東京オリンピック・パラリンピックに
出場する選手が受ける、ドーピング検査。
クリーンな大会を支えるための準備について、
東京2020組織委員会「アンチ・ドーピング」部門の
平井さんと原さんにお話をうかがいました。
数々の国際大会で得た学びをもとに
技術の向上や、法律の整備をして
効率よくストレスのない検査を
実現しようとしている人たちがいます。
東京大会を成功させるために、
あらたな試みも計画されているそうですよ。

4クリーンな選手を
守る検査。

乗組員A
日本の選手はドーピング違反が
少ないイメージを持っているのですが、
実際のところはどうなのでしょうか。
平井
少ないほうではありますね。
確率でいうと0.01%ぐらいでしょうか。
0.01%の国というのは他にもあるので、
日本がずば抜けて少ないわけではありません。
乗組員B
本当はゼロであってほしいですよね。
平井
本来はゼロであるべきなんですけど、
ゼロという数字が出ると、
「JADA(日本アンチ・ドーピング機構)は
ちゃんと仕事をしているのか」
と問われることも考えられます。
「陽性率ゼロです」と言う場合、
捕まえていないからゼロなのか、
本当に違反者がいないのかがわからない。
「日本はクリーンで、違反ゼロです」
と言い切りたいところですが、
なかなか悩ましいところでもあります。
乗組員A
オリンピック・パラリンピックの競技が
ドーピング検査の対象になるのはわかりますが、
オリンピックには採用されていない競技も、
日本アンチ・ドーピング機構では
チェックをされているのでしょうか。
平井
そうですね、オリンピック競技でなくても、
ドーピング検査は実施しています。
現在、日本アンチ・ドーピング機構には
80強ぐらいの競技団体が加盟しています。
オリンピック種目に採用されるかどうかの
判断基準のひとつに、
アンチ・ドーピングの活動も絡んでいるんです。
ウエイトリフティングがいい例で、
あまりにもドーピングの陽性が多いので、
東京大会では出場できる選手の枠を減らされて、
パリ大会で採用するかは検討中です。
そのため、現在では
ウエイトリフティングの国際競技連盟は、
アンチ・ドーピング活動をより一層強化しています。
オリンピック種目に採用されるためにも、
アンチ・ドーピング活動への取り組みが
ちゃんとしていないとたどり着けません。
乗組員A
アンチ・ドーピングの活動が
オリンピック競技の採用にも
つながっているんですね。
乗組員B
先日まで募集をしていた
大会ボランティアの中にも、
ドーピング検査を手伝う人の
募集がありましたよね。
大会ボランティアでアンチ・ドーピングに
携わっていただく方には、
ヘルスケアという活動分野のうち
「シャペロン」という役割をお願いする予定です。
何をするかというと、
検査対象になった選手のところへ行って、
「あなたが検査の対象になったので、
検査室まで来てください」
と検査室に連れていく役割です。
乗組員B
重要な役割ですね。
ほとんどの選手は協力的ですが、
選手を検査室に連れて行く間に
不審な行動をされたら困るので、
1秒たりとも目を離してはいけません。
たとえば、選手が着替えると言ったら、
更衣室の外で待っているのではなくて、
着替えるところもずっと監視します。
乗組員A
ボランティアに参加される方も
2020年の大会までに、
研修を積むんですよね。
予定としては、座学でアンチ・ドーピングや
シャペロンの役割について学んでいただいて、
最低一回は大会の現場でシャペロンを
経験してもらいたいなと計画しています。
乗組員B
アンチ・ドーピング部門のみなさんは、
東京大会がはじまる前に、
シャドーイングというかたちで
研修に行くようなことはあるのでしょうか。
平井
私たち組織委員会の人間は
ちらっと見るだけでは意味がなくて、
セコンドメントのスタッフとして
実際にオリンピック・パラリンピックで働いています。
リオデジャネイロ大会には二人が行き、
原さんも平昌大会で働いてきましたよ。
乗組員B
TOTO出身の原さんにとっては、
初めて見る世界ですよね。
オリンピックの舞台裏に入ることも
初めての経験だったので、
大会の雰囲気に驚いたのがまずひとつ。
平井さんから教わっていたことも、
実際に入ってみたら、どんな人がいて、
どう動いているか明確になったので、
2020年に生かせるなと思っています。
乗組員B
こうして前の大会から
ノウハウが受け継がれているんですね。
東京大会で意識していることは
どんなことがあるのでしょうか。
平井
やらなきゃいけないことを、
ちゃんとやるという感じですかね。
オリンピック・パラリンピックの中で、
アンチ・ドーピングの部門が唯一、
監査レポートが世界中に出回るんです。
WADA(世界アンチドーピング機構)が
監査に来て、大会ごとのレポートを出します。
過去大会での指摘を元に対策を練って
大会に臨めればと思いますが、
記録に残るとなると緊張感が高まりますね。
私たちの仕事は、大会が終わった後にも、
残り続ける仕事なんです。
乗組員B
「よし終わった、忘れよう」
とはならないわけですね。
平井
何かが起きたときに
誰が責任を取るんだといえば、
やはりそれは、私たちなんです。
乗組員A
最後に、オリンピック・パラリンピックに
興味のあるみなさんに、
現場で働く平井さん、原さんから
メッセージをよろしいでしょうか。
私は2年ほど携わらせていただいて、
ドーピング検査の印象が変わりました。
もともとは「悪いヤツを見つける」という
イメージを持っていたのですが、
クリーンな選手のための検査だとわかって、
ポジティブなものなんだなと思えました。
これが一番、私の中での目から鱗でした。
なので私も、クリーンな選手を
守れるようにがんばります。
平井
そこですね。
選手がクリーンであることを証明するのも、
ドーピング検査が唯一の方法です。
クリーンなアスリートを守るという意味で
不可欠な仕事なんです。
99.9%の選手は、
クリーンなんですから。
平井
やるべきことをちゃんと
確実にできるようにしたいですね。
乗組員A
クリーンな大会を支える根幹のおふたり、
どうもありがとうございました。
乗組員B
ありがとうございます!

(おわります)
2019-05-25-SAT