| 小田 |
聞いていいかどうか、迷うんですが‥‥。
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| 和枝 |
どうぞ、どうぞ。
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| 小田 |
斉吉さんのところは
身近な人たちは、無事だったんですか。
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| 純夫 |
家族や社員の範囲に限っていえば
犠牲者は、ひとりも出ませんでした。
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| 小田 |
それは、よかった。
別に被害のあまりないエリアにいた‥‥
というわけじゃないですよね。
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| 和枝 |
とても被害をこうむったエリアですけど、
逃げ足が速かったんです。
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| 純夫 |
やはり、いちばん海に近いところに
工場が建っていたので、
「津波だ！ 逃げろ！」しかなかったです。
逆に、海からちょっと離れた場所の人が
家族を迎えに行くとかで
逃げ遅れたり、ということはありましたが
うちは、とにかく海に近いから。
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| 小田 |
津波のことが、怖かったんですね。
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| 和枝 |
必ず逃げることになっていました。
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| 糸井 |
でも、やっぱり「紙一重」なんですよね。
みなさんの話聞いてると。
斉吉の社長は、
和枝さんから「亡くなった」と思われてたし。
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| 小田 |
そうなの。
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| 和枝 |
今、思い返しても、肌が泡立つんですが‥‥
地震が起きたとき、
社長と一緒に、海辺の工場にいたんです。
でも、一緒に逃げずに
社長はいちど、父と母を見に行こうと、
自宅に戻ったんです。
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| 小田 |
‥‥ええ。
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| 和枝 |
私は、工場の人たちと逃げたんですね。
でも、何となく気になってしまって、
私も自宅に戻ったんです。
流れとは逆の方向に、海の方へ向かって。
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| 小田 |
はい。
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| 和枝 |
で、自宅で社長と合流して、安心したんです。
私たち、親から
昭和30年代の「三陸チリ津波」のときの
話を聞かせられていて、
怖い津波になると、一階の畳が浸かるんだと‥‥。
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| 小田 |
つまり、その程度だと？
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| 和枝 |
はい。
恐ろしかったことは聞きつつも、そのくらいで
自宅で社長に会って安心したんですね。
逃げる途中で渋滞につかまっていたとき、
うちの商品で
「炭火焼きの牡蠣のオリーブオイル漬け」
というのがあるんですけど
炭の火が消えたかどうかが気になって‥‥。
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| 小田 |
‥‥ええ。
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| 和枝 |
私、社長に「あの火‥‥消えたよね」って
聞いてしまったんです。
そしたら社長は、
「あ、ほんだな。俺もう一回見でくっから」と
海のほうへ引き返して行ったんです。
私は、もうすぐ山だったんで高台へ歩きました。
そしたら、大きな波が「バーン！」って
車を巻き込みながら迫ってくるのが見えて‥‥。
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| 小田 |
‥‥社長は？
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| 純夫 |
前から波が来てるのがわかったんですが
幸い、海のほうへ向かう人は
いなかったんですね、前にも、後ろにも。
だから、反対車線をバックで走りました。
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| 小田 |
波と競争しながら逃げた、バックで。
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| 和枝 |
私は、高台に上がって間もなく波が‥‥
波というより、
家が塊になって流されてくるのが見えたんで、
私は社長に
なんてことを言ってしまったのかと‥‥。
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| 小田 |
言葉にならないでしょうね。
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| 和枝 |
本当に、本当に、凍りつきました。
家の人たちと
何げなく別れてしまってそのまま‥‥
という人が、
気仙沼にも、三陸沿岸にも、
たくさんいらっしゃることを思うと、
私たちは
本当に幸いにして、助かったんです。
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| 小田 |
でも、よく逃げ切れましたね。
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| 純夫 |
たぶん、平野の波だと速いと思うんですが、
建物を壊しながら来たんで‥‥
ある程度
スピードは遅かったのかも知れないですね。
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| 糸井 |
どこまで、バックで？
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| 純夫 |
そのうち、車がいっぱいになったので
途中から車を捨てて走って逃げました。
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| 小田 |
車を捨てた人と
捨てなかった人の差って、ありますか。
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| 純夫 |
あると‥‥思います。
でも、どっちが良かったかというのも
状況によってちがうと思います。
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| 糸井 |
車で逃げたから助かった人もいるし、
車で逃げて、ダメだったっていう人もいる。
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| 和枝 |
何が正解かは‥‥なかったです。
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| 純夫 |
僕の前を
和服のお婆ちゃんが歩いて逃げていたので
このままだと
この人、
ぜったいに波に追いつかれると思ったんで、
脇に抱きかかえて‥‥。
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| 小田 |
赤ん坊みたいに？
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| 純夫 |
そう、高台のふもとまで走りました。
そのお婆ちゃんは
「いだい、離せ！」つってましたけど。
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| 小田 |
そのとき、和枝さんは？
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| 和枝 |
もう、炭の火だなんて
私は、何てこと言ってしまったんだろう、
どうしようと
生きた心地がしていませんでした。
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| 小田 |
そうでしょう。
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| 和枝 |
でも、ある人が教えてくれたんです。
「おたくの旦那、
下で交通整理してたよ」って。 |
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| ＜つづきます＞ |
