4クリーンな選手を
守る検査。
- 乗組員A
- 日本の選手はドーピング違反が
少ないイメージを持っているのですが、
実際のところはどうなのでしょうか。
- 平井
- 少ないほうではありますね。
確率でいうと0.01%ぐらいでしょうか。
0.01%の国というのは他にもあるので、
日本がずば抜けて少ないわけではありません。
- 乗組員B
- 本当はゼロであってほしいですよね。
- 平井
- 本来はゼロであるべきなんですけど、
ゼロという数字が出ると、
「JADA(日本アンチ・ドーピング機構)は
ちゃんと仕事をしているのか」
と問われることも考えられます。
「陽性率ゼロです」と言う場合、
捕まえていないからゼロなのか、
本当に違反者がいないのかがわからない。
「日本はクリーンで、違反ゼロです」
と言い切りたいところですが、
なかなか悩ましいところでもあります。
- 乗組員A
- オリンピック・パラリンピックの競技が
ドーピング検査の対象になるのはわかりますが、
オリンピックには採用されていない競技も、
日本アンチ・ドーピング機構では
チェックをされているのでしょうか。
- 平井
- そうですね、オリンピック競技でなくても、
ドーピング検査は実施しています。
現在、日本アンチ・ドーピング機構には
80強ぐらいの競技団体が加盟しています。
オリンピック種目に採用されるかどうかの
判断基準のひとつに、
アンチ・ドーピングの活動も絡んでいるんです。
ウエイトリフティングがいい例で、
あまりにもドーピングの陽性が多いので、
東京大会では出場できる選手の枠を減らされて、
パリ大会で採用するかは検討中です。
そのため、現在では
ウエイトリフティングの国際競技連盟は、
アンチ・ドーピング活動をより一層強化しています。
オリンピック種目に採用されるためにも、
アンチ・ドーピング活動への取り組みが
ちゃんとしていないとたどり着けません。
- 乗組員A
- アンチ・ドーピングの活動が
オリンピック競技の採用にも
つながっているんですね。
- 乗組員B
- 先日まで募集をしていた
大会ボランティアの中にも、
ドーピング検査を手伝う人の
募集がありましたよね。
- 原
- 大会ボランティアでアンチ・ドーピングに
携わっていただく方には、
ヘルスケアという活動分野のうち
「シャペロン」という役割をお願いする予定です。
何をするかというと、
検査対象になった選手のところへ行って、
「あなたが検査の対象になったので、
検査室まで来てください」
と検査室に連れていく役割です。
- 乗組員B
- 重要な役割ですね。
- 原
- ほとんどの選手は協力的ですが、
選手を検査室に連れて行く間に
不審な行動をされたら困るので、
1秒たりとも目を離してはいけません。
たとえば、選手が着替えると言ったら、
更衣室の外で待っているのではなくて、
着替えるところもずっと監視します。
- 乗組員A
- ボランティアに参加される方も
2020年の大会までに、
研修を積むんですよね。
- 原
- 予定としては、座学でアンチ・ドーピングや
シャペロンの役割について学んでいただいて、
最低一回は大会の現場でシャペロンを
経験してもらいたいなと計画しています。
- 乗組員B
- アンチ・ドーピング部門のみなさんは、
東京大会がはじまる前に、
シャドーイングというかたちで
研修に行くようなことはあるのでしょうか。
- 平井
- 私たち組織委員会の人間は
ちらっと見るだけでは意味がなくて、
セコンドメントのスタッフとして
実際にオリンピック・パラリンピックで働いています。
リオデジャネイロ大会には二人が行き、
原さんも平昌大会で働いてきましたよ。
- 乗組員B
- TOTO出身の原さんにとっては、
初めて見る世界ですよね。
- 原
- オリンピックの舞台裏に入ることも
初めての経験だったので、
大会の雰囲気に驚いたのがまずひとつ。
平井さんから教わっていたことも、
実際に入ってみたら、どんな人がいて、
どう動いているか明確になったので、
2020年に生かせるなと思っています。
- 乗組員B
- こうして前の大会から
ノウハウが受け継がれているんですね。
東京大会で意識していることは
どんなことがあるのでしょうか。
- 平井
- やらなきゃいけないことを、
ちゃんとやるという感じですかね。
オリンピック・パラリンピックの中で、
アンチ・ドーピングの部門が唯一、
監査レポートが世界中に出回るんです。
WADA(世界アンチドーピング機構)が
監査に来て、大会ごとのレポートを出します。
過去大会での指摘を元に対策を練って
大会に臨めればと思いますが、
記録に残るとなると緊張感が高まりますね。
私たちの仕事は、大会が終わった後にも、
残り続ける仕事なんです。
- 乗組員B
- 「よし終わった、忘れよう」
とはならないわけですね。
- 平井
- 何かが起きたときに
誰が責任を取るんだといえば、
やはりそれは、私たちなんです。
- 乗組員A
- 最後に、オリンピック・パラリンピックに
興味のあるみなさんに、
現場で働く平井さん、原さんから
メッセージをよろしいでしょうか。
- 原
- 私は2年ほど携わらせていただいて、
ドーピング検査の印象が変わりました。
もともとは「悪いヤツを見つける」という
イメージを持っていたのですが、
クリーンな選手のための検査だとわかって、
ポジティブなものなんだなと思えました。
これが一番、私の中での目から鱗でした。
なので私も、クリーンな選手を
守れるようにがんばります。
- 平井
- そこですね。
選手がクリーンであることを証明するのも、
ドーピング検査が唯一の方法です。
クリーンなアスリートを守るという意味で
不可欠な仕事なんです。
- 原
- 99.9%の選手は、
クリーンなんですから。
- 平井
- やるべきことをちゃんと
確実にできるようにしたいですね。
- 乗組員A
- クリーンな大会を支える根幹のおふたり、
どうもありがとうございました。
- 乗組員B
- ありがとうございます!
(おわります)
2019-05-25-SAT