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ほぼ日事件簿・こんなことでした

コーヒーテーブル事件


事件はこのメールから始まったのでした。

*****

雨季のバリ島から 糸井重里様へ

しばらく前に連載していた
「横尾さんのインターネット」を見ていて、
ヤヤヤッ、いやまさか、
もう一回度の強いメガネをかけて見て、
ヤヤヤッ、間違いない、あれは絶対そうだ、
なななんと糸井さんと横尾さんの間に
私が作ったテーブルが写ってるではないか。
喜びもつかの間、なんか変なので
さらに度の強いメガネで見たところ、
ヤヤヤッこれは何としたことか、
天板のガラスが傾いてる!
どうして、写真のせい?
いやいや第2回ばかりでなく
第3回もやっぱり傾いてる、
第6回になるとさらに傾きは激しくなり、
上の壷がもうほとんど滑り落ちそうである。

どーか、おねげーでごぜーますだ、
消費者苦情センターへ訴える前に、
作者のあっしに修理させておくんなさいまし。
と言っても、今あっしはバリでファッションビル
の建築設計にかかわっており、
1月末までバリに釘付け状態。
なんとかつっかえ棒をしてしのいでおくんなさいまし。

菊池 由見子

*****

これにはdarlingもびつくりで、

*****

ほぼにちわ。darlingdarlingです。

びっくりしました。
あのテーブルが!?

どうしてあるのか、忘れてしまいましたが、
つくった人がいるのは当たり前ですよね。
なおしてくださるのなら、
いつか、お願いします。

バリは、ぼくも大好きです。
こんどの正月は、家族の仕事の関係で行けないのですが、
毎年の正月はバリだったんです。
こんど、バリに行ったら、訪ねさせてください。

ありがとうございました。


*****

とお返事を返した、というのが去年の12月。

そうしたら、昨日、
postman宛にメールがきました!
予告の1月末だ!

*****

ほぼ日のみなさま、

お久しぶりです。
以前お便りしたバリ島の菊池由見子です。

今東京に来ています。
バリのプロジェクトが大詰めにきているので
今回は1週間しか日本にいられませんが、
お約束したようにテーブルの傾きを
修理したいと思います。
突然ですが今日はどんな状態か
とりあえずチェックしたいと思いますので、
お訪ねしてよろしいですか?


*****

なんて律儀なええ人や!菊池さん!
そして、早速来ていただくことに。


コーヒーテーブルをチェック

菊池さんは、日によく灼けた、
太陽の匂いのしてきそうな素敵なかたでした。
菊池さんは、バリ島で
20年前から創作活動をされているかたで
東京のコンランショップがあるOZONEプラザで
展覧会をなさったこともあるというプロフェッショナル。

自分の作った家具、あんなに不鮮明な写真でも
やっぱりわかるんですね。
自分の分身ですもんね。すごいなあ。

来られるやいなや、テーブルをわしづかみにして
「あら、あのカメラで見たときほどでは
 ないですね」
とチェックすることしきり。
でも、どうやら、バリから輸送するときに
ばらばらにしてから持ってくるので
それを元に戻すときに、間違った組み立てかたをして
傾いてしまったんだろう、ってことでした。
その傾きを直すべき箇所が接着剤でかたくかたく
塗り固められており、
直せない状態になっていたのでした。

「でも、さらに、直したい部分があるの。
 これを見てください」
と写真のファイルを取り出されました。


ファイルを見る

そこには、うちの事務所にあるのと
まったく同じテーブルが。
しかし、何かが違うのです、何かが!

「そうです。このテーブルのこの形の意味はね、
 ここにグリーンを置いていただかないとね、
 作者の意図に反してしまうんですよ〜! ああ!」
と嘆かれています。

つまり、これが、本来事務所で置いてあった姿。


作者の意図に反している

そして、本当にあるべき姿。


作者の意図

ぜんっぜん、違うでしょう!

菊池さんは、私たちが、
この辺りにはスーパーくらいしかなくて、
花屋もなければ、草木の生えている土地もないですから!
と制するのも聞かずに
「でも、ちょっと、雑草でもつんできます」
と言って出かけてしまわれました。アクティブ!
ていうか、ここは、アスファルトの街東京ですし!
雑草とかあるかなあ。

やはり、自分の作ったものに対する思い入れは強いです。
今まで、文字どおりほったらかし、
にしていたdarlingも
「もったいないことをしてた!」と反省しきり。
ほんとにまあ、このコーヒーテーブル、
一夜にして、大脚光をあびたのであります!



そこへ、スーパーの紙袋を持って菊池さん再登場。
「なんでもいいんですよ! 緑ならば!」
と、取り出されたのは、
ニラ、ほうれん草、春菊・・・
おえおえ! 菊池さん、日本の味が恋しくて鍋ですか?
まさか活けちゃうんですかっ?


わたしたちは野菜です

驚いている我々を尻目に、がんがんとコップに
ニラやらほうれん草を活ける菊池さん。
やおやか、家具屋かわかりません!

でも、ご覧下さい。それをこのコーヒーテーブルに
あしらうと・・・。ほら、こんなに素敵に!





「こうやって使うものだったんだ! 知らなかった。」
「すごいっ! 全然いいっ! 生き返った感じだ!
ガラスと、この下の木の色と合うね、合うね」

一同、ニラやらほうれん草付きテーブルを見て、
大騒ぎです。



「これね、コーヒーテーブルだから、
 ここでこう、緑を見ながら
 お茶なんかすると、気持ちいいんですよ」
と、菊池さんは、やっと満足そうな顔をされていました。

「なるほどなあ! バリに行きたくなっちゃったなあ。
 ほんとに、ありがとうございます。」
 
darlingもご満悦です。
このコーヒーテーブルは
4、5年前に三越かどこかの百貨店で買ったもので
そのたまたま買ったテーブルの作者が
たまたま写真に映りこんだ自分の作品を
たまたま見つけて、連絡をしてきてくださった、
という「たまたま」が引き起こした事件なんですよねー。

ちょっとグリーンを加えただけで
こんなに素敵になってしまうとは。
そのことをもとから考えに入れた設計だったとは。

ほかにも、「知らない」ことによって
無駄にしてしまってるものってあるのかも。
ちょっとしたことで、すごく気分がよくなったり
楽しくなったりするもんなんですよね!
世の中は!

そんなことを言い合いながら、
しみじみとニラを愛でる、
darlingとほぼ日スタッフでした。

菊池さん、本当にありがとうございましたっ!

*このページで使用された写真は、
 Canon 「Power Shot G2」で撮影しています。

2002-02-01-FRI

TORIGOOE
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