湯村輝彦×糸井重里  ごぶさた、ペンギン!  『さよならペンギン』復刻記念 なつかしはずかし30年振り対談 湯村輝彦×糸井重里  ごぶさた、ペンギン!  『さよならペンギン』復刻記念 なつかしはずかし30年振り対談
#5 どんな仕事が来ても平気だった。 #5 どんな仕事が来ても平気だった。
糸井 そもそも、『さよならペンギン』は
湯村さんが出版社から「なにか絵本を」って
頼まれるところからはじまったんですよ。
湯村 え、オレが?
糸井 そう。
で、「糸井くん、やる?」っていうパターン。
ぼくと湯村さんが
当時やってた仕事はみんなそうですよ。
湯村さんが頼まれて、
しょっちゅう会ってたぼくに声がかかる。
湯村 そうか(笑)。
糸井 たぶん、湯村さんとしては
ひとりでぜんぶやるのは面倒だな
っていう気持ちもあっただろうし、
ぼくに声をかければ、いろいろそろえて
お膳立てしてくれるだろうな、っていう
目論みがあったんだと思うんですけど。
湯村 (笑)
糸井 で、そのあと、
ふたりで打ち合わせをするんだけど、
まぁ、オレと湯村さんの仕事って、
しゃべってなにかができるっていうことは
じつは、あんまりなくて、
けっきょく、それぞれに持ち帰って、
ひとりの仕事になるんです。
湯村 うん。
糸井 打ち合わせしようか、って言っても、
いつも違う話をしてるだけだから(笑)。
とくに湯村さんは、
「こういうテーマで、こうやって」
みたいなことを言わない人だったし。
「いいのができるからネ」とか、
そういうことははっきり言うんだけど。
湯村 ふふふふ。
糸井 で、ぼくは当然、
「やりたい!」って手を挙げたんだけど、
なんでも「やりたい」って言うわりには
なんにも考えてない若者でね(笑)。
この本のときも、あとから悩んだ。
で、こういうのはどうですかね、って、
恐る恐る湯村さんに言ってみたら、
「いいんじゃない?」って。
一同 (笑)
糸井 まぁ、これにかぎった話じゃないけど、
どんな仕事が来ても平気だったですよ、
湯村さんは。
湯村 いや、そんなことないでしょ。
糸井 いや、ほんと。
で、言うだけじゃなくて、
じっさいにどんな仕事でも‥‥
あ、ひとつだけダメなのがあった。
「メカは描かせないでくれ」
って言ってた(笑)。
湯村 ああ、そうそう(笑)。
糸井 「メカを描かせないでくれ」と。
「自転車は困る」と。
一同 (笑)
湯村 自転車はね、ほんとに、
いま描けって言われったって、
イヤだなぁ。
糸井 「機械ものは
 鉄棒ぐらいまでにしてくれ」って。
一同 (笑)
湯村 自転車を描ける人は、いまでも尊敬するよ。
ところがさぁ、
糸井はそれをおもしろがって、
わざと描かせるんだよね。
糸井 そうそう(笑)。
もう、すっかり親しくなって、
自転車とかイヤがってるのを知ってから、
なんかの仕事を受けたときに
自転車を描かざるをえないようなことを
なにげなくリクエストするの。
湯村 郵便配達とか、描かせるんだ。
一同 (笑)
糸井 そうそう(笑)、
よく憶えてますね!
郵便配達の絵だったら、
どうしても自転車が必要だから。
湯村 困るんだよ。
糸井 あと、ロケットとかね。
湯村 ロケットとか、ロボットとかね。
糸井 でも、けっきょく、
絶対に湯村さんの世界になっちゃうんだけど。
湯村 まぁ、そのとおりに描かないからね。
糸井 完全に湯村さんのほうが、うわてなんです。
逆に、ぼくがやられて
すごく困ったことがあってね。
湯村さんの描くマンガの原作を
ぼくがやってたとき、コマ割りっていうか、
「だいたいこんな感じで」っていうのを
適当な絵と、簡単なセリフで
簡単な絵コンテみたいにして渡したら、
ぼくの描いた適当な絵を
わざと写して仕上げたんだよ。
湯村 ふふふふふ。
一同 (笑)
糸井 あれは困った(笑)。
自分が描いただけに、困る。
「これ、いいんじゃない?」って言って
素人の描いたバランスの悪い絵を
そのまま写しちゃうんだから。
湯村 あのころはね、コピーなんてないから、
こう、紙を重ねてね、
窓ガラスへ当てて、こう描く。
糸井 ひどいよね(笑)。
世の中にないでしょう、
打ち合わせ用の絵コンテをそのまま写す人は。
湯村 いまだと、同席したデザイナーが
ものすごくしっかりしたラフを
その場で描いてくれたりするよね。
もう、これでいいじゃん、みたいな。
これ写して描いちゃおうかな、みたいな。
糸井 それはさ、新人原作者の絵コンテを
わざと写して描くのとは真逆の話でしょ。
湯村 ふふふふふ。
糸井 そういうね、デタラメなすごいことを、
つぎつぎに発明してたんだよ、湯村さんは。
それは、おもしろかったよ(笑)。
しかも二十代だし、
それでいて世の中の流れなんて
ぜんぜん気にしてないしね。
湯村 おもしろかったねェ。
2011-04-05-TUE