ゼロから立ち上がる会社に学ぶ 東北の仕事論。 朝日新聞気仙沼支局 篇
第5回  最高の相棒。
糸井 震災当時は、千田さんたちも
「やはりおにぎり1個を何人かで分けた」とか、
そういう感じだったんですか?
千田 はい、そうですね。

地震から1週間くらいは
どこへ行っても
みんな抱き合って無事をよろこんで‥‥肩を叩いてね。
糸井 ああ‥‥。
千田 もう、忘れられません。
糸井 いちばん深刻なときの状態については、
ぼくたちが
いくら想像しても、追いつかないです。
千田 でも、いまはこの町を復興させなくちゃいけない、
という思いで気が紛れてますけど、
2年や3年経って
仮に、わたしらの力の及ばぬことが出てきたとき、
みんながどうなるか、心配です。
糸井 そうですか。
千田 みんなで役割分担して、
やれることを、やっていくしかないでしょうけど。
糸井 あるていど目鼻がついたら
よその町が「気仙沼の真似をしようぜ」って
言ってくれるようになるといいですよね。
千田 それには、みんなで知恵やアイディアを出し合って
ひとつひとつ実現していかないと。
糸井 たくさんの会社を「経営」なさってきた
千田さんが言うんだから、
本当に、それがすべてなんでしょうね。
千田 これまで、いろんな会社を譲り受けてきました。
ダメなところを譲り受けたことも、あります。

そのときは、ていねいに原因を調べて、
その原因に人をはりつけて、
ひとつひとつ、解決していきました。
糸井 ええ、ええ。
千田 だからやはり、今回の復興に必要なのも
しつこさ、粘り強さじゃないでしょうか。
糸井 その経験を応用するのが今、ですね。
千田 はい、そう思ってます。

でも、今度はどうしてやろうかというね、
ここが俺の「病気」なんですけど、
ふつふつと‥‥
たのしくなってきてるんですよ(笑)。
糸井 おもしろい病気ですねぇ(笑)。
千田 うん、楽しいですよね。
「こうしてやれ」って考えるのは。
糸井 あの、失礼ですけど
千田さんって‥‥何年生まれですか。
千田 昭和13年。73歳。
糸井 お若いですね。
千田 若くないですよ、もう(笑)。
糸井 いや、千田さんとは、丸10歳ちがうんです。
ぼく、23年生まれなんで。

だから、こんなに元気でやってる先輩を見ると
励みになるんです、本当に。
千田 それは、うれしいです。
糸井 千田さんのお話で、とてもいいなと思ったのは
一見、複雑に見えることを
簡単なことばで、表現されているところ。

問題が「どのくらい複雑か」を語る人は
山ほどいるんですけど、
千田さんは、
「何をされてうれしかったか、
 何をされて嫌だったか」
が、73年の人生でいちばんの財産だって。
千田 なんぼ飾っても、
長くやってくうちには、本質が出ますから。
糸井 その間には、
行き詰まったことも、あったんですか?
千田 その場合は
どうやって打ち破るかを、考えてきました。
糸井 そうですか。
千田 打ち破ることができなければ「倒産」だから。

何日もかけて、じーっと考える。
ごはんを食べてても、とにかく考える。

でも、しばらく出てこないんです。
糸井 突破の方法が。
千田 ところが、不思議なことに、
集中して考えていると
いつしか、壁のどこかに「穴」が見えてくるんです。

で、その穴を見つけたら、全力投球。
なんとかこじ開けるわけです。
糸井 そのときの集中力、すごそうですね。
千田 商売を生業にする者独特のものでしょうね。
糸井 失礼な言い方かもしれませんけど、
けっこう「愉快」だったりも、しませんか?

「壁の穴、見つけたー!」みたいな。
千田 ええ、ええ、そりゃ愉快です(笑)。

赤字の会社を引き受けて、
苦労して‥‥黒字にしたときなんか、もう。

誰に褒められるわけじゃないけど、
自分で「どうだ」っていう、うれしさがね。
糸井 「穴」は、必ず見つかるものですか?
千田 いままでの経験で
商売を中途半端でやめたことはないです。

つまり「穴」は、必ず見つかるもんです。
糸井 ‥‥いいこと聞きました(笑)。
千田 そして、行き詰まりを打ち破って、
すべてうまくいったときには
助かってよかったなと、自分を褒めます。
糸井 ‥‥今回の復興についても。
千田 逆に言えば、絶好のチャンスです。

いま、こうして、たくさんのかたが
気仙沼へ来てくださっています。

「ああ、また来たいな」と
思われるような町に、再建していかないと。
糸井 ‥‥千田さんが「仕事を忘れる時間」って、
あるんですか。
千田 震災の前までは、お酒を飲む時間ですね。
じまん話をしたり、じまん話を聞いたり。
糸井 震災のあとは‥‥。
千田 先ほども言ったかも知れませんが、
修理工場も、本屋も、みんな流されてしまって
すぐそろばん弾いたら
「5億2000万」くらいの被害がありました。
糸井 はー‥‥。
千田 甚大な被害です。

でも‥‥この歳になると
あんまり慌てることもないな、と思いました。
糸井 おお。
千田 ただ、自分のこころに「タガをはめよう」とは
最初から決めてましたね。
糸井 タガ?
千田 つまり「がむしゃらに、はたらこう」と。

これから1年間、
朝の8時から夜の8時まで、
365日、一日も休まずに仕事に専念しようと、
決めました。
糸井 じゃあ、震災後はまだ休みなし?
千田 今日まで、1日も休んでいません。
糸井 はー‥‥。
千田 ただ、自分で決めてきたと言っても
まわりが何にも見えなくなってしまっている、
つまり
自分の考えがグルグルめぐってしまうことも
やっぱり、あるんです。

そういうとき、ほんとの友だちがありがたい。
糸井 なるほど。
千田 おまえ、ちがうんじゃないかと
言ってくれたり、
相談に乗ってくれる友だちがいるってことは
たいへんな財産。

年齢なんかは、関係ないですね。
糸井 ちなみに、奥さまは
どう思ってらっしゃるんでしょう?
千田 女房?
糸井 ずっと、おふたりで会社をやられてきて、
震災後、
そんなにはたらいている千田さんを見て‥‥。
千田 やっぱり女房も、わたしのような目線でしか
ものを見れなくなってますよね。
糸井 じゃ‥‥。
千田 つまり、おんなじ。
糸井 相棒としては最高ですね。
千田 ええ‥‥そうですね。

<おわります>
2012-03-13-TUE
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