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ほぼ日事件簿・こんなことでした

トータル・ワークアウトの
 トレーナーという仕事」を
取材してみました。


ほぼにちは、ジムに真面目に通うシェフです。うっす。
今日も100キロ担いでスクワットしてきました。
また太った、と言われますが、
これは脂肪じゃなくて、筋肉がついたんですからね、
静岡で僕の体重増加に怒っている母さん。

そう、ほぼ日の編集部がある「明るいビル」の1〜2Fは
ケビン山崎さんの運営する
「トータル・ワークアウト」というジムが入っていて
お調子者のほぼ日乗組員(わしらね)は
地の利を生かし、けっこう頻繁に通っています。
いちばん張りきってるのはdarlingだけど、
(清水ミチコさんに、その筋肉っぷりを
 「誰もアンタにそんなこと望んでないっ!」と
 言われたくらい!)
運動嫌いのぼくにしても、いままでこんなに真面目に
カラダづくりに取り組んだこと、ないくらいです。



さていままでに、このジムに関して
けっこう多くの方から、ほぼ日ポストマン宛に
メールをいただきました。

「トータル・ワークアウトって、
 運動選手だけのもの?  一般の人も通えるの?」
「ちょっと、やってみたいんですけど、
 どうすればいいでしょう?」
「ケビン山崎さんってどんな人ですか?」
「有名な運動選手が通っている理由はなんですか?」

などなど。トータル・ワークアウトの詳細については
この事件簿のバックナンバーや
トータル・ワークアウトのホームページを、
ケビン山崎さんについては、まだこのジムができる前、
ケビンさんが米国在住だったころに
ほぼ日に登場してくださっていますので
そこをお読みいただければおわかりになると思います。
しかし。
有名な運動選手が通っている理由、は
ぼくらも、正直なところ、
ちゃんと理解していませんでした。

ぼくらにとって、このジムに感じている
大きな魅力のひとつに、
トレーナーの魅力があります。
そう、トータル・ワークアウトには
ケビン山崎さんの育てた
パーソナル・トレーナーという職業の
お兄さんやお姉さんがいて
(といっても僕よりずいぶん年下だけど)
お願いすると、1回1時間、みっちり、付き添って、
フィットネスの指導をしてくれるのです。

パーソナル・トレーナーなんていうと
プロのスポーツ選手用のためのもの、
という印象があったのだけれど、
(そして実際、プロの人たちも大勢通っているけれど)
ぼくら一般の人間に向けても、
きっちりと教えてくれて、それがまた、頼もしい!
彼らがいなかったら、絶対にここまで続いてません。

でも、根性のない僕らはそうだけど、
プロのスポーツ選手にとってもそれは同じなのかなあ?
ってことに、すごーく興味が出てきてしまったので
トータル・ワークアウトでしょっちゅう会う
格闘家のTKこと高阪剛選手に、訊きに行ってみましたよー。

高阪“TK”剛に聞きました。
ケビンさんというトレーナーについて。


──TKが最初にケビンさんに会ったときのこと、
  教えてもらえますか?
 
僕がケビンさんと出会ったのは
98年の8月、渡米したときです。
それまでのトレーニングは自分で考えてやってんですよ。
でも、アメリカに行かなきゃいけないと
おもったキッカケのひとつが
ヘビー級で外国人選手と闘いながら感じていたこと、
「試合に勝っていくためには
 力も大切だし技も大切だろうけど
 それプラスなにかがなければこれ以上には上がれない
っていう思いだったんです。
自分には近くそういう時代が来るなと思ってて
それがナニカって言うのもわかっていたのだけれど
どうやって手に入れたらいいかがわからなかった。
漠然と、アメリカのNFL……プロバスケットボールとか
見ていると、あんなでっかい、100キロ以上ある連中が
あれだけのスピードで動いて、相手の動きに反応して
自分の力を生かしたプレイができるってのは
ちょっと驚異だなと思っていたんです。
そういうスポーツがアメリカにある。だったら、
自分が手に入れたい「何か」も
アメリカにあるんじゃないかと思って、渡米したんですね。
とりあえず行ってみて
NFLの練習なんかを、飛び込みで、
見に行かせてもらおうと思っていたんです。NBAとか。
それで何かが得られればいいなあと思っていた。
 
そういうことを考えながら、友人のモーリス・スミスの
ジムに行って、彼と話をしていたんです。
「考えられるか? あんなにでかいやつらが、
 あんだけ動けるんだぜ」って。
「おれらもヘビー級だから、これからはそういうことを
 ちゃんと考えていかなくちゃ
 いけないんじゃないかな?」って。
そしたらモーリスは
「おれはもうやってるよ?」って言うんですよ。
「何をやってんだよ!!」
「要は、スピードがほしいんだろ?」
って、これを見ろよと、ビデオを見せてくれた。
それがスーパートレッド(ランニングマシン)で
走っているモーリスだったんです。
「これは何だよ!?」
「その説明はこの人から訊けよ」
って、そこにいた人をさした。
「俺のパーソナル・トレーナーだ」
それがケビン山崎さんだったんです。
 
──どんなビデオだったんですか?
  そんなに画期的に違うことをしていた?
  
いや、それが、モーリスがやっているのを見ると
どう見ても、ただダッシュをやっているだけだったんです。
「心肺機能を高める運動なんですか?」
と訊いたら、そこがまちがっているんだと。
ケビンさんによると、
「いままで使っていない部分を刺激するために
 いままでやったことのない負荷をかける必要がある。
 そしてそれは、
 いままでやったことのある動作で行わなければならない」

ってことなんです。
「だから走っているだけなんだけれど
 ぜんぜん違うことをやっているんだよ、
 あれは、ウエイトトレーニングなんだ」
って言われて。
そのとき、自分の中でパズルが埋まったような気がした。
それで、シアトルに着いた次の日から通うことになりました。
 
──実際にトレーニングを受けてみて、
  どうでしたか。
 
最初、やっていることは
「前にやったことあるな」ということだと思ったんです。
トレッドミルで角度をつけてダッシュするのは
いわば坂道ダッシュ。大学でもやってきたことですが、
でも、明らかに違うんです。
 
──何が、違うんでしょう?
 
それはね、「意識するかしないか」なんですよ。
自分ひとりでは絶対にムリなんですよ。
ラクなほう、ラクなほうへと
どんどん流されちゃうんです。
「ラクなほうに行かないと、おまえはツライ思いをする」
って脳は命令するわけだから。
でもケビンさんは、単純に走るときでも
しっかりしたフォームで、
フレクサー(腿の付け根)を意識して
足をあげなくちゃいけないと言う。
意識していなかったら
ただ足を回しているだけ、走っているだけになる。
そこにものすごい違いがあるんです。
そこの意識の違いで、
やろうとしていることができる・できないが
左右されちゃうんです。
そして、ケビンさんの仕事は
僕にそれを意識させること、なんですね。
それを何パーセント意識させるかが
トレーナーの力量だと思うんですが
その能力が、ケビンさんは、ずば抜けて高い人だと思った。

ケビンさん、最初は難しい言葉では決して言わなかったです。
できるようになってきてはじめて
「あれは実はこういうことをやりたかったんだよ」
って、後付けで説明をくれるんですね。
カラダがもうわかっているから、すんなり理解できて、
それがフィードバックされて、もういちど理解できる。
すばらしく、効果が、ありましたね。
たぶん、ほんとうに難しく考えてやっていたら
一週間かかるようなことを、
ケビンさんは、一日でやってしまった。
 
そうやって「わかってないところ」を
「わかる」ようにして
カラダの隅々まで血を運んでやったというような
感じでしたね。
 
──試合に向けてのトレーニングは
  ほかと違うんですか?
 
9月の終わりに日本で試合をすることになったんですよ。
その試合で、練習の成果を見てみたい、
自分の反応とか結果を見てみたいと
ケビンさんに相談したんです。
そうしたら試合がこの日だったら
このくらいからこういうことをやるべきだ、
と提案してくれた。でもそれを押し付けるわけじゃなくて
「TKはどう思う?」という感じで。
「とりあえずやってみて、ノッてきたら
 本格的にやりたいです」
というような話し合いをして、始めました。
話しあいながら自分のプログラムを
ケビンさんと二人でつくっていきました。
 
「足をあげる、意識する」
とか、命令を受けたことを、いち早くカラダに伝える、
とか、プライオメトリクスっていうんですけれど、
そういうことを意識しながらも、
「試合の、こういうときに使えるはずだよな」
ってことを想定しながらトレーニングを続けました。
それでね、実際にスパーリングをやってみると
……やってるときは気づかないんですが
終わってみてから考えると、
「あのときに相手の動きに反応して
 タックルに入れたのは
 あのプライオをやってたからなのかな?」
って、わかるんです。
ラウンド間の休憩の間に、
戻るんですね、心拍数が。
いちばんいい状態で、スパーリングを組める。
というのは、スピードトレーニングのほかに
「VO(ブイ・オー)」というのをやるんですが
最大酸素摂取量を高めるために
30分くらいトレッドミルで走るんですよ。
スピードを上げたり下げたりして。
心拍をぎりぎりまで上げて、下げて、
どれだけはやく元に戻るか、というトレーニングなんですが。
 
試合中は試合に集中するから
自分の体のことは意識しないんですね。ところが、
やってみると、一歩先、その先に行けるんですよ。
それにまずビックリして。
ふつうはカラダが動いてから
「あ、こうだったんだ」って納得するんですが、
動いて納得する前に、次の動きに行っている。
一歩、二歩くらい、自分が先に行っちゃうんです。
それがすごく面白くて。
あと、相手の動きがすごく遅く見えたんですよ。
なんでかなあ、と思ったら、違うんです、
自分が速かったから、相手が遅く見えただけなんですよ!
見ていた人に話を聞いてみたら
「相手も動き、よかったよ?」
というくらいの相手だった。
それをあとでケビンさんに話したら
すごく喜んでくれた。
「それが、僕のやりたいことなんです」って。

──なるほど! 運動選手とトレーナーの関係、
  よくわかりました。
  僕ら一般の人間のトレーニングとは
  格段にすごいことをやっているけれど、
  でも、同じでもあるんですね。

そうですね、ケビンさんはフィットネス一般の
パーソナル・トレーナーだから、
プロのスポーツ選手だけ、を、見てきた人ではないんです。
プロも見れば、一般の人も見る。
そういうジムが、トータル・ワークアウトなんでしょうね。

──どうもありがとうございました!

トレーナーって、
やりがいがありそうな仕事だなあ。


ケビン山崎さんのもと、トータル・ワークアウトには
十数人のパーソナル・トレーナーが常駐して
選手や、僕らのトレーニングを見てくれています。
TKは話をしてくれたあと、
トレーナーの竹下雄真くん(ユーマ)に
サポートしてもらいながら
もくもくとトレーニングをこなしていきました。



ユーマは、清原選手はじめ、いろんな運動選手のトレーニングを
ケビンさんのもとでサポートしている、頼もしい男です。
さらに、darlingや僕(シェフ)や
メリー木村なんかのトレーナーも
いやがらずに、やってくれてます。アリガトー。

しかし、そういえば、俺らの先生であるユーマの話って、
やっぱりちゃんと訊いたことなかったなあ。
というわけで、トレーニングの合間をぬって、
いろいろ訊いてみました。

──そもそもケビンさんのところで
  パーソナル・トレーナーをするようになったのは
  どうしてなの?

高校まで野球をやっていて
さらに格闘技をやりたいなと思いながら、
スポーツの専門学校に行っていたんです。
そこにボス(ケビン山崎)が
講演に来るというので、行ってみたんです。
公演の内容も凄かったんだけれど
いちばんインパクトを受けたのは
当時のケビンさんの体格です。
腕が凄かった。
ありえない、見たことないレベルで。
「ああいうふうになりたいなあ」
というのが、ケビンさんに興味を持った
最初のきっかけですね。

ケビンさんは当時シアトルで年に2回、
パーソナルトレーナー研修というのを
やっていました。
自分でもトレーニングしながら
運動生理学の知識だとかを学んで、
パーソナルトレーナーになる研修を受けるんです。
処方のしかた、人づきあい、話し方、
そういうことを勉強しつつ、
運動選手のような食事メニューで、
カラダをつくっていくんです。
そうしたら、気づかないうちに、カラダが変わった。
3週間で8キロ、筋肉が増えたんです。
日本に帰ってきて、親から友達から驚かれたんです、
変わったな、って。
それがとても心地よかった。
パーソナル・トレーナーになったら
この心地よさが人に与えられるんだ、
と思ったとき、
トレーナーという職業に就こうと決めました。




──トータル・ワークアウトにいるような
  パーソナル・トレーナーって、
  実は、少ないですよね。

そうなんです。トレーナーという職業じたいが
まだ一般的じゃないのかもしれないですね。
というのも、 深夜帰宅途中に、
おまわりさんに職務質問を受けたんですけど
「パーソナル・トレーナーです」
って言っても、わかってもらえなかったんですよ!
「インストラクターでしょ?」って。

──がんばって、認めさせないとね。
  トレーナーって、種類があるんですか?

ええ、大きく2つにわけると、
アスレチック・トレーナー
ストレングス・トレーナー
がいます。

怪我をした人を、その現場復帰まで補助したり、
テーピングをしたりするトレーナーが
アスレチック・トレーナーで、
これは、日本にも現状として何人かいらっしゃいます。
アメフトのチームだとか……。

そして、僕らのような ストレングス・トレーナー。
いまある能力を延ばして、強く、はやく
鍛える手伝いをするのが仕事です。
“運動能力を増やす専門家”ですが、
こちらは、あまりいないと思います。

──トレーナーの喜びって、
  やっぱり担当した選手が、勝つこと?

ぼくは選手の人を見る、ということについては
ケビン山崎のアシスタントにつくことが多いので
そういう観点でしかわからないですけれど
選手の人が何かを得て喜んでくれたり
試合に勝って嬉しいと、僕らも同じように嬉しいです。
それがやりがいになっていますよ。

でも、一般の方も、カラダが変わると喜んでくださるし
回りの人に褒められたよ、とか、
モテるようになったぜ、
奇麗になったって言われたわ! なんて言われると
僕も、すごく、嬉しいですね。
人が変わっていくのを見ているのが
とても楽しいんです。
また、太り過ぎて健康を害していた人が、
健康になっていくのを見るのも、
本当に嬉しいことなんです。

──そいつは僕だな。腰痛、肩凝り、が治ったもんな。
  これからもちょっと、胸板厚くして、
  肩幅つけたいんだけど。

いいですよ、ばしばし行きましょう!

トータル・ワークアウトの
フィットネスセミナーのおしらせ。

さて、「トータル・ワークアウトについて
もっともっと知りたい」という方、
「ケビンさんの話をちゃんと聞いてみたい」という方、
「トレーナーになってみたい」という方、など、
きっと、いらっしゃることと思います。
そんな方は、6月23日に東京・青山で行われる
トータル・ワークアウト・フィットネスセミナーに
ぜひ、ご参加ください。
詳しくは、トータル・ワークアウトのホームページ
ごらんくださいね〜!

さ、トレーニング行ってきます。
シェフ武井でしたっ!

2002-06-17-MON

TORIGOOE
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