アテネオリンピックから
清く正しい、にわかファンとして
オリンピックを記事にしているほぼ日が、
東京2020組織委員会にときどきお邪魔して、
各部門の仕事内容をファン目線でレポートする連載。
第二回は〈エネルギー〉部門です。
どんな準備を進めているのか、
想像が難しいエネルギー部門。
その実態は「ぜったいに消えてはいけない」という
責任と緊張感のあるお仕事でした。
大会を支える基盤となる人々、
エネルギー担当の山口さん、三浦さんに
お話をうかがいました。

4天気予報、
みたいなもの。

乗組員A
いろんな事態を予測して
準備をしなければならないと思うのですが、
東日本大震災から
学んでいることもありますか?
山口
電力会社をはじめ電気関係で仕事してきた者は
震災の経験を経て、
トラブル対応力は上がっていると思います。
なにかあったときに、
どこになにを伝えるのか
震災での学びは多かったですね。

私が学んだのは、
1人の人に仕事が集中してしまうと、
なにもできなくなってしまうということでした。
現場を直すなら直すだけの仕事、
やり取りをして指示を出すならそれだけの仕事、
それぞれ役割を明確にして専念してもらわないと、
あっちこっちで物事が起こったときに、
人間は対応できないんだと。
乗組員A
はい。
山口
あとは、指揮命令系統の整理も大切ですね。
指示を出すところは一箇所にすることが鉄則です。
いろんな人が指示出しをしますと
判断も遅れますし、様々な指示が飛び交います。
人対人ですから、伝言ゲームになってしまうと
間違いが起きてしまう可能性もありますよね。
それは絶対によくありません。
基本的なことなのですが、
そういった教訓を十分に活かして
東京2020大会の体制をこれから考えたいと思います。
なるべく表に出ないように。
乗組員B
表に出ないことが、いちばんの願いですね。
乗組員A
みなさんが「終わった!」と思えるのは
いつごろなんでしょうか?
山口
IOCの方々には「最初の3日間がすぎると、
だいぶ楽になるよ」と言われましたが
そんなふうには決して思えないです(笑)。
おそらくパラリンピックが終われば、
だいぶ肩の荷はおりると思います。

あと、大会期間中ですこし気が緩むとすれば、
オリンピックとパラリンピックの間ですかね。
電気の入れ替え工事がありますが、
そこだけですので。
乗組員A
なかなか落ち着けないですね。
男子100メートル走の決勝が
10秒止まってしまうだけで、
準備が水の泡になってしまう怖さがありますし。
見当がつかないので
「大変ですね」としか言えませんが‥‥。
山口
私たちも正直「大変だな」と日々思っています。
なにが大変かというと、
オリンピックやパラリンピックで電気を使用する、
という経験が誰にもないんです。
乗組員A
たしかにそうですね。
山口
オフィスビルでしたら
過去のデータがたくさんあるので、
いつ、どのくらい使用されるか、
どのような危険が考えられるか、
だいたいのことが予測できます。
具体的に言いますと、フロア面積×電気量を計算して
そのうち同時に使用されるのは、
どのくらいか想定ができます。

ですが、今回は0からつくります。
たくさん用意しておけば安心、というものではなくて
コストとのいい塩梅を算出しなければいけません。
もう、それは、なんというのか
天気予報に近いんです。
一生懸命がんばったとしても「絶対」はありませんし、
どうしても、運のようなものもあるのかな、と。
乗組員A
当然いろんな状況を予測するけれど、
すごく原始的なトラブルだってあり得ますよね。
「引っかかっちゃった!」みたいな。
山口
ありえるんですよね。
ときどき考えすぎて、
ループにハマってしまうことがあります。
過去大会を参考にはしますが、
なによりエネルギー関連のことは4年経つと、
技術がどんどん進歩しているんです。
極端な話、リオの状況はもう参考にならないです。
乗組員B
はー、そうですか。
山口
テレビだけでも4Kから8K、
2020には16K対応のデバイスが
開発されるとも言われています。
空調の性能だって上がっていますし、
電気もすべてLEDになるでしょうし、
一概に過去のデータは使用できないので
ひとつひとつ想定しながらやっていかなければ
いけないのが現状です。
乗組員B
ドローンだって、
ここまで活用されていなかったですよね。
乗組員A
広報の方などはリオデジャネイロ大会に行かれて、
シャドーイングというかたちで
同じ担当の方について勉強をしたと伺いましたが、
みなさんもそういったことはされたんですか?
山口
シャドーイングではありませんが、
オリンピックの会場に必ずある
IBCという国際放送センターで約一ヶ月ほど
実務研修をさせてもらいました。
山口
IBCはすべての会場の映像を撮って、
世界各国に配信をする
24時間稼働している場所でして、
日本だと会場がビッグサイトになります。
IBCというのは、
なにかしら毎日電気のトラブルが起こるそうで、
「ここに電気がほしい」ですとか、
急に言われた要望にも答えなければいけないので
見当がつかないそうです。
そこでの勉強は活かせると思いますね。
乗組員B
一参加者として、大会期間中に
「あ、エネルギー部門の人がんばってる」と
気がつけるところはありますか?
山口
えーっと、難しいですね。
気がついてほしくない気持ちがいちばんですので(笑)
「そういえばこんな取材あったな」と、
終わってから私たちのことを
思い出してもらえるのがいちばんですね。
大会中に「電気の人だ」と思われるよりは、
そういえばと、思い出してもらえたらありがたいです。
乗組員A
最後にオリンピックに向けて、
読者のみなさんにメッセージをいただけますか?
三浦
私たちのような裏方の人がいる、
という視点があるだけで
オリンピックのたのしみ方がひとつ
増えるのではないかと思います。
私たちの仕事としては、
日本のインフラ力を伝えられたらいいですね。
山口
しっかり準備は進めていますので
たのしみに大会を待っていただきたいです。
乗組員B
オリンピックのたのしみ方が変わると思います。
開会式をみながら「おお、電気が消えない!」と
驚いたりしそうです。
山口
ぜひ消えないように、
みなさん祈っていてください。
乗組員A
「消えないように」と祈ります。
本日はありがとうございました。
山口・三浦
ありがとうございました。

(おわります。)
2018-11-15-THU