おさるアイコン
上大岡トメの、タネがいっぱい。
トメのタネ その5 オリンピック以外のことは、たいてい、できる。

── いろんな意味で、
高め合う相手は必要ですね。
トメ ライバルって、いるといいですよ。
── 人間は、ほんとにすごいですもん。
頭いいし。
トメ そ、すごい人がたくさんいる。
私ね、ギタリストの押尾コータローさん
すごく勝手に支えてもらってるんですよ。
ご本人はぜんぜん知らないんですけども、
一方的に!
彼のCDを聴いて、
あのギターテクニックにびっくりしちゃって
どう考えてもひとりで弾いてるわけないよね?
と思って
DVD観たらひとりで演奏してて
ライブ行ったらやっぱりひとりでやってた。
── どう検証してもひとりで(笑)。
トメ はい。
人間、ここまでできるんだ!って思った。
だったら私も
できるよね?

そういう励ましを、もらってます。
── そこで自分にもってくのが
すごいです!
トメ たとえば、「アレグリア」
人間じゃないでしょ?
ほんとにすごいんだよ。
いろんな分野で
超越したことをやってる人を見ると
刺激になります。
押尾さんがいま
作曲がんばってるんだったら
私もがんばるわい!
── 勝手に「じゃあ私も」と
思えばいいんですね。
トメ 尊敬しながらも、超負けず嫌いなの。
私にだってできるわよ!
ヘビ年だから執念深いよ。
どーだ!
── それはすごい才能だなあ。
トメ そういうふうに生んでもらった親に
すごく感謝してます。

── なんたって、柔道も黒帯ですからね、
トメさんは。
トメ 柔道は、まわりに
「絶対無理」と言われたから、
カチンときたんです。
特に、柔道をやってる人たちは、
大笑いしちゃってね。
「そんな細っこいからだで
 できるわけないやーん」って。
夫にも最初は
ばかやろ?って言われて。
── 耳がつぶれたって聞きましたが。
トメ ほらほら。

── うわー。こんな美しい女性の耳が。
トメ 寝技で内出血して、
寝れないくらい痛かったです。
年末で病院がお休みだったので、
いちど電話を入れてから
病院に行ったんですよ。
そうしたら、お医者さんがびっくりして。
「女子高生の柔道部員が来るかと思った。
 ‥‥いつからやってるの?」
って(笑)。
「たいへんでしょう?」
「たいへんです」
── でもいまや黒帯。
もともと運動神経はいいほうなんですか?
トメ ううん、ぜんぜん。
32歳までろくに運動してなかったし
逆上がりもできなかったからね。

32歳でヒップホップのダンスをはじめてから
「からだってちゃんとトレーニングしたら
 自分の言うことを聞いてくれるんだ」
とわかった。
たとえば漫画で、壁を
ひらりと飛び越えるシーンがあるでしょ。
あれが夢でね。
── あれが夢?
トメ できるようになったからね。
── できるようになった?!
壁越えを??
トメ はい。手をついたら
壁を飛んで越えられるようになって、
逆上がりもできるようになって
すごく楽しいんです。

ヒップホップも、育児と仕事が忙しい時期で
挫折しかけたときがあったんだけど
先生に
「いまから振りを覚えるのは大変じゃない?」
って言われて
カチーン。
── カチンパワー、すごいですね。
トメ そう。人から「無理」と言われると
「なにをォォォォ?
 見とけェェェ〜〜〜!!!」
── でも、先生から言われたら、
説得力十分ですよ。
そういう場合、私などは
「そうか、無理なのか。
 やっぱり無理だったわ、ハハハハ」
となります。
でも、できるんですね。
トメ そうなんです。
ある程度までは
回数で(つまり練習で)できます。
── できるんですね?
トメ できます。
ある程度までね。
そのあと、オリンピックに行けるかどうかは
どんなにがんばっても無理かもしれん。
やっぱり高校生大学生には勝てないかも(笑)。

でも、黒帯までは行けるし、
自分が「やったぞ」と
思えるところまではいける。
人に無理だと言われたところでも
行けちゃうんです。



無理だ、と言われることを
知らないうちに自分が求めているんですよ。
「無理だと言われたから」と
言いやすくなるでしょう。
── 「やりたかったんだけど、
 無理だと言われた」
トメ 「みんな反対するし、
 心配かけちゃ悪いし、
 子どもも泣くし」
── そうやって、
あきらめやすくしているんですね。
無理だと言われても反対されても
子どもが泣いてもそれは
「できないこと」の理由ではない。
トメ できます。
とかいってもみんな、無理しないでねー。
── ハハハハ。
自分がダメだということに
気を取られすぎなんですね。
自分に負けてちゃだめだなあ。
トメ

柔道は、愛好家と競技者の溝が深くて、
大人がテニスをはじめるのとは、
ちょっとちがうんです。
はじめは子ども相手に練習していたんだけど、
紹介してもらって、
地元の実業団の道場に入りました。
34歳の女が、
いきなり実業団の道場
行ったわけですよ。
20代の巨大な男の子ばかりの集団が、
こんなド素人のおばさんを
どう扱っていいかわからないでしょう。
みんな自分の練習もあるし、
私の相手なんかしてくれないわけです。
困って遠巻きになってて、
私は壁の花になってた。
「どうしよう〜〜〜」状態ですよ。

そんなとき、筑波大学女子柔道部監督の
山口香さんと仕事のおつきあいがあって、
ちょっと相談したんです。
そうしたら、
「相手は若い男の子たちなんだから
 こっちが恥ずかしがってたら
 むこうはもっと恥ずかしがっちゃってるよ。
 もっとガンガン『お願いします!』って
 行ったほうがいいよ」
って言われた。
そこからはもう、ガンガン行きました。
── 最初は自分の居場所をつくるところから
だったんですね。
よくもやめずに、黒帯まで。
トメ 先生に指導されたことで、
頭ではわかっていても
からだが動かなくて
悔しくて泣いたときもあります。
34歳にもなって、柔道で泣く(笑)。
あの1年のがんばりは、宝です。

(次回につづく!)

2005-04-28-THU
ホームへ
もどる
©2005 HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN All rights reserved.