、落語を教えあってるんですもんねぇ。
鶴瓶 簡単に答えてくれるのは、
ええ世界ですよ、これは。

三人寄れば文殊の知恵と言うじゃないですか。
やっぱり、おんなじ職業の人が三人おったら、
こういうやりかたもあんのちがうか、
って言えるんですよね。
それが噺家の世界には、いまだに残ってます。
糸井 似たような話で、
よくコピー機とかが
壊れたりするときがあるじゃないですか。

修理の人が来ても、
仕事場で一生懸命に修理していて、
なかなか直んないなんてことがありますよね。

あのときって、役に立とうが立つまいが、
もうひとり連れてくると直るんですって。
鶴瓶 あぁ……わかる、わかる。
糸井 「これは、こういうことだから、おぼえとけ」
と、言う相手がいるだけで、
何かが変化するらしいんです。
鶴瓶 ものすごいわかるわ、それは。
  (つづきます)


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2005-01-02-SUN

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