ヒウおじさんの鳥獣戯話。
さぁ、オトナたち、近くにおいで。

第19回

十二支考―猪の子はどうしてウリ坊?

竜は爬虫類の一種だと信じられてきた。
実際これまでに書物や絵画にえがかれてきた竜は、
手足が4本でうろこを持つ爬虫類然とした動物だった。
同じ爬虫類でも国によってとらえ方に差があったようだ。
中国や日本など東洋ではヘビのようなひょろ長い体に
申し訳程度の小さな手足を持つ動物と思われていた。
長崎のおくんちで舞い踊る張り子の竜や、
『千と千尋の神隠し』のハクを思い出していただきたい。
われわれが慣れ親しんでいるのはこのタイプの竜である。

十二支考―猪の子はどうしてウリ坊?

これに対して西洋で竜(=ドラゴン)といえば、
むしろ巨大なトカゲのような姿の生物と考えられていた。
あまたのファンタジーに登場してきた竜がそうだし、
ネス湖のネッシーも同類とみなせる。
『ドラクエ』なんかに出てくる竜もこちらのタイプである。

ずい分イメージの異なるふたつの動物が
同じように竜と呼ばれているのはなぜなのだろう?
それを探るには現存するドラゴンが格好の思考材料になる。
ドラゴンは現在もインドネシアのコモド島に生存している。
コモドドラゴンという名の世界最大のトカゲである。
コドモくらい平気で食っちゃうオオトカゲなのだ。
この事実から「ドラゴン=オオトカゲ」と類推できる。
大トカゲといえば誰もが恐竜を思い浮かべるに違いない。
「オオトカゲ=恐竜」は常識と言ってもいいだろう。
すると三段論法により「ドラゴン=恐竜」は自明である。
つまり、西洋のドラゴンは竜は竜でも恐竜だったのだ。
対して東洋のヘビ形の竜は恐竜の親戚筋には見えない。
東洋と西洋では違う生き物を竜と呼んでいたわけだ。
干支に登場する竜はもちろん東洋産のほうである。

十二支考―猪の子はどうしてウリ坊?

さてさて、竜とはたいしたものである。
なんでも空を飛ぶらしいのである。
そんな爬虫類、いるだろうか?
恐竜の仲間だったらプテラノドンなどの翼竜がいるが、
ヘビ形で空を飛ぶとはにわかに信じがたい。
いやはや、竜とはたいしたものである。
なぜだか知らないが火を吹くという。
そんな爬虫類、いるだろうか?
口から火を吹く爬虫類はゴジラくらいのものだろうが、
これはどう見てもトカゲ形の巨大生物である。
空を飛ぶのも火を吹くのも西洋型のドラゴンであり、
東洋型のヘビ形竜の特徴ではないように思える。
トカゲ形竜の特徴が誤って伝わったのではないか?
素朴な疑問が一つ。東洋の竜っていったいナニモノ?

先入観に惑わされず原点に返って竜の正体を考えてみよう。
 特徴1.竜は海中の竜宮に住んでいるという。
 特徴2.竜は体内に玉を隠し持っているという。
 特徴3.竜は幻の生き物だと考えられているという。
海に住んでいる爬虫類というと海亀や海蛇が思いつく。
海亀は竜宮の住民だし、ピンポン玉みたいな卵を産む。
しかし海亀が竜とは考えにくい。
いまだかつて竜に甲羅があると聞いたためしがないからだ。
海蛇はもちろんヘビ形だし、やっぱり卵を産む。
けれども海蛇が竜とも考えにくい。
竜の燻製が漢方薬や強壮剤になるとは知られていないから。
うーん、該当する生物が見つからない……。
これは前提が違っているからではないだろうか?
もしかしたら竜は爬虫類ではないのかもしれない。

ユーレカ!

十二支考―猪の子はどうしてウリ坊?

爬虫類しばりをはずしたとたんに竜の正体がひらめいた。
竜はきっとアコヤ貝なのだ!

 証明1.アコヤ貝は海中に住んでいる。
 証明2.アコヤ貝は体内に真珠を抱えている。

ここまでは簡単に証明できるが、難題は上記の特徴3だ。
養殖までされているアコヤ貝が幻の生き物のはずがない、
そう反論される方が多いのではないだろうか。
ハハハ、たしかにアコヤ貝は幻の生物なんかではない。
だがしかし、アコヤ貝はおそるべき幻術使いなのだよ。
蜃気楼(しんきろう)現象を知らない人はいないだろう。
これはハマグリ(蜃)が吐いた気が原因と考えられてきた。
ハマグリにできてアコヤ貝にできないはずはあるまい。

 証明3.アコヤ貝は蜃気楼で幻の巨大生物を空に飛ばせる。

十二支考―猪の子はどうしてウリ坊?

イラストレーション:石井聖岳
illustration © 2003 -2006 Kiyotaka Ishii

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2006-07-07-FRI


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